41、※まだ町にはついておりません
コトコトコトコト
夜の森の中で奇妙な音が木霊する。
その音源からは食欲をそそられる香ばしい匂いがした。
『シショー、まだぁ?』
茶色の可愛らしいぬいぐるみのような子熊、ランは勇馬に問いかける。その口元からは可愛らしいヨダレが垂れている。
「まだだラン。鍋では蓋をあけるタイミングすら重要になる」
それに答えるのは絶世の美人としか言いようがない容貌を持つ青年、黒輝勇馬だ。
ちなみにこのセリフは適当であり、ただもう少しだけランの可愛らしい姿を見たかっただけだったりする。
さらに言えばこの鍋は元ランの親である大熊を主体とした熊鍋である。それを躊躇いもなく食べようとするランも勇馬も恐ろしい。
さらにさらに言えば この鍋の火はランが神法でつけていたりする。もう本当に躊躇いがない。
「よし!いいぞ、ラン!開けろ!」
『ラジャァー!』
ランが鍋の蓋を風の神法で持ち上げ、勇馬が一瞬で配膳を済ます。どちらも人間業ではないスピードと精度である。確かにランは人間ではないが・・・。
まさしく才能の無駄遣いであった。
「『いただきます!』」
そうして盛り付けられた具材を一気に口へ掻き込む。この時ばかりは普段優しい性格のランですら元の熊の血を遺憾なく発揮する。
『マスター、例の緑龍の解析が終わりました』
一冊の書物、“賢者の書”に字が浮かび上がる。
あの緑龍から逃げたのはつい1日前。本当にあの龍には殺されかけた。
よって【鑑定】のスキルを持つ賢者の書に解析をお願いしていた。
「おう、それでどんなんだった?」
『まず、あの龍はやはり特殊個体と見て間違いないでしょう』
特殊個体、この世において特別な力を持つ生物のことを指す。ランもそのうちの1個体だ。
『まずあの龍の種族名は“風龍ラヴァ・ハート”、ランクはA+、もう少しで風真龍へとなりえます』
真龍は龍の中でもトップクラスに強い。
ランクは最低でもSランク。超災害レベルだ。
確か阿修羅、海蛇がB−、イソギンチャクがB+だから・・・果てしなく強いことになるね。
『そして特殊個体としての能力は・・・マスターと同じです』
・・・?ドユコトですか?つまり斬撃か?
『そこではありません。ラヴァ・ハートは聖石及び魔石を喰らうことができます』
・・・そこかよ。だがそれは非常にまずい。つまりそれは・・・
「スキルを大量に持ってるのか?」
『そうですね』
聖石や魔石は食べても【称号】は獲得できないが【スキル】は取得できる。戦闘においてはステータスだけでなく、【スキル】も重要になる。
『ついでに言えば、もちろんステータスも全負けです。特にMPとMGPは』
・・・ですよねー。
やべー、やっぱあれとは戦いたくねーわ。無理無理、簡単に喰われるよ。
あ、そう言えば・・・。
「ランが急にアレに神法放とうとした理由は分かるか?」
ランはあれは故意ではないと言っていた。であれば他の何か・・が原因に思える。
『あれもラヴァ・ハートの特殊能力にすぎません。【闘争精神】と言うスキルが原因になります』
じゃあ、俺に効かなかったのは?
『これは推測ですが【封印】の効果かと』
【封印】、このスキルは神法関係のステータス、称号、スキルを全て使えなくするスキルだ。これのせいで俺は神法が使えないし、神法に対する耐性もない。最近はMGPだけなら上昇しているのだが・・・。
それが何故役立ってんの?
『【封印】は魂を壁で囲んで魂の力を外部に出さないようにしています。この魂の力が神法になります。ここまではよろしいですね』
おう、なんとなく。
『マスターは魂の力を外に出せないがために神法が使えません。ただし、これは同時に外部から魂への攻撃を防ぐ障壁でもあります。それによって【闘争精神】が効かなかったのかと』
・・・なるへそ。
『ラヴァ・ハートは強いですが【闘争精神】を使っているため自分から狩りに行くことがありません。こちらから害を与えなければ逃げられます』
そーか、なら別に戦うことを想定しなくていいのか。
『・・・推測もありますがね』
オッケー、じゃあ鍋を・・・ねぇな。
俺が鍋を食べようとして、目を向けると鍋の中には茶色い物体しかなかった。その茶色にはすごーく見覚えがあった。
「・・・ラン?」
『シショー、これおいしーよ!』
ランだった。
ランの体には鍋の具材がへばりついていた。
そして・・・やはり鍋の中身はなかった。
・・・俺一杯しか食えてないのに・・・。
ランが何かを察したような顔をした。だがもう遅い。
「ラン・・・お前明日1日飯抜きな」
『許してシショォォオオオオオ!!』
結果、ランはすごいレベルでもふもふされることになるのだが・・・それもまあまあの不幸であった。




