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29、歩む者と踏みにじる者

 剣を握る手にさらに力を加える。まるで自身の勇気を鼓舞するかのように。


 眼を細めただただゴリラを見つめる。相手の挙動の一つ一つを理解するために。


 息をゆっくりと吸い、吐く。これだけで思考がクリアになった。


 もうゴリラは待ちくたびれたようだった。


 俺は一歩踏み出す。ゆっくりと。踏みしめるように歩み出す。


 地響きが鳴る。相手も草木を踏みにじるかのように前進する。


 お互い加速する。進む速度が。どんどん加速して行く。


 お互いの距離が1mに届くかと思う頃には最速の戦いの火蓋が切られようとしていた。


 そしてその合図を鳴らすが如く、剣と拳がぶつかり火花を散らした。


 この瞬間、その周囲におぞましいほどの殺気を充満させながら血を血で拭うような殺し合いが始まった。


......................................................................


 足りない


 勇馬はただそれだけを感じていた。


 目の前の強敵の一撃一撃を弾き返すには馬力が足りない。


 目の前の強敵の動揺を誘うには脚力が足りない。


 目の前の強敵の必殺を受けるには丈夫な身体が足りない。


 目の前の強敵の分厚い皮膚を突き破るには怪力が足りない。


 なにもかもこの目の前の強敵には劣る。なにもかも足りないようにしか思えない。


 【瞬脚】も【雷攻撃】も【剣術】も【闘術】もなにもかも使わせてくれない。使わせる暇をくれない。


 ステータスが明らかに、圧倒的に劣っている。


 それほどの本来なら逃げなければならない敵。


 今でも俺が生きていられるのは一重に今まで磨いてきた技によるもの。


 出来るだけ構造上、相手の攻撃が届きにくい、最低でも攻撃が行い辛い所を位置取る。


 強力無比な攻撃は剣で受け流して行く。


 相手の動きを見てそれに対応するように動く。


 それによって俺は今ここまで()()()()()()()()


 だが、それでも逃げられるだけ。


 【瞬脚】の準備のために後ろに下がっても距離を詰められる。


 剣で斬ろうとしてもゴムのような皮によって跳ね返る。


 【雷攻撃】に関しては使って仕舞えばSPが大幅に減る。外せない一撃だ。下手には使えない。


 やはり足りない。


 自身にはこの目の前の強敵を殺すための力が足りない。


 ゴリラの剛拳がいつのまにか目の前に振り抜かれていた。


 轟音


 勇馬は吹き飛ばされていた。


 なんとか咄嗟に剣を盾にしたお陰で死んではいないものの、壁にぶつかった衝撃で相当なHPが減少していた。


 剣も少しひびが入っている。


 自身の無力さはわかった。


 コイツの前では俺は被食者。


 だから回せ!


 死にたく無いのなら!


 頭を回転させろ!


 生きたいならば考えろ!


 【並列思考】、【高速思考】、そしてステータスを表示し勝利の可能性を模索する。


 敵の剛拳をいなし続ける。


 俺の腕が加速する。


 「ぁああああああああああああ!!!!」


 敵の肌にうっすらと傷口が開く。


 赤い鮮血が舞う。


 「ガァアアアアアアアアアアア!!!!」


 敵の剛拳も先程よりも明らかに多く発射される。俺のことを遂に完全な脅威と認めたのだろう。


 だが、それは動揺と同意義だ。


 俺はしゃがみこみ、それと同時に【瞬脚】を使用する。


 ゴリラの股下をすり抜ける。


 そしてすり抜けた瞬間、俺は全身を利用しブレーキをかける。


 そしてまた、【瞬脚】を使う。


 逆側、つまりゴリラの背中へと身体の向きを変えて。


 脚に痛みが走る。だがなりふり構ってはいられない。


 剣の先をゴリラに向けるようにして加速する。


 間も無く、剣を掴む手から衝撃、それに続いて嫌な感触がした。


 「が、ガァァアァアアアァアアアア!!」


 咆哮が起こる。剣がそれに続いて振動を起こした。


 だが、どれだけ叫ぼうと俺の勝利はもうほぼ確定だ。


 そしてそのスキルのスイッチを入れる。俺の必殺技のスイッチを。


 蒼い閃光が瞬いた。


 目の前の肉壁の傷口から蒼い雷閃が漏れ出す。


 その光が無慈悲にもその肉を食らって行く。


 周りが照らされたていた。


 数秒もすると焦げ臭い匂いがそこら中に広がっていた。


 ゴリラの原型は既になく、灰へと還っていた。


 勇馬はただただその光景を見つめていた。


 そして・・・


「し、シャアアアアアア!!!」


 勝利の味を噛み締めた。


 勇馬はこの日、この森のピラミッドの頂点へと上り詰めた。

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