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21、勇馬のコンプレックス●

「もう、なんだかんだでこの生活にも慣れてきたな。アゲハ」

「だね。勇馬くん」


 遭難から約二週間、俺たちは未だに例の洞窟で生活を送っていた。服装は泥だらけのこちらの服から元の世界の制服にチェンジした。また洞窟はアゲハの精霊によって変形しており、十分に暮らせるレベルになっている。


 やはりアゲハの精霊は便利で何度も窮地を助けられている。火起こししかり、水しかり、換気しかり、魔獣仕留めるのしかり、回復しかり、正直に言ってチートオブチートだった。


 だが思わぬところで俺のスキルも役に立った。【万能味覚】だ。これのおかげで何が食べられるか、何が食べられないかということがよくわかった。サバイバルには必需的なスキルだった。


 そんなわけでサバイバルの割には高い生活水準の俺たち。アゲハもご機嫌そうで何よりだ。


 もうじき今日の日も沈む。いつに王都に帰られるのか・・・わかったものではない。


 するとアゲハは俺に言う。


「勇馬くん・・・帰りたいと思ってる?」

「あ? そりゃあ王都に帰れるなら速攻で帰ってるよ。それがどうかしたか?」

「違うよ」


 見るとアゲハの目は強く真剣に俺を見ていた。


 そして続けてアゲハは話す。


「そんなことじゃなくて・・・元いた世界に帰りたいって思ってる? 地球に帰りたいって思ってる?」

「ああ・・・そういうことか」


 俺は納得した。あんな非情な世界に比べてこちらでの生活は充実している。確かにアゲハもそう思うのは仕方がない。


 だが俺は


「帰りたいって思ってるよ。家の奴らを残してこっちで暮らしていけないからな」


 そう、家の都合がある。たとえ普通を望もうが家がそれを許さない。さらに言えばあの脳筋どもにもそれなりの愛着がある。俺が奴らを幸せにしなければならないんだから。


 だからこそ俺は帰りたい。地球に。やり残したこと全てやってからじゃなければ俺は自由にはなれないのだから。


 するとそれを聞いたアゲハは


「そっか・・・そうだよね」


 とどこか悲しそうに、ぎこちなく俺に笑いかける。


 なぜそんな顔をされたのかわからんが、俺も流石に罪悪感を覚えるわけで・・・


「いや、確かにこっちの生活も楽しいぞ。でもあくまで俺にはやらなきゃいけないことがあるから・・・」


 俺は変な言い訳でアゲハを慰めようとする。


 しかし次の言葉に俺は絶句した。


「それって勇馬くんがやらないといけないことなの?」

「・・・は?」


 アゲハは絞り出すように、今まで堪えていたものを全て吐き出した。


 それは勿論だ。あんな家に長男として生まれたのだ。嫌でも使命は俺の中で残り続ける。


 だがアゲハは止まらない。一度流れ出したものは簡単には止まらない、止まれない。


「確かに勇馬くんはヤクザだよ! 息子であってもそれは変わらないと思うよ! ・・・だけど、だけど勇馬くん自身が好きに生きるっていう方法はないの!?」

「俺自身が・・・」


 好きに、生きる?


 そんな道、あったもんじゃない。俺は生まれた時からずっと使命を負っている。同時に罪も背負っている。好きに生きるなど俺には選べない選択肢なのだから。


「できるわけないだろう!!?」

「なんで!?」

「俺が全部、まとめて背負わないと駄目だからだ!!」


 俺はそう断言する。そう、それが俺の生き方。守るものは全て俺が守ることが俺の存在意義だ。


 その言葉にアゲハは上唇を噛む。そして・・・


「この・・・分からず屋!!」


 と洞窟から駆け出した。


 それに俺は暫くの間、呆然とした。


 ーー俺にそんな生き方なんてない。


 それを改めて感じた瞬間だった。


 洞窟の外からは雨が地を打つ音がよく聞こえていた。


 それから暫くしただろうか。アゲハは帰って来なかった。


 ...........................................................................

 〜アゲハ〜


「・・・勇馬くんには悪いことしたよね」


 私は独り言を木の傘の下、呟いていた。


 今は真夜中、灯りは精霊達が生み出してくれる。濡れた制服も今、レイドが温めてくれている。


 そしてほぼ裸の私は今、巨大化しているグリちゃんの羽毛の中で埋もれていた。ふわふわの羽はお日様のにおいがする。


 だけど、今はそれどころじゃない。


「どこだろう、ここ?」


 実は勇馬くんと離れてからずっと私は走り回っていた。1日動き回った筋肉の疲労も忘れて。


 そしてまた疲労が出てきたころにはそこはまったく見覚えがない場所だった。


 最初の遭難の時といい、私は道に迷う才能があるようです。要らないけれど。


『アゲハー、なんであのお姉さんに怒ったの?』

『そうっすよ、あのお姉さんのこと物凄く好きっすよね』

『そうですよ。この前、ヘアピン貰えたー!と喜んでいたじゃないですか』

『You are stupid?』

『馬鹿?』

「ち、違いますー!! あとグリムとピンはただの暴言でしょ!!?」


 まったく、みんな私のことからかうんだから・・・でも嫌いでもないけど。


『『『『『できてるぅー』』』』』

「いつもの言い方と違うでしょ!!? グリム! ピン!!」


 どこぞの青猫を彷彿とさせる言葉に私は全力でツッコミを入れた。だからそんなのじゃないんですー!!


 それにしても本当にどうしよう。


 このままじゃ本当に王都に帰れない可能性も・・・。


 するとレイドが・・・


『!!? ・・・大変だよ、アゲハ! 今すぐ逃げて!!』

「え?」


 すると景色はいきなり変動する。


 地上にいたはずの私はいきなり空に。


 そして私が元いたはずの場所は・・・


「・・・何あれ?」


 白熱する炭になり風化していった。


 何が起こったかすらもわからない瞬足の出来事に私の思考はついて行かない。


 だけれど・・・精霊からの警告はさらに続く。


『グリちゃん! 次は左から!!』


 瞬間、グリちゃんは錐揉みながら空を駆け抜ける。私は落とされそうになるところをなんとか堪える。


 そして私は見た。


 漆黒を斬るような黄色い流星を。


 私はその清廉さに思わず見惚れてしまった。そしてそれが・・・


 ーーバリッ!!


 死を彷彿とさせる隙へと繋がった。


 グリちゃんに突撃するように駆け上る極光。


 ーーこれは・・・死んだかな。


 瞬間、頭にいくつもの今までの経験が呼び起こされる。


 初めて蓮ちゃんと出会って、二人で遊んで、笑いあった日々を思い出したり。


 園田くんの身長の成長は本当に小学校から伸びていないんだな、とか思ったり。


 アルベルトさんには優しくしてもらったな、とか。ほのかちゃんは面白かったな、とか。たまに変な視線を感じるな、とか。


 ・・・もう、勇馬くんとは会えなくなるんだな、とか・・・ね。


「最後ぐらいは・・・謝りたかったよ」


 勇馬くんの家というコンプレックスに触れてしまったことを。独りよがりな感情で傷つけてしまったことを。


 ーー勇馬くんには自分らしく生きて欲しいっていう願いで傷つけてしまったことを。


「・・・さようなら」


 どうか神さま、勇馬くんをせめて幸せにしてあげてください。


 そしてついに黄色の猛突は私を飲み込みーー















「よう、アゲハ」


 優しく、包みこまれた。


「ゆ、勇馬、く・・・ん?」

「おい、逆に誰に見える?」


 なんで?


 さっきあんなに酷いことを言ったのに。・・・なんでここにいるの? どうやって見つけてくれたの? なんで・・・


 勇馬くんはいっつもそうなの?


 顔が熱を持った。


 暖かくて、恥ずかしくて、嬉しくて・・・ありがとうって言いたくて。


 そして勇馬くんの目が変わる。怒りを露わにしていた。


「とりあえず言いたいことは色々あるだろうがとりあえずグリちゃん(?)を使って逃げろ。できればアルベルトさんとかがいれば呼んできてくれ。ああ、あとできればブルは置いていてくれると助かる」

「え? それはいいけど・・・どうして?」


 そして次の言葉を勇馬くんは当然のように言った。






「囮をするからだけど?」

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