20、移動216時!!●
「・・・なあ、アゲハ」
「・・・何? 勇馬くん?」
俺たちは木に三角座りでもたれながら枝の隙間から見える空を見ていた。隣のアゲハは目が死んでおり、眼の下のくまが非常に酷いことになっていた。恐らくは俺もそうなのだろう。
その確信を持っている理由は至極単純、すなわち・・・
「今日で何日目の夜だ?」
「・・・9日目だっけ?」
そう、未だに遭難していたからだ。ちなみにその間ずっと寝てない。寝る場所もないので魔獣だらけの森で寝るのは無理な話だ。
そんなわけで俺たちは二人して思考はまともに働いていない。いつ魔獣の餌になるかもわかったものではない。そろそろアルベルトさんも気づいていると思いたいがどうなることか。
「早く、寝たいよ・・・」
「どこか死角があればそこで寝るぞ、アゲハ」
「りょう・・・かい」
やはり俺たちはもう限界ぽい。今、死角を探すために立ち上がろうとしてもふらふらと彷徨うばかりだ。
「ねえ、最後のお、お願いだ・・・から・・・襲わせて?」
「おい、今やけに『襲わせて』の部分だけ明瞭に聞こえたんだが・・・お前、本当はまだヘッチャラだろ。あと今ボケに走ってる場合じゃねぇだろ」
「ボケではありません!!」
「いいから行くぞ!!」
・・・もう一度言っておきたい。俺たちは二人とも限界ぽい。ただしアゲハは限界突破した上でさらに思考が可笑しくなったようだ。
そして勇馬はツッコミの勢いで元気になったところで・・・両肩がいきなり重くなった。
「・・・アゲハ?」
その原因は疲れではなくアゲハだった。アゲハは自身の腕を俺の両肩を抱く形にしてもたれている。
「疲れたので運んでください」
「・・・まあ、助けてもらってるからそんぐらいはするけど」
「やった! それじゃよろしく!」
「ほいほい」
そして俺はアゲハをおんぶして進んでいく。九日間酷使した脚は悲鳴をあげるがなんのその。今、これをやらねば後でアゲハが怖いし。
幸いアゲハは胸はノーマル。よって多少何かは感じるが、そこまでの違和感はないので俺は特に問題なく進むことができる。
そう安心していると
「・・・ユゥマクン?」
後ろからとんでもない殺気が。また俺の周囲で光る五色の色はさらに増し、今にも何か物騒なものが出てきそうです。
俺は沈黙することしかできません。だって今、嘘ついた瞬間に殺、嘘をつかなくても殺、というとんでもない状況下にあるからだ。ただただ冷や汗しか流せない。
「ナニカヘンジシナサイ、ユゥマクン」
「・・・」
今後ろを向いてはならない。きっとそこには奴がいる! 後ろ向いた瞬間ヤラレル!!
もはやそこには恋愛ムードもクソもなく、ただのカオスな空間にしかなってはいなかった。
そして三時間後、やっとアゲハの呪文を唱える声は静まり、後ろから僅かな吐息が聞こえた。恐らくは背中で寝ているんだろうな、と開放感と同時に感じながら俺はさらに一歩前に進み出た。
そしてそのさらに一時間後、朝日がおはようした頃にやっと洞窟を見つけた俺はアゲハをそっと下ろして即眠りにつきました。
とりあえずこの眠りは誰にも邪魔されませんように、そう思いつつ意識を安らぎに落とした。
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「ーーぅまくん、ーーきて。おーて」
・・・うるさい。まだ一瞬も寝てはいないのだが。
そう思いながら俺は耳を塞ぐ。眠れない不快感と邪魔された不快感が自身の中でグツグツと燃え上がる。
「・・・“閃光爆音弾”」
ーーピカッ!!
つぶっていたはずの眼球が光に虐め抜かれる!
ーーバゴーンッ!!
蓋の役割の手を透過して轟音が鼓膜を叩き込む!
ーージュウゥ・・・
ついでに薄い服から伝わる超高熱は肌に密着して痛い!
合計三感を刺激され、頭で混じり合い爆裂する。
「ーーーーーーーッッ!!!!???」
声にならない声を喉で叫ぶ! 痛い!? 痛い! 終末期レベルで痛い!!!
「おはよう、勇馬くん」
そしてただいまあらゆるHPが0に近い俺にいい笑顔を向けてくるアゲハ。昨日の不機嫌は一切ないようだ。
だが・・・
「今のはお前か!!?」
流石に今回はこちらもキレていいでしょうよ。寝起きにロンドンなハーツすらも引くようなドッキリをしてくれたのだ。それぐらいはかまわんでしょう!
「うん、だって今もう12時だもん。レイド達が教えてくれたんだよ」
・・・午前12時かな? そうだとしたらまだ五時間ぐらいしか寝てないのだが・・・。
「ちなみに今は夜です」
「・・・オゥ、グレイト」
勇馬、エセ外国人になる。あまりもの混乱に勇馬はエセ外国人になる。(作者錯乱)
「そんなわけで起こしました。さて反論は?」
「・・・ありません」
まあ、九日間寝れてなかったわけだし、十七時間寝れてハッピーだったわけだな。
「んー、・・・ところでアゲハさんや」
「何?」
「なんで服を俺の前で着替えてんの?」
「勇馬くんならば大丈夫と信じているよ! そして大丈夫じゃなくても大丈夫!」
「意味がわかんねぇよ!?」
たしかに俺たちは九日間、飲む食う以外の時間は全て戦闘、索敵、移動ぐらいしか行っていなかった。もちろん服も異臭を放っている。
しかしだ。男の前で着替えるのはやめてくれ。お願いします。
こうして根城は作れたわけだが・・・それでも災難はまだまだ続きそうである。




