18、ヤクザでも土下座はします●
「ハァハァハァ・・・畜生! なんだってあんなバケモンがこんな所にいるんだ!?」
「わかんねぇよ! とにかく逃げるぞ!」
アトバ森林の深部、そこで彼らは走っていた。
普通ならばそこには経験値がいい割には弱いEランクの魔獣、ラビット・ホーンが巣を張っていた場所だったはずだ。そのためその巣は経験値稼ぎの名スポットとしてある程度有名である。
彼らもその巣を目的としてここまで来たのだ。
しかし彼らが見たのは食い散らされたラビット・ホーンの屍の数々、そしてその猛威を振るった一匹の獣。
それは彼らの記憶ではここにいるはずのない別次元の怪物。ランク相当B−に及ぶ明らかな災厄。
十数人いた熟練のパーティーの仲間は確かには見ていないがその生死は火を見るよりも明らかだろう。
「っーー!! ・・・お前だけでも先に行け」
「何言ってんだよ、カルム! お前だけでも一緒に帰るんだよ!」
「うるせぇ!! 俺には妻もいねぇんだ! お前だけでも生き延びろってんだ!」
カルムと呼ばれた男は勇敢にも後ろを振り返り、来るであろう獣に備える。カルムは腕を突き出し、神法の準備を行う。村では数人しかいない神法使いが今、その実力を見せる。
そんなカルムの肩を掴む冒険者、ドリュム。そして真剣な表情で彼の説得を行う。その表情は仲間を失うことへの恐怖で満ちていた。
「待て! お前一人で止められる相手じゃねぇだろ!? 正気になれーー」
しかしその瞬間、場は光で満ち満ちた。
刹那
「ぁ? あれ? オレのカラだ・・・」
「ドリュム!!?」
ドリュムの胸に風穴が拓けた。さらに肉体のほとんどは黒く焦げ、喉から灰が噴き出した。
そして炭化した身体は崩れ落ち、砕け舞う。
カルムは仲間の最後を失った憤激を全てぶつけようと神法を周囲に連射する。その数5発、爆発によってほぼ全域を破壊する。
「流石の奴も逃げられねぇだろ!!」
その魔獣の強さはなんといっても速さだ。だが逃げられないように全域を攻撃すればあるいは・・・
と希望を持ったカルム。
しかし、だ。
爆発の粉塵から突き抜ける黄色の閃光。穢れを一切知らぬその一撃は一瞬でカルムの腕を食い千切った。
そして炭化する過程の中、カルムはバツが悪そうに呟く。
「黄色い弾丸・・・なぜ、ここに」
そしてまた、黒に汚れた風が空へと吹き上がった。
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「・・・すみませんでした」
「何がなの? 勇馬くん?」
起きて早々、とりあえず俺はキャンプから明らかに離れた場所でアゲハに土下座で謝っていた。
もちろんその内容は昨日の一件である。あのままにしておいてはこちらもアゲハも気分が悪いままで終わるだろう、そう思ったが故の行動だ。
しかし、だ。そんな俺の英断に対してアゲハは戸惑っている様子でむしろ引いているような気がしなくもないのだ。
「ああ、もしかして昨日のこと? ・・・あれはぁ・・・、放っておいてよ。忘れたいから」
「了解だ。そのように努めよう」
ハムスター顔のアゲハ、忘却。カレーこぼしたアゲハ、忘却。顔真っ赤なアゲハ、忘却。昨日の話してた内容、忘却。
・・・よし、これでオッケーだ。
「よし、忘れたぞ。きっと」
「では私が服のシミ抜きをしてから行った行動を答えなさい」
「カレーを口の中にパンパンに詰めて逃げるように帰ってった」
「はい、ダウトね!」
「ズルい!」
だがまあ、機嫌は治ったみたいだし・・・よしとするか。
「それじゃ、キャンプの方に戻ろうぜアゲハ」
「うん! 帰ろ」
良かった、良かった。・・・て、ん?
「なぁ、アゲハ・・・」
「何?」
俺は周りを見回して一言。
「ここ、どこだ?」
俺、どの方向から来ました?
「まさか勇馬くんそんなことも分からないの?」
アゲハはそんな俺に向かって右手人差し指を左右に動かし、左手の中指を眼鏡をクイッと動かすようなモーションを行う。
やけにムカつくような行動だが遭難という最悪の事態は免れたようだ。
「ということはアゲハは!」
するとアゲハは自信満々に一言。・・・しかし俺はこの時知らなかったのだ。
「もちろん! ・・・どこだろう、ここ?」
「お前もかよ!!?」
俺がつい先ほど発した言葉は遭難フラグだということに。




