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九:したらしたで疲れる…恋。

 「…あ、あの駒井…」


 「な、何だ?渋谷」


 「ぃ…いや、何も…ないんだ。ただちょっと呼んでみただけだ」


 もごもごと眼を逸らして恥ずかしそうに瞳を伏せて言う俺。


 それを見た駒井が、


 「そ、そうか…」


 ちょっと頬を赤くして口元を押さえて、視線をあちらことらに泳がせる。


 ――あ…。


 コイツ、今俺のこと可愛いとか思ってやがる。


 「……」


 「……」


 しばしの沈黙が降る中、それでも変な気まずさはなかった。


 むしろそれが心地良いというか、このままでここで二人でこうして居たいなと思った。


 その思いを自覚した途端、また恥ずかしくなって耳まで真っ赤に熱を持った俺の口がへの字に曲がる。


 床とにらめっこしながら、己の中の変化をリアルに感じ取る。


 ――ああ…、なんだかおかしいな。


 とても、気持ちが温かい…。


 これはなんて言ったっけ?


 ああ…、そっか、そうだ。


 さっき知ったばかりだったのに、さっき思い出したばかりの感情だったからまた忘れそうになった。


 これは…これが、きっと『恋』と言うものなのだろう。


 「……」


 うぅ…。


 なんて、


 「渋谷?」


 恥ずかしい気持ちなのだろう。


 こんなにも『好き』という名の感情が俺にとって恥ずかしいものだとは知らなかった。


 なんでこんなにも、俺は顔を真っ赤にさせて、頬を火照らせているのだろう。


 














 「おはよー…」


 「おはよっ!君尋くんっ」


 「……水城」


 「なんでそんなに不機嫌そうな顔してんだ?…まさか、昨日あの後駒井とうまくいかなかったのか…?」


 水城が声を潜めて、げっそりと目の下に隈を作った俺の頬を突っつく。


 俺は席について、そのまま顔を机に伏せた。


 あー…眠い。


 激しく眠い。


 でも、学校に来た俺偉い。


 そんなことを心の中でぽつぽつ零しながら、水城を見て、


 「恋って自覚すればすればで疲れるもんだな…」


 「…は?」


 大きな重いため息とともにどっぷりといったふうに吐き出す。


 それというのも、全ては駒井のせいである。 


 「おはよう、渋谷。それから木村」


 「あ、駒井。おはよう」


 「…駒井…、死ね…!」


 「なんでっ?!」


 なんで急にそんなこと言われなくちゃいけないの?!


 俺は今しがた教室にやってきたばかりの駒井を睨みつけた。

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