七:それでも男か?ってお前…何言う気だよ?!
「はぁ…」
「うー…」
俺は重いどんよりとしたため息をはぁ、とわざとらしく吐き出すと机に頬杖をついた。
そして、目の前でひきつった頬をヒクヒクさせる親友をじと目で恨みがましく睨み、吐き捨てるように言った。
「だから、嫌だったんだよ馬鹿」
すると、
「…誰がこんなことだと思うかよ、阿呆。俺とほぼ同じパターンじゃねぇか…――」
水城も綺麗なお顔を皮肉に歪めて、机に両肘をつくと指を組み合わた上にあごを乗せてげっそりという風にうなった。
親友が今頭に思い浮かべているであろう人物=水城の恋人を、俺も同じように思い浮かべて、話に聞いた出会いを思い出す。
「ああ…えっと、雅貴さんだっけ?…俺らってホント嫌な意味で似た者同士だな」
「嬉しくないぞ」
「奇遇だな、俺もだ」
俺は頬杖を解くとそのまま後ろの机へと体を倒し、脱力した。
「……はぁ」
沈黙の後に俺の口から漏れ出るのはため息。
「……ため息つくな。余計気が滅入る」
「…うるさい。奈落の底まで存分に滅入っとけ。お前から聞きたがったんだしな」
同じくズーンと沈む水城に俺は冷たく言い放った。
「だから、まさかこんな事だとは夢にも思わなかったんだよ…俺もわざわざ聞かなきゃよかった。俺の馬鹿…」
そう言うと、水城は今更ながらにも事の始まり――この空気のきっかけを思い出し始めた。
「なぁ、お前ら喧嘩したのか?」
「何で?」
「いや、だってさ…めちゃめちゃ機嫌悪いし」
「…それを言うならぎこちないだろ…」
「わかってるなら、仲直りしろよ」
「喧嘩なんかしてないから無理。」
「じゃあ、どうしてそんなにぎこちないわけ?」
「…友達、だからだよ」
「…喧嘩はしてないけど、何かあったんだな」
「…さぁな」
「ふーん…。駒井と君尋の間で人には言いにくいことがあったんだぁ――何?」
「何が?」
「告られた?」
「…さぁな」
「否定しないってことはそういうのも有り、ってことか…」
「…お前は何なの?」
「秘密。」
「…余計な詮索してくるなよ」
「俺たちの仲だろぉ、別に良いじゃん」
「親しき仲にも礼儀あり。知ってるか?この言葉」
「親友には隠し事なし。良いよね、この言葉」
「…何が知りたいの?」
「お前と駒井のこと。お前が保健室に行った日からなんか変。」
「気のせいだろ」
「そっちから聞いてきたんだから、ちゃんと答えて」
「――強情な奴め…」
「それと友達なお前も同じ♪仲良くいこうぜ」
俺はため息をついて、ニコニコ笑う水城に保健室での出来事を全て包み隠さずありのまま話した。
そして今に至るわけである――。
「あー、もぅマジ俺の馬鹿ぁ…」
だらんと、両腕の力を抜き、下へ投げ出すと水城は眉間に皺を寄せたまま目を閉じる。
向かいにいる親友=君尋も同様に目を閉じていて、先ほどから変な奇声を上げていた。
「俺はね…水城。駒井みたいなやつとは友達で居たいわけなのよ」
俺はポツリとそう零し、また、その声を耳にした水城もポツリと返す。
「どーして駒井みたいな奴?…アイツ、もしかして好きな子には超べったべたの甘々でウザイタイプ?」
「…いや、そこまで酷くはないはずだが…ウザイタイプというのは否定できないな…」
「そっか…俺んとこと似た奴だったのか、駒井」
「お前も愛されてんだなぁ…んぅ?」
ふと視線を感じて出入り口に視線をやればそこには困った風に笑う駒井がいた。
「こここここここここここここここここ駒井ッッ!ななななななななななな何でここにっ!?いつから聞いてた?!てゆーか、居るなら声かけろよな!びびるじゃねーか…」
「普通そこまで驚かないな、うん。そんなに動揺してどの口が気のせいだとか言うんだよ。お前らがおかしいの周りに丸分かりだって」
俺の驚きっぷりにつられて視線を走らせた水城が両目を呆れたように眇めて、姿勢を元に戻すと、だるそうな表情で駒井に手招きした。
「おい、駒井。お前それでも男か?」
ぶすっとした不機嫌そうな低い声音で唐突に問うた水城に何を言う気だ?と、視線で投げかけるが教えてくれない。
だから、怪訝に思いながらも黙って促されるまま近くまでやってきた駒井をじっと見据えてみた。
駒井がその視線に落ち着かないような仕草を見せていたが俺はあえてそれに気づかないふりをして、じっと視線を注ぎ続ける。
いつも表情のある秀麗な顔を無表情にして無駄に威圧感を与える水城に若干たじろきながらも真剣さが篭もる問いかけの示すところをちゃんと察したらしい駒井が表情を険しくさせる。
威圧感を放ちつつ駒井を見上げる水城と、普段とはかけ離れた険しい顔つきで水城を見下ろす駒井はまるで傍から見ていると睨み合っているようにも見受けられた。
おいおい…なんでそんなにとげとげとした空気の展開にいきなりなってるんだよ。
「――渋谷。木村にあのこと話したの?」
「……やっぱ言っちゃやだったか?ごめん…俺、お前とのこと水城が不思議がってしつこいから喋っちゃったんだ…」
「別にそれはいいよ。…一つ、確認しておきたいんだけど渋谷はさ、俺とは友達で居たいんだよね?」
駒井が水城との睨みあいを一旦やめて俺のほうへ顔をむけた。
真っ直ぐと、俺から目を逸らさないで逆に見られている俺の方が目を逸らしたくなるほど切ない表情で駒井は静かに言った。
「………わかんない――」
どうしてだろう。
どうして俺は一度だした答えを、もう一度声に出して駒井に言えなかったのだろう。
一度口にして示した答えはわかっているのだから言うのは簡単だっただろうに…。
やっぱり、この痛そうな表情をする駒井を目の前にしているから言えないのか?
――多分、そうだ。
ツキリと胸が痛み、はっきりと言えなかった気まずさを言い訳に俺は駒井の眼差しから逃げるように顔を背けた。
だけど、駒井はそんな俺から視線を逸らさずに、ひとり呟くように水城に言った。
「…ほら、聞いたとおりだろ?渋谷は俺とは友達のこの関係で居たいんだ。この想いを知られて軽蔑をされるわけでもないし、ただの友達なら、それなら側に居ることも許される。心の中で想うだけなら別に自由だろ…?嫌がってる相手にがんがん攻める気にはなれないよ、俺は」
「そんな自信もないしね」と、とも駒井は付け足した。
「え…」
俺はそこでようやく水城の言ったことと、駒井が俺にあんなことを聞いてきたわけが今の台詞でつながり、俺は水城の考えていること――言わんとしている事を瞬時に悟った。
「水城…お前―――」
目を瞠る俺に、ご名答!と、水城がにやりと笑った。
「駒井とくっついちゃいなよ、君尋。そんなに悩んだり元気なくしたりするくらい、君尋は駒井のことが好きなんだろ?いい加減、今度こそ素直になりなさい!」




