四:誰もいない保健室?…一線を越えてしまうのか?!
「…なぁ、駒井くん。俺さ、本当にどこも悪くないんですけど。むしろ今日はかなり体調良いんですけど」
そこでじっと座ってるのは別にいいけど、寝てる人じっと見るのはやめてくれません?
「駄目だ、駄目だ。さっきあんなに顔赤かったじゃないか。それに、用心するに越したことはない」
確かにそうだけど、俺の顔が赤かくなったのはお前のせいだ。
「…年寄りくせェ」
「ほら、黙って寝とけ」
「……心配性だな、お前は。まぁ、丁度良いさ。面倒くさい授業に出ないで、堂々とサボってられるんだからな」
まぁ、勘違いした駒井と水城によって保健室に連れてこられたけど、それならそれでもいい。
授業サボる正当ないい口実になる。
「……それだけ喋られるんだったら本当に元気なんだな、渋谷。なら、オレと今からでも授業出るか?」
「――けほ、けほ。いや、いい。用心するに越したことはないからな。戻るならお前だけにしろ。俺は…ここで寝てる」
「お前、さっきは元気だとか言ってたじゃん。何、急に今の状況に甘えてんだよ。そんなことしてたら、襲うぞ?」
襲う?
襲うって何だ?
もし、性的な意味合いが含まれていたのならそれは男に向かって言う言葉じゃないぞ。
こいつ、知ってて使ってるんじゃないだろうな…?
「…ふん。やれるもんならやってみろ。でも、俺が思うにお前には無理だ。てゆーか、お前…男でも大丈夫なのかよ?」
「別に。そーゆーのに特に頓着しないから、オレ。それにお前可愛いし」
可愛いって言葉も男に使うものじゃない。
男が言われて嬉しい言葉じゃないぞ。
言われるなら当然かっこいいがいい。
…生まれてこの方言われたことないけどな。
「可愛かったら男でもいいのかよ…つーか、俺に可愛い言うな、馬鹿。駒井を好きな女子達が泣くぞ?せっかくモテんだから、お遊びならより取り見取りだろう。…だから、やめとけ。男同士でなんて、駒井には無理だ」
「オレには無理無理言うけれど、それならお前はどう何だよ?男もいけるのかよ?」
俺はいつも通りだけど、駒井はやけに突っ掛かってくるな。
なんでだ?
「…ふん。お前には関係ないだ――…ろ…っ!?」
俺の顎を取って、何をするつもりなんだろう。
押さえつけて、一体どうするつもりなんだろう。
やっぱりこれは、俺の中に浮かんだ展開になるのだろうか。
「…どうなんだよ?はぐらかすな」
――あ。
やっぱり。
「んっ!…ちょ、おい!やめっ……ふぅ…!」
今、駒井の唇が俺のそれに重ねられた。
「オレは今、男のお前にキスしてるんだぞ。それでも、まだオレには無理だって言うのか?」
信じられないけど、俺と駒井がキス、してる…――。
「ん…はぁ!――…何するんだよっ?!」
コイツ、何考えてるんだ…?
俺にキスって…何がしたいんだ?
「俺がお前自身を使って無理じゃないって証明してやるよ…そこまで頑なに、何を根拠に言っているのかは解らないけど」
証明――?
そんなにお前には男は相手できないと、無理って俺に言われたのが癇に障ったのか?
別にそれでいいじゃないか。
それが普通だろ。
普通はお前は男とはそういう行為はできないと強く言われて怒る奴がいるか?
お前は普通の男じゃなかったのか?
まぁ…なんにしろだ。
そんなことで。
こんなことで。
証明だとか言って、
「はァ!?ちょ…おい、止めろって!…ンッ!ァ…っふざけるのも大概にしろよなっ」
抱かれるのは俺の癇に障る。
実験のように試す感覚でそういうことはされたくない。
「俺はふざけてない。本気だ」
確かに本気の目はしてるけど、それが俺が黙ってお前に抱かれる理由になるとでも?
そんことされるくらいなら前言撤回だ。
お前は男ともできる。
これでいいのか?
「解った、解った!俺が悪かった。だからっ、やめろ!!こんなことをしても後でお前が後悔するだけだぞっ!?」
「…渋谷は、後悔しないのかよ。別にいいのかよ?」
――後悔?
なんだそれ。
「……はっ。お前には関係ない」
「お前さ、今の状況判ってんの?こーゆー時は素直に答えるべきだよ。じゃないと、オレやめてあげないから」
「ンっだよッ!なんで俺がお前の言うとおりにしなきゃなんないんだよっ…。意味解んねーよ、ばぁーかっ!」
なんでそんなにムキになるんだよ。
本当に、意味解んねー…。
「……渋谷、もしかしてこのまま続けて欲しいの?」
「ばっっ…!馬鹿!ち、違うぞ。違うからなっ!」
むかつくことを言う男だな。
そんなわけないだろう。
嫌がってる俺が目に見えないのか!?
そんな意地悪そうな笑顔見せて、マジムカつく。
「じゃあ、また質問…今度はちゃんと答えて?渋谷は矢上先輩と付き合ってたの?」
「ふ…ぁっ!ン…そ、こ…触んな。お前、まだそれを俺にっ…はァっ!訊いて来るのかよ…。しつこい奴だな…ッッ!?」
――しつこい。
しつこすぎる。
何もかもがいやらしくてしつこい。
「ほら、頑ななのもいいけど早く答えないと。オレ、渋谷を強姦することになっちゃうからさ」
「なら、やめろよな!第一男にこんなことして楽しいかよ?」
「どうだろう…他の男なら多分気持ち悪いと感じるだろうけど、渋谷は可愛いし、感じてる顔見てたらなぁ…」
「お前って、本当悪趣味だな。人の寝言を聞いたくらいでしつこく詰め寄ってくるわ、挙句には襲ってくるわ…。皆が知ってる爽やか好青年のお前はどうしたよ?駒井」
駒井のことがわからなくなりそうだ。
もともとそんなに親しくもなかったし、高校とクラスが同じなだけでよくは知りはしないけど。
「え、オレそんな風に皆から見られてたの?知らなかったや。渋谷もそう思ってたのか?」
うそつけ。
お前だって知ってただろうが。
みんなにどうみられてるかくらい。
俺にどう思われてるかくらい、知ってただろ。
「…ああ。お前と同じクラスになって今ここに至るまではな」
「そっか。じゃあ、今オレがこんなことしてるから、そのイメージが壊れちゃったのか。ごめんな、壊しちゃって」
爽やかに笑うな、そこ!
やってることがおかしいぞ。
人の上に乗ってそんなに爽やかに笑うな。
「別に。てゆーか、悪いとか思うならさっさと俺の上からどけて授業に戻ってくれ。お願いだから」
本当にどけてくれ。
そんなに無理って言われたことに腹が立ったんなら、いくらでも謝ってやるから。
俺で証明するのはやめてくれ。
十分解ったから。
「謝って事が起こらなければ良いとかって考えて言ってるから、やめてやんない。自業自得だって思ってオレに抱かれてろ」
自業自得だとか思っておとなしく誰がお前に抱かれてやるか!!
ばか!
俺だって男だ。
そんな屈辱じみた真似、ほいほいできるかっ。
「い・や・だっ!お前になんか抱かれてやんない。第一今は授業中だとはいえ、誰が来るか判ったもんじゃない。俺に変な噂が付き纏ったりしたら、お前のせいだぞ!そうなったらどうしてくれるんだよっ!?」
そういやもう既に俺は変な噂、一つ持っていたな。
俺と矢上先輩との男同士の危ない噂が。
「……そうだな。もし、そうなったら…俺がきっちり責任とって、付き合ってやる。そしたら、全校公認の仲だ!何も気にすることなんかないさ」
いや、あるだろ。
たくさんあると思うが。
お前はそれがなんともないというのか?
それとも俺と二人なら乗り越えられるさ☆とか思ってるのかっ?!
「ムカつくくらい前向き思考だな、おい。少しは後ろめたさも感じろや。あ〜、お前に後ろめたさなんて感じられないわな。そんなの感じられるんなら、今俺の上にのっかって笑ってないもんな!…お前はそれでいいかもしんないけどなぁ、俺はまっぴらごめんだ!!!」
「大丈夫だって。オレに全て任せとけば、全て良くなるから」
そんなこという奴に限って大丈夫じゃなかったりするんだよ。
全てかき乱されるんだ。
ぐちゃぐちゃに。
ぐしゃぐしゃに。
気にならないように壊されるんだ。
「嘘だぁぁぁあぁぁッ!!お前は好きでもない奴に…ましてや男とこーゆーことするなんて最悪だ」
本当最低だ!!
ありえないだろう!?
いや、ここにあり得るんです、あり得てますっていいそうな奴が目の前にいるけどさっ!!
「あれ?言ってなかったけ?」
なんか……いやな予感がする。
訊いちゃいけないことを訊いてしまってる気がする。
「…………何をだよ」
「渋谷が好きだって、言ってなかったけ?」
「……………………………言ってねーよ。聞いてねーよっ!!ちくしょー」
「そっか。それは悪かった。じゃあ、改めて言っておこう。渋谷、好きだ」
「言うなー!!!バーカ!ホントお前、超ムカつく!!」
「あははは…。可愛いなぁ」
「なんで急に何かを吹っ切れたように開き直ってんだよっ」
「さぁ?オレにもわかんない」
ああ…。
やっぱり訊いちゃいけないことを…――聞きたくなかった事を聞いてしまった。
俺のバカ…!
つづく。




