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参:俺の意見は無視!?…お前ら何考えてんだ?

 「お、おはよう」


 俺は何故かその日、とても動揺していた――。







  



 「おはよ、渋谷。……どうした?そんなに距離とって挨拶だなんて」


 駒井が呆れたような苦笑いを口元に浮かべて、駒井から五メートルも離れて、自分でも分かってしまうほどのぎこちない笑顔の俺に歩み寄ってきた。


 「っ!!?」


 駒井が近づいてくると思っただけで、俺の体はびくりと跳ねて、反射的にぎゅっと目を閉じてしまった。


 「ぁ…――」


 薄く見えた視界で、駒井の手が俺の頭に触れそうになった。


 ――だが、いくら待ってもその手は俺の頭に落ちて来ることはなかった。


 あれ?…と、俺が目をそろっと開けば、そこには挙動不審な俺に怪訝な眼差しを向ける駒井の姿があり、駒井は近くにいた俺の親友の超美人俺様系男子、木村水城に声をかけた。


 「おーい、木村!オレと渋谷、保健室行ったって、ちょっと先生に伝えてくれるか?」


 「ん〜?」


 水城はだるそうに俺と駒井を振り返った。


 そして、


 「あ〜…別にいいけど。お前か君尋、どっちかがどうかしたのか?風邪だったもう帰って寝とけよ?」


 ぶっきらぼうな声音とは正反対に、心配そうな雰囲気を醸し出しながら駆け寄ってきた。


 「そうだな…どうだ?渋谷大丈夫か?」


 「へっ!?」


 俺が口を挟まないうちに話は勝手にあらぬ方向に進んでいた。


 え〜と…なんだ?


 どうやら、俺の調子が悪いと勘違いされたらしいな。


 俺がここはどう答えておこうかと、とりあえず曖昧な笑みを浮かべてみたところ…――(正直に悪くないとは言えなかった。言える雰囲気ではなかった。だって、こいつら本気の顔してるから)。


 「………」


 「…………」


 素っ頓狂な声を上げた後曖昧な笑顔になった俺を、一瞥した駒井と水城は何か思うところがあったのか…一度顔を見合わせてふむと、言葉を交わさずとも意見が一致したのか、力強く頷きあった。


 「…どうしたんだよ、二人してそんな顔してさぁ…」


 俺がぼそりと呟けば、水城が口を開いた。


 「――これは駄目だな、駒井。さっさと保健室へ連行しろ」


 深刻気な水城の秀麗なお顔とは裏腹に、その瞳は大変今の状況をたのしんでいるようで俺を見下してみている。


 「は?」


 俺が意味不明だと言わんばかりの声を上げれば、駒井も水城同様に詰め寄ってきて、


 「――ああ。これは駄目だな、木村。さっさと保健室へ送り込んでくるよ」


 と、これまた地味だが整った顔を深刻気に歪ませて見せた。


 「あぁ?」


 「後は俺に任せとけ。君尋、お前はゆっくり保健室で休んでろな」


 「休養は大切だからなぁ…」


 ぽんと水城に肩を叩かれて、しんみりといった駒井がそういうや否や、俺は有無もなく駒井の力強い腕に体を引きずられるようにして保健室へ連れて行かれ、教室を後にした。


 ――…て、本当に俺の意見は無視だったじゃん!


 俺自身はなんら口を出さずに、駒井と水城の間で勝手に保健室行きが決まってしまった。


 ねぇ、そういう時は普通、連れて行かれる側の…俺の意見もちゃんと聞くべきだったんじゃないの?


 


 

 この回に出てくる木村水城は『俺とお前。』の木村水城です。同じ学校の同じクラスにしてみました。

 またちょくちょくと君尋達に絡ませていく予定です。

 あ…。もしよければ、水城が主人公の『俺とお前。』、気が向いて読んでくだされば嬉しいです…!

 少しでも楽しんで下さればこれ幸いです。

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