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壱:抑えられた思い?…俺は何を思った?

 「しーぶーやっ!」


 そよそよと風吹く屋上で、今年二年に進級したばかりの渋谷君尋しぶやきみひろは気持ち良く昼寝していたところを体をゆさゆさと揺すられて、不意に現実へと意識を戻された。


 しつこく呼ぶ声はおそらく、同級で今年初めて同じクラスになった隣の席の駒井蓮壱こまいれんいちだろう。


 上体を起こし、のろのろと目を開けて一番初めに視界に飛び込んできたのが予想通りの人物だったから、やっぱりと口をへの字にする。


 正直のところであるうぇ〜という気持ちを隠そうともせず、むしろあからさまに顔に出して駒井を見た。


 「なんだよ?…駒井」


 そう親しくもないので下の名前ではなく、名字で呼んだ。


 というか、何故俺とそう親しくもない彼がここに居て、自分をわざわざ起こすのかが解らなかった。


 せっかく気持ちよく眠れてたのに、起こされてとっても不機嫌だ。


 駒井は不機嫌丸出しな俺を見て気を害した風もなく、むしろ嬉しそうに笑った。


 俺はその笑顔の訳がわからず、首を無言で傾げる。


 しばらくそうして、数分のときが流れた。


 「お前、こんなとこで寝るなんて寝不足か?」


 沈黙を破ったのは駒井が先だった。


 「…ん〜。まぁ、そんなところ…」


 歯切れが悪く、曖昧に答える俺に駒井はそれ以上何も言ってこなかった。


 あれ?


 こいつのことだから理由まで聞くのかと思ったのに…とちょっと微妙な気持ちにさせられた。


 別に聞かれても答えるつもりはさらさらなかったけれど。


 というか、答えられない…答えたくない?


 まぁ、どちらでもいいけれど。


 また沈黙が降り注いだ。


 俺はなんだか居たたまれなくなって腰を浮かし、屋上の出入り口に向かいかけたところを、ぐいっと力強い腕に引き戻されて、声を上げる間も無くすっぽりと駒井の長い腕に収まっていた。


 「お前、失恋しただろ?」


 驚いて目を瞬かせていれば、突然駒井が突拍子のないことを言ってきた。


 その言葉に俺は息を呑み、更に目を見開いた。


 「どうして、そんなことを…――」


 動揺を隠そうと声を出そうとするのに声がすぐには出なくて、数秒後喉奥で絡まっていた声がやっと戻ってきたのに、震えていてばれてしまいそうで心臓がドクドクと早鐘を打ち出す。


 「…渋谷がさっき寝言で『矢上さん』って、言ってたから――」


 「お前、いつからここに居たんだよっ!?盗み聞きが趣味なのかっ!?だったら、止めれ、いや、今すぐ止めろ!」


 俺より身長の高い駒井の腕の中、カッとなり声を荒げた俺は駒井を見上げる形で上目遣いに睨む。


 駒井は俺の睨みをそっぽを向くことで受け流し、無表情に近い顔で更に言った。


 「お前、矢上先輩と付き合ってたんだろ?去年の一年間その噂が絶えなかった」


 後ろから俺を抱えるように抱きしめている駒井が俺を上から覗き込んでくる。


 俺はそれを真っ向から見返して、言い返した。


 「たったそれだけでどうして、俺が先輩と付き合ってたってことになるんだよ?お前もその噂を信じているのか?…意味解らないよ、駒井の言ってること」


 俺が視線をそらせば駒井は腕の力を更に強めてきて、正直少し苦しく感じたけれど、あえて何も言わなかった。


 「お前さ…知ってるか?矢上先輩と渋谷はデキてるって…――行為中を目撃したって奴が何人も居るんだぞ?それにオレも見てるんだよ…その行為に臨んでいるときではないけれど、キスしてるところを…」


 「もし仮にそうだとしてもなんで失恋、何だよ…。校内で盛るくらいだから今も続いてんじゃねーの?」


 「だって、お前…矢上さんって呟いてた」


 「…たったそれだけでか?知り合いの名を呟いただけで勝手に断定されるのか」


 「頬に涙のあとが残ってる」


 「…欠伸で出たんだろ…。勝手に決め付けんな。胸くそ悪い」


 俺は駒井の指摘にかっとなって朱に染まった顔を両腕を交差することで隠した。


 「…そうか。悪かったな」


 その言葉にゆるゆると腕をはずした俺は駒井の何処か寂しそうというか、胸のうちの本当に言いたいことを抑える様な僅かに歪められた表情を目撃し、駒井が口にした俺と矢上の噂で頬が火照ほてるよりも、ツキリと何故か胸を痛めつけられた。


 ――……これは、何…だ?


 どうして俺は今、駒井のことを気にしているんだ?


 俺と矢上のキスシーンを見たとか変なことを言っているからか?


 それとも、ただ単純に…駒井の傷付いたような表情に俺も傷付いたから…か――? 


 

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