気付き
一昔前を感じさせる電子音で目が覚めた。
「はっ…!はっ…!」
勢いよく身体を起こし、胸のあたりを確認する。
痛みはない。
意識的に呼吸を整え、心拍を感じるように目をつむる。
異常はない、念のためその場で深呼吸すること数十秒。
心臓は一定のリズムでしっかり脈を打っている。
どうやら胸は大丈夫なようだ。
「なんだ…助かったのか…?」
ここまで確認してとりあえずの切迫感は薄れ、けたたましく鳴っていた携帯電話のアラームを止めた。
「ふぅ…」
エライ目にあった…。
胸を締め付け力が抜けていくような感覚はまだはっきり覚えている。
圧倒的な『死』の感覚を思い出しブルっと身震いする。
汗が流れるのを感じ、額をぬぐうと脂汗がでていた。
何らかの病が表面化したのだろう、正直あのレベルの痛みと症状はやばかった。
意識があるのは奇跡だと思えるほどに。
とりあえず今は何ともないみたいだけど、これからしばらく養生しなきゃな、体壊しちゃ元も子もないからなぁ…なんてことを考えていたらふと気がついた。
ここ、実家の俺の部屋である。
倒れて病院で治療した後、オトンかオカンか迎えにきてくれたのだろうか。
そう思い安心する。
つまり入院が必要なほどの病気ではなかったということだ。
ほんとに大変なケースの場合帰宅が許されるわけがない。
「俺でかいし家まで運ぶの大変だったろうな」
ホッとするっと同時に両親が四苦八苦して自分を運ぶ様を想像して自然と笑顔がでた。
「後でお礼を言わねばいけないっすね!」
緊迫した状況から解放されテンションがおかしい。
さっきまでアラームが鳴っていた携帯電話に目をやり、また笑いがこみあげてくる。
ガラケーなのである。
病人に目覚ましをセットする神経もイカれているが、時計代わりにガラケーを再利用とはエコ精神溢れすぎだろう。
まぁでっかいでっかい借りが出来たのでその辺は不問にしますか。
起きてきたら喜ぶだろうしな。
まぁいいや、まずはトイレかな。
「どっこいしょ!」
食生活の乱れによる体重増加と筋力低下とともに必要になった掛け声を出し、立ち上がった。
「えっ…?」
身体が嘘みたいに軽いのである。
そういえばさっきまで全く気付かなかったが意思とは関係なくマイサンがエグイ角度で反り返っている。
彼女と別れてから風○に行ってもA○を見ても全力を出せずにいたマイサンがまるで10代の様。
「生存本能刺激されると元気になるってアレかな」
苦笑する。
死にそうにならんと本気出せんのかこのポンコツめ。
時刻はまだ朝6時、この時間なら家族に見つかって恥ずかしいことにもならんでしょう。
マイサンを縦にセッティング、パジャマのゴムで挟み多少前かがみになりながらも、そそくさとトイレへと向かった。
そして今、俺は洗面台の前で固まっている。
「わ、若返ってる…!???」