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ジジイ転生  作者: 猫もどき
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プロローグ

たった今、99歳にもなるジジイの葬式が終わった。

去年、連れ合いのババアが死んで、後を追うような感じで体調を崩し入院し、このあいだぽっくりと大往生したわけだ。



俺の名前は寿ことぶきせん。39歳にもなって現在無職のおっさんだ。

ジジイの孫として、また10年以上在宅介護していた身として今この葬式を取り仕切っている。


子供の頃の印象は薄い。

正月には毎年挨拶にいって、お行儀よくニコニコしていればお年玉がもらえた。ただそれだけの存在。


中学から大学にかけては、そもそも会ってすらいない。正直当時は顔も覚えていないだろう。


ちょっとだけ社会人やってた頃には、「え、まだ生きてたんだっけ?」くらいの印象だ


入社して数年で、上司と喧嘩になって、そのままクビになって、収入無くなってアパートの家賃も払えなくなって。転がり込んだ先がジジイとババアの住んでいた家だった。

当時はまだ二人とも寝たきりじゃなくピンピンしていたが、ここで俺は選択をミスったわけだ。


ちなみに両親はこことは別の、都心のマンションに住んでいる。

俺もそっちに転がり込みたかったのだが追い払われた。なので選択肢などなかったわけだが。


それから数年、たまに適当なバイトで食費だけ稼いで気楽な無職を続けていた。

両親から就職しろ攻撃が来ると思っていたのだが、最初の1回就職する気があるのかと聞かれただけであとはスルーされていた。


・・・・その数年間をあまり疑問に考えずに、俺はなぜろくな就職活動もしないでニートやっていたのかと、真剣に後悔するはめになった。



99歳まで生きたジジイには、それなりに子孫や親せきの数だけはいるはずなのだが、

葬式の参列者の数は少なかった。


ジジイとまともに付き合いのあった人間はババアを筆頭に既にひととおり他界済みだし、

ただ血がつながってるだけの身内の葬式として、義務でここに来たような連中ばっかりだ。


うちの両親なんぞ、仕事の都合がつかないからって葬式の手配まで全部俺にぶん投げやがった。

「あんたがずっと世話してきたんだからお願いね」ってふざけんな!


俺が好きでジジイの世話してたんじゃねーよ!

本来、共働きの両親のどっちかが仕事辞めてジジババの介護しなけりゃならなかったのを、押し付けやがって!

老人ホームって手もあっただろーが!


「どーせあんた暇でしょ、仕事もクビになったんだし。いい歳して生活費の催促に来るんだったらお爺さんたちの世話くらいしなさいよ。」


うぐっ!いや確かに当時、就職して2年もしないうちに上司と喧嘩して仕事辞めたのは悪かったと思うよ。

そのまま2,3年もプラプラとたまにバイトするくらいのプーやってたのもダメだったと思うよ。


家はジジイの持ち家で家賃タダ、ジジイとババアの世話だけやってりゃ住み込みで小遣いまでもらえるという状況にホイホイ乗ったさ!


寝たきり老人の介護はそんな甘いモンじゃなかったけどな!


朝は早いわ、シモの世話は汚いわ臭いわ、ボケの相手は忍耐を要求するわ、

食事はただ食えればいいってわけじゃなくて面倒な栄養管理が必要だわ、

薬もなんかやたら一杯あるのを覚えなきゃならんわ、老人がかかる病気とか勉強する羽目になるわ、

病院には頻繁に行かなきゃならんわ、白衣の天使なんていなくてオバさんばっかりだったわ


仕事じゃないから多少ミスっても賠償とか会社に連絡とかにはならんけど、そのかわり遠慮なしにクレームが来て拳骨もくる。

よく殴ってくるのはジジイの方だったが、怒らせると怖いのはババアの方だったなー。


だが、つらい環境だからと逃げ出そうにも金も無く。

ジジイとババアの介護をしながらの就職活動などできるはずもなく。

ジジイとババアが死ぬまでの10数年、じっと耐えるしかなかったわけだ。


・・・・だがまあ、ババアは去年死に、ジジイもようやく死んだ。

ジジイが入院してからの1年はかなり気楽だった。毎日の病院通いさえしていればあとはほぼ自由だったからな。


そして、ようやく真に自由になれる時が来た!

まあ、葬式が終わった後も、墓に入れるまではまだ少しゴタゴタするだろうがその程度

この年で無職とか正直バラ色の未来ではないが、持ち家がありジジイの遺産も多少は俺にも入る・・・はず。

これから先どうするかはさっぱり見えないのだが、まあ何とかなるだろうと根拠のない自信を胸に俺はジジイの家に帰宅する。


郵便受けになんか溜まってたので適当に引っ張り出し、中身を確認して・・・・俺は激怒する。


「ふっ、ざっ、けっ、んっ、なーーーっ!!!」

携帯を取り出してコール。時間帯を考えればさすがに帰宅しているはず・・・・


「あら仙、葬式終わった?なんか失礼とかしなかったでしょうね?」


「お袋っ!何送って来てんだよ!勝手な事すんなよな!」


「あー、あれ届いたんだ、てか何怒ってんのよ、いまだに無職とか恥ずかしいのはこっちなのよ?」


「就職案内そのものはいーよ!親からそういうのが来るのは覚悟してたし、俺だって就職する気くらいあるよ!(多分)、でもなんで・・・」

あらためて、手元の案内や求人広告に目を落とす。


「なんで老人介護やら老人ホームやら一択なんだよっ!」


そう、両親から送られてきた郵便物、その中身はすべて、その手の求人広告ばかりだったのだ。


「だぁって、あんたもうその歳なんだから、まともな就職なんてあるわけないじゃない。

でも、身内の介護があって仕方なくっていう話なら外聞は悪くないし、実績ありますって言えば就職しやすいと思うのよね、アンタ面接得意じゃないんだから、そういう感じで実績アピールしときなさいよ。」


「余計なお世話だって!てか俺はっ!もうジジイやババアの世話とかうんざりなんだよっ!仕事だって若いネーチャンが働くようなフレッシュな職場がいいんだよ!」


「ぷふーw!フレッシュってあんた、自分の歳考えなってばw。」


「もういい!とにかく、俺は自分の就職先は自分で探すからな、余計な事すんなよな!」


「言ったわね?言ったからには、すぐに仕事を探すわけね?小遣い溜めた分が無くなるまで1,2年気楽にニートやれるんだー!とか言ってゴロゴロ無駄に過ごしたりしないわけね?」


「・・・・うっ!!・・・・・・う、うん。もちろんじゃないかー(棒)。」

ま、まさかお袋のやつ、ここまで計算済みでトラップを送り付けてきたんじゃないだろうな・・・


その後は適当にやり過ごして電話を切るも、言質を既に取られてしまった時点でほぼ俺の負けと言っていい。

くっそー、少なくとも1か月くらいはネトゲ三昧とか自由を満喫できると、色々と計画していたのに・・・


とにかく今日はもう寝よう。

就職先を探すのは・・・いきなり明日からやらなくてもいいよね?


とにかく、ジジイババアの世話はもうウンザリってのは断言する。

どんな職場がいいだろうか・・・体力勝負なんてもうできないんだから、頭を使う仕事したいよな。

っつっても、底辺じゃないにしてもそのへんの普通の大学出だしなぁ・・・・


できれば若いネーチャンと一緒に働けたら・・・・って高望みか。

実年齢とかには多少目をつぶるから、少なくとも見かけが若い子で、

・・・・オッパイは大きい方がいいよな、うん、オッパイは正義。

健気で、甲斐甲斐しく尽くしてくれるタイプの子が部下だったらやる気でちゃうなー俺。なんつって。


どんな仕事を選ぶにしろ、とにかくジジイは嫌だ。

上司でも部下でも客先でもジジイの世話は御免被る。


まあそんな、後で思い返すと恥ずかしくなるような妄想に浸りながらその日は寝たわけだ。


朝起きたら、100歳のジジイになっていた・・・・などと、夢であってほしかった。


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