初依頼と先輩
翌日。ギルドのボードに並んだ沢山の依頼を眺めながら、私は首を捻っていた。
「やっぱり最下級のFじゃ近場の依頼しか無いなあ」
ランナーに限らないが基本的にギルドにはランク制度があり、初心者のFから熟練者のAまで受けられる依頼に幅がある。実力者にはSなんていうランクもあるみたい。
「これはシャイナさんに相談しないとかな?って違う。今日から先輩のランナーが一緒なんだった。ここで待ち合わせなんだけど、まだかなあ?」
私がギルドを見渡すと、ギルドの入り口から勢い良く若い男性が入ってくるなり私の方に向かって来て言った。
「君がシオンさん?」
「はい。あなたが先輩さんですか?」
「そのはずなんだけどね、ちょっとこっちに来てくれるかい?」
「はい?」
そのまま流れでギルドの外へ来てしまった。ギルドから目と鼻の先で何かあるとも思えないけれど、この人何か慌ててるし少し警戒しないといけないのかな?
「それで、君の先輩ランナーの件だけれど、ってなんか疑ってる目だな。ほら、僕のギルド証だよ。今君のギルド証から僕のを見れるようにしたから後で受付にでも僕の事聞けば良いよ」
といってギルド証を見せてきた。とりあえず信用しても良いか。
「これだけじゃ信用出来ない?かもしれないことを言うけれど、よく考えて聞いてくれ。君を担当する先輩ランナーなんだけれど、誰も受けたがらなかったんだ」
「え?えっと……理由を聞いても?」
「君が試験を受けたシャイナさんはね?厳しい試験を出す事でとても有名なんだ。誰も合格者を出してなかった程にね。そんな試験を突破した新人ランナーを誰も扱いきれないと思ったみたいだ。まあ僕もその一人なんだけれど、押し付けられちゃってね……」
確かに彼を見てみると押し付けられ体質な気がする。非常に気弱そうな容姿をしていた。
「でも、今朝なんと!君の先輩ランナーをしてもいいと言ってくれる人が居たんだよ!でもその人はギルドの大ベテランで、確かにランナーも真っ青のスピードで走るけれどランナーじゃないんだ」
「え、それって大丈夫なんですか?」
「普通は駄目なんだけれどね?その人が一時期だけランナーをしていたのもあって許可が下りたんだ。今は冒険者ギルドの登録なんだよね。その人」
冒険者ギルドか。結構ランナーから荒事専門の傭兵や冒険者になる人も居るって聞くし、大丈夫かな。
「もう手続きは済んでるから、君は今から村の南門に行ってその人に会ってくるんだ。行けばその人が見つけてくれるから。……なんかバタバタしちゃってごめんね」
「いえいえ、分かりました。南門に行ってみます」
そう言うなり私は南門へ向かった。
「にしても、早くもあの人に目をつけられたのか。大変だな彼女も。ってそんな事言ったら僕もか。シャイナさんにできるだけ長くバレませんよーに」
彼のそんな言葉は私の耳に入るはずも無かった。
南門に来た。パヤの村は東が海に面しているので南門の他には北と西に門がある。南には気候が穏やかな国や村が多く、商人に留まらず人の出入りが激しい。
そんなことを考えていたら、向こうが声をかけて来た。
「お前がシオンだな?」
その声に振り返ると30後半位の年齢だと思われるおじさんがいた。身長は190を超えていそうだ。容姿は……というか服装からして拳銃使いそうなウエスタンスタイルの出で立ち。ひょろっとしているが筋肉が無い訳では決して無い。細マッチョというやつかな?この赤髪の長髪モテそう。
「はい、あなたが先輩ランナーさんですか?」
「まあ、そういうことになるな。事情は聞いていると思うが、俺は冒険者ギルドAランクのオストドックだ。まあそうだな、オストさんとでも呼んでくれ」
と言ってギルド証を見せてくれた。なるほど、確かに冒険者に登録してる。
「俺も今回色んな場所に行かなきゃいけない依頼があってな?そのついでに出来そうだったから今回の件を受けさせてもらったんだ。それでちょっとだけシオンにも手伝って貰いたい」
「先輩ランナーしてる間は他の依頼受けないんじゃ……」
「まあ簡単なのだし、そう手間でもないよ。今回俺はギルドマスターから直接各ギルドの覆面調査みたいなものを依頼されててな?その依頼的には俺がその依頼を受けている事もバレちゃいけないんだよ。だからわざわざシオンとギルドの外で会っているという訳さ」
なるほど、この人に関する事が一時的にギルドにバレないようにしているのか。そんな人の依頼を手伝って私を呼び出した彼は確かに押し付けられ体質なのだろう。
「だから依頼が終わるまではギルドに俺に関する事を聞かないで欲しいんだ。出来れば俺が君の先輩ランナーをしているという事も。ギルマスが困ってたから、俺が声かけてトップダウンで決まったからな。誰もこの事を知らない。だからシオンにも覆面の仕事をしてもらいたいんだ」
「まあ……いいですけれど、何するんですか?」
「簡単な事さ。いつも通りにギルドを使って変に思った事や中に広がっている噂みたいなのを俺に報告してくれればいい。当然俺も情報収集位はするんだが、新人とベテランで集められる情報に幅が出るからな。でも一緒にはやらない。シオンの先輩ランナーをしている件は報告してないからな。ギルドに入るのはどちらか一方がって事にしよう」
「私が依頼をこなした場所でって事で良いんですよね?ここに行けとか言われても行けないかもですよ?」
「ああ、それでいい。君は1年で魔術学院に行くんだろう?俺の依頼はもっと長期のものだからな。期間にも余裕があるし、丸々1年君の先輩をしてやれるよ。」
「それならまあ、今のところ問題ないです」
「よしきた!よろしくな、シオン」
「よろしくお願いします。オストさん」
オストさんと握手。怪しいけど、この人そんなにヤバい感じはしないし、様子見という事で良いかな。
「そういえばギルドに行ってたんだろう?何か依頼は受けたのか?」
「それが……Fランクだと近場の仕事しかなくて。少なくとも隣の村くらいには移動したいんですけれど」
「成る程な……分かった。俺が新人ランナー祝いとして上のランクの依頼受けて来てやるよ。先輩ランナーと一緒ならある程度上の依頼を俺の責任で受けられる」
「ホントですか!?でもいいんですか?私の実力も見てないのにそんな事しちゃって」
「あのシャイナが合格出すんだからそれだけでも信頼出来る。ちょっと待ってろ!」
そう言うと、オストさんがギルドの方へと消えていった。
それから1時間。いくらなんでも遅いんじゃ……
「お待たせ!いやあちょっと頑張り過ぎたかな?」
そう言いながら現れたオストさんの手に持っていた依頼書には……
極秘と赤字で書いてあった。