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異世界を走る  作者: ユウキケンゴ
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新たな世界



 ここは深海から地上まで伸びる前世ではあり得ないような樹が集まって森となっている。その上に作られた村。名前はシーフォって言います。ここには100人程の人間と同数のエルフ、下の海に200人程のマーフォークという人魚さんが住んでいます。種族間の仲は良く、その立地から外との交流は限られていますが、海の上とは思えない森の広大さで、住む場所や資源に困るといったことはあまりありません。海が荒れるなどの心配もマーフォークの中に巫女が存在しているらしく、(私は見たことは無い。)結界のようなもので海上の私達が生活出来るようにしてくれている。


 「お兄ちゃん、朝ですよ!休みだからっていつまでも寝ないで下さい!」


 「良いじゃないかシオン……せっかくの休みなんだからもうちょっとくら…分かったよ、そんなに睨まなくても、これから朝の散歩だろう?朝食は帰って来てからで良いんだな?用意しておくよ」


 「うん、いつも通りでお願いします。では、行ってきます!」


 「おう、行ってこい!」


 私の名前はシオン。現在この村に生まれて9年、毎日欠かすことの無い朝のお散歩に行く所です。


 「お兄ちゃんも一緒に行く?」


 思いついたことを振り返ってお兄ちゃんに聞く。


 「やめとくよ。シオンの走りに付いて行けないしな」


 1つ上のお兄ちゃんの顔は笑ってはいるものの、どこか引きつった笑いになっていた。


 「お兄ちゃんなのにだらしないなぁ」


 「シオンがいつも全力疾走なのがおかしいんだよ!?村の誰一人シオンの散歩に全部付いて行けた奴居ないじゃないか。知ってるか?村長達がシオンの散歩道を毎年ある運動行事の目玉として考えてるって。走らない企画側は良いかもしれないけれど、実際に走る俺達はシオンの散歩のことを考えると今年から憂鬱だよ」


 「あはは!じゃあ行ってくる!」


 「気をつけてな……」


 すっかり気を落としたお兄ちゃんを置いて私は走る。いつもの道を。海樹と呼ばれる木の枝が自然に伸びた道や、人工的に海樹で橋を渡し、接ぎ木のようにして定着させた道を。脚を止めること無く走る。


 「おーい、シオンちゃん!」


 呼びかけられれば脚を止める。急ぐ散歩でもない。呼んだのはいつも散歩を一緒にしているマーフォークのライラのおかあさんでした。


 「ライラのおかあさん!おはよう!ライラはもう?」


 「マーベラって呼んどくれよ。ライラならもう行っちまったよ。先に入海口で待ってるってさ」


 「ありがとうマーベラさん!行ってくる!」


 「気をつけてお行き!」


 その声を聞きながら私はまた走り出す。


 「あの子はまだ9歳なのに速いねぇ。大人の全速力とタメをはるって本当に人間なのか種を疑うよ」


 と、去り際に聞こえた気がした。私は紛うこと無きヒューマンです。走ることに極振りしてるけれど。


 散歩を続けていると、目の前に大きな穴の空いた海樹が見える。穴の入り口上部から内側に水が絶えず流れているこの海樹の穴の先は穏やかな海に繋がっていて、マーフォーク達が陸地から海に戻るのによく使われるため入海口と呼ばれている。


 「私の服いつものように港の見える位置に置いておいて」


 と、手早く服を脱いであらかじめ着ていた水着になったら入海口を管理しているマーフォークの警備員さんに渡す。この人達は親切に私の服を最後に海から上がる時に使う港まで届けてくれる。というのも私くらいしか人間で入海口を使う人が居ないからみたいだけれど。


 「お気をつけて。」


 「行ってきます!」


 見送る警備員のお兄さんに手を振って入海口に入る。入海口は出口まで強力な魔力により海流を生み出していて、私を出口まで運んでくれる。私しか使わない理由は人魚基準により結構深めの位置に出口があることと、海流の勢いが強くて人間には危ないと感じるかららしい。


 「ぷはっ」


 大きな流れに任せて出口へ出ると海面に上がる。息を整えると海中を覗き、出口で同じく警備をしている人に軽く身振りで挨拶をする。挨拶を返してくれる警備員さんは良い人だ。


 「おーい!こっちー!」


 声の方を向くとライラが少し離れた場所で私を待ってくれていた。


 「おまたせー!それじゃ、行きますか。『出よ海の脚!』」


 私の下半身はそう唱えると共に人魚のような姿へと変わる。これはマーフォークが陸に上がる時に人間の脚を手に入れる為開発した魔術。『出よ陸の脚』を私が見て、逆のことが出来ないかとマーフォークの警備員さんに相談した所、警備員さん達がノリノリで魔法を改良してくれたものだ。


 「うん、今日も完璧!」


 この魔法は9歳の私が本来扱えるものではなく、魔術もまともに習ったことの無かった私はこの高度な魔術が初めてだったが、なんとか半年で習得してからはこうして友達のライラと一緒に泳ぎも散歩の一環として取り入れている。


 「シオン、今日は内海の北端の見張りにお届けものがあるから、一旦そっちに行ってから……いよいよ泳いで海底の森行ってみる?」


 「ついに……うん!そうしよ!」


 私達は内海の北端に向けて泳ぎ出す。この姿の私は泳ぎも人魚並みだし海底にも潜れるようになっている。かなり練習したけれど。


 「そういえば外海にある貝の楽園がそろそろ漁解禁になるらしいよ。今年は大きなのが沢山居るみたい」


 ちなみにマーフォークの巫女が結界の外側を外海、内側を内海と呼び分けているらしい。内海は大体海樹の森の端から10キロまでくらいだ。通貨単位以外は大体前世の知識と同じ世界で助かっている。内海はマーフォークが自分達の領土だと主張していて、人間もマーフォークも外海で漁をする。


 「楽園の貝さん達美味しいしね。食べ過ぎないようにしないと」


 「去年はシオンお腹壊してたものね」


 「美味しかった記憶しか無いです!」


 「都合が良い頭してるわね相変わらず」


 そんな世間話をしながら内海を北へと泳いで行った。


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