走りたかった世界
物心付いた時の最初の記憶を覚えていますか?私は覚えています。
――――痛みです。
2歳の時、私は大きな地震の揺れで倒れてきた金属製の何かに両脚を潰されました。18年経った今、本当にそれが物心付いた最初の記憶かは分かりません。ですが、私が物心ついた時にはもう私に足は無かったのです。
「暑い。本を読むにしても日を遮る何かが要るかな?」
私の名前は目名紫桜。めなしおうって読むの。好きなことは読書とお散歩。とはいえ、脚が無いから車椅子だけれど。
「よっと。道悪いなぁここら辺。私の相棒はヘッチャラだけれど」
私の車椅子はどこでも進めるようにかなりの魔改造が施されている。今日は1人で新しい場所を探索中。やめろって言われたって私の好奇心は誰にも止められないのだ。
「にしても本当に今日は暑いなぁ。髪をどっかに捨てて行きたい」
この前散々伸びっぱなしだった髪を肩に当たる程度に切ったのに……夏に対応するにはまだ足りないか。別におしゃれとか興味無いから今度もっとばっさりやろうかな?お母さんに止められそうだけど。
「本当に雲も無い快晴だしなって……っ!?」
そう言いつつ空を見上げると急に浮遊感が体を支配した。それだけは覚えている。
「どこ?ここ」
まず口を突いて出てきたのはそれだった。辺り一面真っ白。何も無い。どこまでも何も無い。怖いぐらいに白が支配していた。
「車椅子は……大丈夫そう。私も怪我は無いし、あの一瞬に何があったのかな?浮遊感……ってことは落ちたか、浮いたんだろうけど」
「落ちたのよ」
突然聞こえたその声の方を驚く暇もなく見るとそこにはさっきまで無かった筋肉質な体と金髪を後ろで緩くお団子みたいに……シニヨンって言うんだったかな?そんな髪型の女性が立っていました。身長が多分140くらいかな?かなり小さい。
「初めまして。私は貴方の人生を今まで管理していたものの上司的な立ち居値に居るものなのだけれど、これからあなたに色々なことを伝えないといけないから、覚悟してちょうだい」
「は、はい?」
「先ずは大前提。あなたは死にました。死因は道路の陥没です。あそこは前から地盤が弱くて地下に大きな空洞が出来てしまっていたのよ。本来なら見つかってもおかしく無かったんだけれど……あそこの土地は前から色々あってねぇ。それがたまたまあそこをあなたが通った時に崩れちゃったのよ」
あの浮遊感はそういうこと……?やっぱり落ちたんだ。
「なるほど……あれ?私、ここに居ますよ?死んでるって……」
「死んでるのよ実際。ようこそ死後の世界へ。これからあなたの死後をサポートするメルリよ。よろしく」
「よ……よろしくお願いします」
怪我が無いどころの事態じゃなかったみたい。
「えっと……それで、私はこれからどうしたら?」
「ざっくり言うとこの死後の世界で生活するか、私が案内する世界へ転生するかの2択なんだけれど、転生をお勧めするわ。生前の人生がこの世界での履歴書でね?貴方の場合は事故死だから中卒とか、もっと酷い内容で就職活動するハメになるのよ」
うわっ人生が履歴書なんて自身無いわ。
「死後の世界でも働かなくっちゃいけないんですか?」
「死人がどれだけ居ると思ってるの?沢山居れば死後の世界にだって社会が出来るわ。社会的な権利を主張するには……分かるでしょう?」
リアリティあるなぁ。死後でも全然ファンタジーのファの字も感じられない。こんなに真っ白な所に居るのに。ホントに私死んでるのかな?
「転生はどうなるのか教えてくれませんか?」
「私の管理する世界で新たな生を過ごしてもらうわ。ここで私はあなたに謝らなきゃいけないことがあるのだけれど……」
「なんですか?」
「先ずはあなたの脚のこと。本来はあの事故で貴方の脚は無くならなかった。それ以前に地震が起きなかった。これは部下の失態でね。本当にごめんなさい」
「はぁ……そうなんですか」
そう言われても天災を今更人のせいには出来ない。色々思う所はあるけれど。
「もうひとつ、今回のあなたが死んだ事故も起きることは無かった。今回の死は私達の世界で起きたちょっとしたテロが原因でね?事故扱いになるの。本来ならこういったケースは異世界転移扱いになるのだけれど、あなたより先にこちらに来たお父様が保険をかけてくれていました。よってあなたの扱いは保険の通りに異世界転生ということになります」
お父さん!?確かにお父さんは5年前に病気であっさり死んじゃったけど、そうか保険かけてくれてたんだ。感謝!
「えっと、どう答えたら良いのか分かりませんが、とりあえず転生の話を」
「……ありがとう。それでこの度の失態のお詫びとして、あなたには記憶を保持したままの転生と、好きなセンスひとつを与える許可が下りています」
「記憶を持ったままなのは嬉しいですが……センスってなんですか?」
「これからあなたが転生する世界にはセンスというものが存在してね?簡単に言うとスキルです。人生を楽にする特殊能力とでも考えておけばいいわ」
なんかやっとファンタジーっぽい何かが出てきた。スキルって言うとゲームみたいだけど能力者って響きは……素敵かも。
「センスは何でも良いんですか?すぐには思いつかないんですが」
「そうなんだけれど、時間がないの。もうすぐ転生の準備が出来ちゃうからこちらで用意したわ。それで最重確認なんだけれど……転生で良いのかしら?あと、転生先で何がしたいですか?」
「転生で大丈夫です。転生先では……」
それは私がずっとしたかったこと。前世では出来なかったこと。
「世界中を走り回ってみたいです。自分の脚で世界を見たい」
それを聴いたメルリさんは穏やかな表情で私に言いました。
「私のとっておきをあげる。それで世界を見ていらっしゃい」
初投稿です。ご意見・ご感想などあると嬉しいです。
少し慣れてないので内容以外の細かい所を弄るかもしれません。