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七月のアークトゥルス。  作者: 乃咲昼
第一章
8/11

ひとり。

伝えてきてください





って、、何をだよ。


「ごめんなさい、なんで泣いてんだろ、私。」


夏野冬は泣き止むと

またいつもどおり笑ってみせた。


「学校辞めたってホントか?」


俺は聞いた。


「今は休学届けを出してるだけです。血吐いたのも食中毒みたいで。」


「何食べたんだよ。」


「賞味期限切れのレトルトカレー、、あははっ自分でも笑っちゃう!」



少しだけ、



ほんの少しだけ安心した。

ただの食中毒で良かった。



「でも、もう学校は辞めます。」


「結局辞めんのかよ。」


「あはは、まあそうですね」



また少しだけ間があいて

夏野冬は話し始めた。


「この間の中間テスト、赤点だったんです。まだ夏なのに、留年決まっちゃって。一年分また学費払えないし金銭的にも辛いので、、退学することになりました。」



「なるほどね。」


また、少しだけ沈黙が続いた。

その時間が俺にはとても長く感じた。




「榊原くん聞きたいことがあるんだけど。。いい?」


「何?」


「榊原くんは、今、学校、楽しい?」


何も話すことがなかったのか、

つまらない質問を投げかけられた。



「楽しいよ。普通に。」


「ほんとに?」


「ほんとに。」


「ほんとにほんと?」



「ほんとにほんと。」



「そっか。」



「何だよ。」



「屋上で話した時、榊原くんの顔、すっごく疲れてたから。無理してるんじゃないかなって、自分に。ただそう思っただけ。」



自分に??


「無理って…?俺はああやって人を従えて苦しんでる顔を見てるのが生きがいなだけだよ。何も無理はしてない」


 

俺はそう言った。

だけど夏野は笑いも驚きもせずに

こちらを見つめている。


 

「でも、、今、無理してる」


一言だけそう言った。



「は?してねぇよ。俺は今まで、自分のために、自分のことだけ見て生きてきた。何も無理はしてない。」



「してる。分かるもん。」




「嘘だね」


「嘘じゃない。

いつも見えない何かと闘って、


自分が一番になっても、


また何かと闘って。

普通に笑ってる榊原くんが、一番すてきなのに。無理して人を苦しめて偉くなろうとしてる!」




険しい顔で俺に言い放った。

「たった一度しか生きられないのに、ダメだよ。無駄にしちゃ。。」


無駄、、?


「…っお前に何がわかんだよ!知ったような口聞きやがって!!!



ただの食中毒だろ!入院なんて、大袈裟なんだよ!親に看てもらったほうがいいんじゃねえの?今まで甘やかされてきたから赤点なんじゃねえの!?」



俺はいつの間にか怒り狂ってしまっていた。




俺は身支度をして、立ち上がった。



「もういい、帰る。」


夏野は何も言わずに

俯いていた。


そして俺は静かに病室を出た。


あの俺でいないと

俺の周りはどんどんいなくなってしまう。

だから、俺は、、。

親父に勝とうとして何が悪いんだよ…俺は1人でいい。



1人でいい。


俺は人生を無駄になんて

してない。。


それなのに、何だあいつ。

腹立つ。。


俺は廊下をスタスタ歩いた。

「冬ちゃん、あのままで大丈夫なの?」


「夏野さんは、退院を望んでいるようだけど。」



帰り際、アイツについて話す看護婦たちがいた。


食中毒くらいで大袈裟な。

放っときゃいいだろ。あんな奴。



「お友達?には食中毒って言い張ってたけど、あの病気に加え、胃潰瘍だものね。もうすぐ退院出来るだろうけど、あの病気を1人で抱えるなんて無理よ。やっぱり最期までここで預かってたほうが。。」





病気……?

胃潰瘍…??

最期、、?



「今一人で暮らしてるんでしょう?それで、誰の支えもなしになんて不可能に近いわ。」



この話、、ほんとにあいつのことなのか?


今思えば

学校を辞めると聞く一日前

公園で大泣きしていた。


だけどその理由を聞くことは




出来なかった。




「3年入院してて、一度もお見舞いに来る人がいなかったの。だけど今日ね男の子が来たのよ。お見舞いに。」



「あら!そうなの!?」


「嬉しそうだったわ。あんなに幸せそうな冬ちゃん、久しぶりにみた。」


「私達だけじゃ、、


あの子を幸せにすることは出来ないけど、きっと少しでも冬ちゃんのことを気にしてくれる子がいれば、あの子は最期まで幸せよ。」




こんなときに


悲しい悲しい表情をして

笑うアイツの顔が



今更目に浮かんだ。



俺、なんであんなひどいこと言ったんだろう。


一人で、


孤独で  



辛いのは


もしかしたら

俺なんかじゃなく



アイツなのかもしれない。



俺は一つだけ心に決めて



少しずつ歩きを進めた。

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