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七月のアークトゥルス。  作者: 乃咲昼
第一章
7/11

ありがとう。

俺、榊原世界さかきばら せかい。金髪でくせっ毛。耳にはピアスをしている。

身長は184センチ。

趣味なし特技なし。

彼女なし。


人をいためつけ、嘲りながら

生きてきた





「おはよ。堂島」


「おはようございま、、す!?!」


あの日から1週間、俺は学校を休んだ。

風邪を引いてしまったからだ。


「えっと、、誰ですか、、?」

堂島が変な顔をして聞いてきた


「俺だよ。榊原。」


「ええ!?だって、、だって。」


「何だよ、変か?この髪。」


「いや、そんなことは無くて。。むしろこっちのほうがいいかなって。」


「そっか、ありがと。」



俺は髪の色を黒に変えた。

ピアスも面倒くさいからしていない。



「さ、榊原さんが!!ありがとうって、、!!言った!!!」



「ははっ、そんなに変かよ。」



「しかも、、笑ってる、、すげぇ!!!おい皆、榊原さんが笑ってるぞ!!」



「すげ!」


一斉に俺のところへ寄ってきた。


「うわぁ!やば!」


「こっちのほうがカッコイイ!」




良かった。イメチェンしたわけじゃないけど、変えたことで何か言われるんじゃないかと少しだけ不安だった。


少し経って落ち着いたとき

堂島がこっちへ駆け寄ってきた。


「榊原さん」


「あ?どうした堂島。」



「榊原さんに、こんなこと聞くのはあれかなって思ったんですが、、」



「何?」




「夏野さん、あれからどうでしょうか?」


夏野、、そういえばあれから見てない。まあ学校辞めてるわけだし、通院とかしてるんだろうか、、もしかしたら入院、、?


「って、俺はただ病院に送ってやっただけで、それからのことは何も知らん。」


「そうなんですね。」



「何でそんなこと、気にするんだよ。お前関係ないだろ。」


「ですけど、、。榊原さんの好きな人だし、、と思って。」



「っは!?」


何言ってんだ堂島は。


「お、俺があんな奴好きになるわけないだろ。ざけんな。」


「そっか。良かった。」


よ、良かった。。。?


「やめとけよ、あんな奴。ポジティブすぎて、ついて行けん。」


「そっか。。」



堂島がいつになく嬉しそうに笑っていた。さすがにさっきの言葉を冗談だと、信じたいけど。


「お見舞い、行ってみたらどうですか?その姿で。きっと驚くと思いますよ」




「面倒くせ。」


「あ!これ、じゃあ渡してきてください。お願いします!!!」


「は!?」


薄っぺらい封筒を渡された。



「お願いしますねー!!」


あいつは頼みごとだけして

逃げるように走っていった。






「面倒くせ。。」









**


「冬ちゃん、いいの?」


「はい。もう決めたことだし後悔してません。」



「そっか。私に出来ることがあったらいつでも言ってね。看護婦の私がって思うだろうけど、冬ちゃんには先生もいる。私達もいる。大丈夫だからね」



「はい、ありがとうございます。」



ガラガラ────────



「あら、誰かしら。」



「よ。来てやったぞ。」



「さ、榊原くん、、?」


顔を合わせた途端、夏野冬は

目を思いきり見開いて驚いていた。



「じゃ、おばさんはおいとましますね、うふふ。」


「佐々木さん、ありがとう。」


そういうとピンク色の

ナース姿の看護婦さんは

静かにドアを閉めて、去っていった。



「佐々木さんっていうの。いつも私と話してくれる看護婦さん。」



「そうなんだ。」



しばらく、沈黙が続いた。

話したいことは特には無かったけど、言わなきゃいけないことはたくさんあったような気がしていた。



「イメチェンしたんだね。」


「まあ。暑いし。」 


「それ理由になる?」


「理由なんて関係ないだろ。」


「そっか。」




1週間ぶりに会ったけど

少しだけ顔色が悪くなったような

気がした。

気のせいかもしれないけど。



「あと、、この間、病院まで運んでくれたんだね。」


「あぁ、まあ。」


「記憶が飛んでて全部は覚えてないけどね、背中があったかかったのは、すっごい覚えてるの。安心した。大丈夫だよ、って言ってくれてるみたいだった。」



「勘違いだろ。」


俺は笑ってみせた。



「ううん、確かに感じたんだ。だから、嬉しかったんだ。



"ありがとう"。」 


そんな俺に対し彼女は

泣きそうな顔で笑ってみせた。



やっぱり、なにかおかしい。



だって、たった5文字だぞ?

それだけで、こんなに心臓の奥のほうがザワザワするだなんて、病気なのか?




「お見舞いに来てくれるなんて、思いもしなかった。だって、私のことイジメてた榊原くんがだよ?あははっ…、、」



笑った声がだんだん静かになっていくのがわかった。


「あの時で、最後だと思ってたのにな。来てくれるなんて思わなかった。。余計忘れられなくなっちゃう。。うっ、、」



そしてその声が途絶えた時

夏野冬から涙がポロポロと溢れはじめた。



「ありがとうっ…ありがとうっ、、」


 

彼女のその言葉が


俺の気持ちを揺らがして

また、俺を悩ませる。


渡してと頼まれていた封筒には

紙一つだけが入っていて


その紙には

太字のペンで



「伝えてきてください」


とだけ書かれていた。







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