正体。
「おい、夏野しっかりしろ!」
夜
夏の
暑さが
俺の体を濡らしていく。
街を抜けて
外灯のオレンジの光だけで
道を進んでいく。
よかった。近くに病院があって。。
大きい附属病院で
夜間もやっていた。
「血を吐いて、、ハァハァ、、倒れた、、まま、、動かなくて。。」
息を切らしながら
事情を話すとすぐに病院の先生が
駆けつけてきた。
「君、ありがとう。助かったよ」
そう言うと先生は夏野冬を診察ベッドに寝かせて、治療室へ急いだ。
ありがとう、と言われるようなことなんてしてないはずだったけれど、
何だか心の奥、
ずっとずっと奥のほうが温かくなるのを感じた。
けれど
背中にいた夏野冬の体温は
暑い夏にも関わらず冷たかった。
だけど道中で
背中に少しだけ暑さを感じた。
動かなかった夏野冬から
涙だけがあふれていた。
この訳のわからない
俺の周りを何かが覆いかぶさっているような感情の正体をまだ俺は知ることができない。
家に帰って靴を脱ぐ。
「お前、帰ってたのか。」
「あぁ、今帰ってきたとこ」
父さんだ。
前にも言ったが学校の理事長。
「夜遅くまで何やってるんだ。チャラついた格好して。恥ずかしいにも程がある。」
「うっせぇな。別にいいだろ。この間のテストも一位だったし文句ねぇだろ。」
「そんなの当たり前だ。もっと私の息子として言葉遣いと態度を改めろ。」
父さんは毎日俺に言ってくる。
背筋が曲がってるとか
言葉遣いが悪いとか
交友関係が悪いとか。
「いいだろ、、俺はあんたの息子じゃないんだから。」
俺はずっと自由が欲しかった。
「血繋がってないんだろ?俺ら。知らないとでも思ってるだろうけど、ずっと前から知ってたよ。もう、あんたの期待に応えるのは辛えんだよ!!!いつまでも理事長の優秀な息子じゃ、、俺は俺じゃなくなっちまう。もう話しかけんな。」
支えになってくれる誰かが欲しかった。
その誰かを探しているうちに
俺の心は欲でまみれた醜い姿に変わっていた。
人を従えたら、
周りが俺にすがりついたら、
俺は血の繋がらない父親よりも
優れている気がしていた。
イラついた奴をシメて
お金を使って
近くのやつを救ったつもりでいた。
だけどそれなのに
ありがとうございますと慕われても
何も湧き上がることはなく
さらに快感を得ようと
自分のために他人を傷めつけた。
だけど
この間
ただ、アイツと話しただけ。
特に俺が何かした訳でもないのに
「ありがとう」と言われた。
ただ、病院に連れてっただけなのに
「ありがとう」と言われた。
たった5文字。
有り余ったお金を使っても
顔を使っても
いくら使っても
手に入らなかった感情。
俺は1人じゃないんだよ。
大丈夫だよ。
そう言われているようだった。
胸にどっと押し寄せる熱い波みたいな
言葉では表せない気持ちの正体を
俺は知ってしまった。
こみ上げてこみ上げて
涙が止まらない。