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⚠︎精霊契約は計画的に!  作者: 柊 楓
精霊契約は計画的に
31/34

第30話 「勝敗を分けたのは……」

 

(くっ…………、どうして…………?)


 ニアが見据える邪眼の黒龍の巨躯には、一つとして傷がついていなかった。百人を超える『竜狩り』の魔法の一斉掃射でさえ黒龍は、ただただ立ち尽くしているだけで気にも留めない。

 それに対し、『竜狩り』側は残すところニアと他数人。


 もはや勝ち目などなかった。それでも逃げ出してしまう『竜狩り』はいない。彼らは誇りは捨てなかった。

 黒龍が一歩、また一歩と距離を少しずつ詰めてくる。恐怖で歪む顔を見て楽しんでいるのか、あえてゆっくりと近ずいてくる。


「ボルケーノ!」


 ニアは魔法を放つ。が、黒龍には一切としてダメージが入っている気配はない。


「ボルケーノ!」


 ニアは再び放つ。

 やはり、黒龍は気にせずゆっくりと近ずいてくる。


「ボルケーノ! ボルケーノ! ボルケーノォッ!」


 ニアはひたすらに、がむしゃらに魔法を連射する。ニア自身も効かないことはわかっていた。それでも、ゆっくりと近ずいてくる黒龍の歩みを止めるために。そして、自分の両親の仇に一矢報いるために、ニアは魔法を放った。


 ……ぐしゃっ、と何かが潰れる音がする。


 ニアの目の前にいた、瀕死状態の仲間が潰された音だった。胸から上を潰され、その断面からは赤黒い内臓が見え隠れしていた。

 すでに何度もこの戦いで見ている光景だが、ニアはその凄惨な光景に怖じ気づき、振り下ろされる黒龍の右腕に反応が遅れる。

 とっさにバックステップをして回避しようとするがするが、振り下ろされた右腕はニアの服を引き裂く。


「くッ!」


 切り裂かれたニアの服、ポーチはスルリと身体から落ちてしまう。身にまとっているのは白い下着のみとなった。


「ボルケーノ!」


 そんな姿になってもなお、ニアは挫けずに魔法を放ち続ける。何もできずに殺されるのは、両親と弟に顔向けができない。その一心だけが今のニアを突き動かしていた。

 これで少しでも…………、


「ボルケーノッ! ……っはぁ。ボ、ボルケーノッ! 」


 ニアは魔法を打ち続ける。しかし、魔力は無尽蔵にあるわけではない。


「ボル…………」


 ニアが魔法を放とうと魔力を手の平に集めた瞬間、強烈な立ち眩みが襲った。

 しまいに、ニアは地面に顔から倒れこむ。立ち上がろうと試みるが、身体が思うように動かない。ニアの魔力はもう、ほとんど残っていなかった。

 黒龍は身動きが取れないニアを、右手で地面を抉りながらすくい上げ、天高く放り投げる。そして、下で口を開ける黒龍。


(…………ごめんね、レイジ)

 ニアは目を閉じて、心の中でそう声にする。

 空高くから落ちてきたニアの身体は、そのまま一直線に黒龍の口に落ちていくその時。

 一人の人影が黒龍に接近していた。


「右……ストレートォォオオオオオッ!」


 そんな掛け声と共に突然に現れた漆黒の魔力を纏う男は、大胆にも、力任せに思いっきり黒龍の顔面をぶん殴った。今まで『竜狩り』との戦闘で一切として動じなかった黒龍が、殴られた衝撃でバランスを崩し、後ろに倒れる。


 黒龍を殴り倒した男は、落ちてきたニアを空中で優しく抱きとめた後、男はニアを抱いたまま地面に着地した。

 黒龍の胃の中でなく、誰かの腕の中にいることに気づいたニアは、ゆっくりと目を開ける。


「あの黒龍。あのままニアを喰おうとしたら、一緒に岩まで食うことになるんだけど、そこんところちゃんと考えてたのかな?」


 じんわりと目頭が熱くなり、堪えきれなくなった感情が溢れ出し、ポロポロとニアの目から涙が流れる。


「うえ⁉︎ どこか痛めたのか? って、半裸じゃねぇか!」


 目の前にいたのは、いつものようにヘラヘラした顔のレイジだった。


「バカじゃないの? …………どうして……来たのよぉ」


 ニアは涙を流し続けながら、そう言った。


「ニアがいるからだよ」


 そう返すレイジは、クシャッとニアの頭を優しく撫でる。






 ◆◇◆






「とりあえず、これでも着とけ。別に、変なことをするわけじゃないからな」


 俺はニアの下着に手を当てる。当然、胸は触っていない。

 魔法陣がニアの足下に現れ、魔法陣から光の柱が立ちニアを飲み込む。


「やっぱり、お姫様を助けに来た展開の方が燃えるよな」


 次第に光は収束していって光の柱は消える。そして、中から現れたのは、赤を基調とした美しいドレスを着たニアだった。


「ど、どうなってるの⁉ …………ん? スースーする」


 困惑するニア。着ていた下着が赤いドレスに変わってしまったのだから、困惑するのも無理はない。幻想を纏わせ、物体の形状さえも変化させる俺の『妄想』、それゆえに下着に赤いドレスの幻想を纏わせた結果、下着がドレスに変化した為ニアは現在ノーブラノーパンになるのだが、それは仕方ないことだ。


 俺に非はない。


「ねえ、スースーするんだけど」

「……俺のパンツ履く?」

「…………」

「魔力が殆ど無いニアは戦えないからな。少し遠くに離れていてくれ」


 微妙な空気を無理矢理引き裂く。

 もう少しパンツネタを続けたかった、と思う俺であったが黒龍が身を起こしたら、パンツネタどころでは無い。

 ニアは俺言う通りに、ある程度距離をとって岩陰に身を潜める。

 シェルターに戻ろうとすると、その瞬間、黒龍の攻撃を受けるかもしれないから、俺の目の届く所に身を隠してもらったわけだ。


 俺は目の前の脅威に向き直る。黒龍はすでに身を起こし終え、体制を整えていた。殴られたことで俺を脅威と認めたのか、黒龍の視線は一直線に俺に注がれている。

 黒龍の朱色の瞳が、ギロリと俺を睨みつけてくる。

 黒龍は前足を地面におろし、四足歩行の状態で翼を羽ばたかせ飛んだ。

 そして、そのまま低空飛行で突進してくる。


「俺の右ストレートはあんまし効いてないみたいだな」


 なら、もう一回。

 俺は猛スピードで突進してくる黒龍に向かって腕を突き出し、引いて。


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

「右ストレートッオオオオオオオオオオオオオッ!」


 突進のタイミングに合わせて、黒龍の鼻っ柱をぶん殴った。

 瞬間。

 黒龍と俺は両者共に勢いよく後方に吹っ飛ばされる。

 俺は咄嗟に空中で身を翻し、地面に足をつけて勢いを殺す。拳から少し血が出ているが、それ以外に身体に外傷はない。

 一方、黒龍は無傷で、俺がぶん殴った鼻っ柱に傷はない。


「……固すぎだろ」


 思わず愚痴が溢れる。

 俺は腰に帯刀している木刀に手を伸ばし、その場で木刀にデュランダルの幻想を纏わせ、ジャキリッと音をたてながら抜刀した。

 俺が剣を抜くのを見た黒龍は距離を少し取った後、口元に赤い魔法陣を展開する。

 魔法陣は次第に大きくなっていき、複雑な文字列が魔法陣の空白を埋めていく。


「竜も魔法を使うのか、生意気な。普通に口から炎吐いとけよ」


 そう言った瞬間、魔法陣から百歩譲っても炎とは言えないような極太の赤いレーザー光線が放たれた。


「うええ?」


 驚愕に目を見開きながらも、俺は間一髪のところでしゃがんでレーザー光線を避ける。放たれたレーザー光線は遠くの山に着弾し、山一つを消し飛ばした。


「…………っべぇよ。やべぇよ」


 俺がそうぼやく間にも、黒龍は再び強力なレーザー光線を打つ為の魔法陣を展開する。

 もし、あのレーザー光線が街に着弾したら、そこまで離れていない場所に隠れていてもらっているニアはお亡くなりになるだろう。


「やばい、やばい!」


 そう言いつつ俺は精霊の恩恵〈アシスト〉を全て脚に注ぎ込み、地面を強く蹴って跳躍する。到達点は、黒龍の口のちょうど真上。俺は右手に持っていたデュランダルを、黒龍の口に向かって投げつけた。

 超スピードで投げつけられたデュランダルは光の線を描きながら、黒龍の口に突き刺さる。


『グォオオオオオオッ!』


 黒龍から本日初めての呻き声が上がると同時に、黒龍が展開していた魔法陣は発動直前で砕け散った。


「くそっ! デュランダルで貫通しないってどういうことだよ!」


 と、もれなく自由落下中の俺が言った矢先、


「嘘だろ……。一気に五発撃てるなら、最初からそうしとけよ……」


 黒龍は自身の周りに赤い魔法陣を五つ展開していた。

 黒龍は空中で上手く身動きが取れない俺に向けて、五本の極太レーザーを発射する。


「……悪いが、まだ死ねないんでね。魔法陣『妄想』展開」


 空気中の微量な水滴を媒体として、水滴に氷塊の幻想を纏わせる。そして、空中に形成された氷塊を蹴りつけて空中での高機動を実現させ、五本の極太レーザーを避けてみせた。

 しかし、間髪入れずに黒龍は追撃を始める。


 アギトで咬み殺つつもりなのか、黒龍が大きく口を開いて俺に迫ってくる。

 俺は氷塊の幻想を蹴りつけ、ギリギリで躱す。ガキンッ、と黒龍の牙が先ほど俺がいた空間を噛み砕いた。


 氷塊を踏みつけることで空中での高機動が実現したとは言え、空では翼を持つ竜が圧倒的有利。このまま避け続けるのは至難の技だ。

 そして何より氷塊は当然のことだが氷だ。

 いつ足を滑らせるか、わからな………………。


「ちょっ⁉︎ 」


 (くそ、フラグ回収かよ!)

 脚を滑らせたが、すぐ踏み台となる新しい氷塊を生み出して体制を整えようとする。


 が、黒龍はそんな時間を与えてくれなかった。


 俺は為す術もなく、黒龍のアギトが俺の身体に喰らいついた。バキバキッと骨が砕ける音がする。

 黒龍のアギトに噛み付かれた俺の身体からは鮮やかな血が噴き出て、俺の身体はそのまま地面に投げ落とされ、地面にめり込んだ。

 地面にめり込んで身動きが取れない俺が歪む視界で見たのは、急降下してくる黒龍。


 黒龍は急降下し、その巨躯で俺を踏みつけた。

 黒龍の足下に、人間一人が爆ぜたような血痕が広がっただろう。


「レイジィイイイイイイッ!」


 霞む意識の中、それほど離れていないところに隠れていたニアが、声を張り上げているのがわかる。

 黒龍はその声の方を向き、足を進めた。

 はっとして、ニアが口を噤んだのが見えたが、もう遅かった。

 黒龍は極太レーザーを撃つべく、魔法陣を展開しながらニアに近ずいていく。

 そして、黒龍は極太レーザーを魔法陣から発射、


「お前の相手は…………、この俺だろ」


 なんてさせるわけないだろ。



 俺はボロボロの身体に鞭打ってその場で跳躍し、全身が血塗れであるにも関わらず、身体を高速で縦回転させながら、血を撒き散らしながら、黒龍の顔面にかかと落としを叩き込む。

 黒龍は顔面を地面に叩きつけられ、魔法はキャンセルされた。

 俺は黒龍の目の前に着地し、黒龍に立ちはだかる。


「アグッ!」


 立ちはだかると言っても、俺の身体は今にも膝から崩れ落ちてしまいそうなほどにボロボロだった。

 当然として鎧など纏っていなかった俺の身体には、深々と牙が突き刺さって空いたであろう穴が無数に犇めき、黒龍の巨体で踏みつけられた身体は、全身から血を噴き出し続けている。

 満身創痍。今の俺の姿を言い表すには、その四字でこと足りる。


「レイジ、もう逃げようよぉ!」


 俺のボロボロな肉体を見たニアが、顔を涙でぐしゃぐしゃにしながらそう提案した。

 俺を思っての言葉だった。

 でも、


「無理だ」


 一言で断る。


「どうして?」


 正直、俺自身も逃げたかった。それでも、逃げれない。


「俺が此奴を止めないで誰が止めるんだよ。せっかく、記憶を失ってまで大切な人を守ろうとしてるんだ。このまま、大切な人と過ごす為の俺の居場所も、俺はこの手で守りたい」


 そう言いきる。

 その言葉にニアは少し微笑を浮かべ、


「…………もし死んだりしたら、ぶん殴ってやるから覚悟しなさいよ」

「ははっ、その時はそうしてくれ」


 俺は死なないけどな、とニアに力なく笑ってみせる。


 木刀はすでにデュランダルの幻想を纏っておらず、木片の状態で地面に転がっている。

 そんな手持ち無沙汰な俺を見て、ニアは土埃で汚れたポーチを取り出した。

 土埃にまみれているが運良く戦闘に巻き込まれずに、原形をとどめていた為、まだ運用できるそうだ。

 ニアがポーチの中から取り出したのは、フィリア作の一振りの漆黒の剣だった。ニアは俺に漆黒の剣を手渡す。


「助かる」


 そう言って漆黒の剣を受け取り、すぐさま『妄想』を発動する。


 俺が思い描くのは、聖剣エクスカリバー。

 すべての悪を葬る聖剣だ。

 漆黒の剣はその姿を、白銀の剣へと変化させていく。

 魔法合金で作られた為に魔力伝導率が高いのか、エクスカリバーの切っ先から、光の刃が伸びていた。

 ちょうどその時、黒龍がのそりとその巨躯を起こそうとしていた。


 俺はエクスカリバーを下段に構えたまま黒龍に向かって走る。地面についた光の刃が地面を切り裂いていく。

 そして俺は黒龍に向かって、横薙ぎにエクスカリバーを振るった。


「ウオオオラァアアアアアアアアアアッ!」


 黒龍は翼を使い飛び上がって回避を試みるも、垂れ下がった尻尾をエクスカリバーから伸びる光の刃が捉えた。


『グォオオオオオオオオッ⁉︎』


 ザシュッ、と気持ちのいい音がして、黒龍の尻尾は切断される。

 黒龍は驚きつつも、そのまま舞い上がり。器用にも空中で身体を回転させ、俺の頭上から急降下して頭突きをかましてくる。


 その一撃を剣の腹で受け止めるが、抑えきれない衝撃が俺の身体を喰らい、全身から血が吹き出した。

 血が足りなくなったのか、視界が歪み俺はその場で膝をつき、顔から地面に倒れこんでしまった。

 早くもピンチ。


「………レイジ、死んだら、ぶん殴るって言ってるでしょッ!」


 ニアの声が聞こえる。


『グォオオオァアアアアアアッ!』


 目の前では黒龍は無防備な俺に向けて魔法陣を展開しているのが見える。

 そして、容赦なく魔法を撃ってきた。

 種類は、…………炎魔法、ファイヤブレスか。

 そんなことを考えていたら、俺の身体は炎に飲み込まれる寸前だった。


 でも、俺だって負けてない。


 俺はエクスカリバーを握っている右手を、前に突き出す。

 俺が右手に握っているのはエクスカリバーではない。いや、剣とは呼べない。


 盾だ。


 俺は右手に持った白銀の盾、『アイギスの盾』の力をもってファイヤブレスを押し返す。

 それは、全ての攻撃を、災禍を防ぐ伝説の盾。

 『妄想』でエクスカリバーに幻想を纏わせて作ったものだ。


 俺は一歩また一歩と、炎ブレスを押し返しながら黒龍に近ずく。

 そして、黒龍との距離がある程度詰まってきていた時、俺は飛び上がってアイギスの盾で黒龍を殴り飛ばした。

 黒龍は大きく仰け反り、その巨躯は背中から地面に倒れる。

 俺は歪む視界に耐えながら地面に着地し、足下に『妄想』発動用の漆黒の魔法陣が展開する。


「まだ、終われねえんだよ」


 黒龍はすぐさま上体を起こすと、間髪入れずに突撃してくる。

 そのまま、衝突。


「レイジっ!」



 ズタボロな肉体の俺は、紙切れのように吹き飛ばされるとニアは思っていただろうが、吹き飛ばされずにその場で力が拮抗する。

 俺は両腕で、黒龍の突進を受け止めていた。


 黒龍の巨体を受け止める俺の身体つき、顔つき、そして髪の色は鏡がないこともあり確かめることは出来ないが、今俺は金をアクセントにした白銀の甲冑を着込んでいる。

 俺は自らの身体を媒体に『妄想』を発動させ、その身に幻想を纏う。

 そして、俺が身に纏った幻想は一人の英雄。


『聖騎士アーサー』の幻想だ。


 アーサーが実際はどんな姿だったのか、それを知る人間は一人としていない。それでも、そうだとしても、たとえ幻想であっても、今の俺はこの一瞬だけは『聖騎士アーサー』に間違いない。


 アーサーの幻想を纏った俺は、黒龍の突進を受け止めている両腕で黒龍の巨体を持ち上げて鉛直上向きに投げ上げる。

 続けざまに飛び上がり、拳を構え、黒龍の腹に重い一発を撃ち込む。

 拳を受けた黒龍は、大量の血を吐き出した。


 八雲流 『柘榴花火ざくろはなび


 敵の内臓破裂、肉体の破裂を目的とした体術だ。

 まさか、龍に使うなんて思ってなかったよ。


 しかし、伊達に黒龍もブラックテンペストの異名をつけられているわけではない。血を吐き出しながらも、器用に右前足を俺に叩きつけてくる。

 俺は腕を交差してその攻撃を防ぐが、殺しきれない衝撃に押され地面に衝突する。


「レイジ!」


 ニアが俺を呼んだ時、黒龍の口元の魔法陣から放たれたレーザー光線は目と鼻の先だった。

 俺はすぐさまエクスカリバーに『アイギスの盾』の幻想を纏わせ、レーザー光線を防ぐ。



「なあ、黒龍。お前には大切な人、いや龍はいるか? 俺には大切な人がいる。……その様子じゃあ、お前にはいなさそうだな。もし俺が勝ったら、勝敗を分けたのは、きっとこの差だと思う」


 俺は黒龍を見据えて言い放つ。

 黒龍は、御託はどうでもいいと言っているかのように俺の言葉を無視して、再び魔法陣を展開する。


 その数、十。


 黒龍は、極太の赤いレーザー光線を一気に解き放つ。

 十本の極太のレーザー光線は、交じり合い、目の前でさらに太い一本のレーザー光線となった。


 ……だからどうした。


 俺はそのレーザー光線を真っ向からエクスカリバーで斬り伏せる。

 エクスカリバーとレーザー光線がぶつかり合った瞬間。

 凄まじい轟音を轟かせながら爆発が起こり、爆風は土煙を巻き上げ、衝撃波は大地を揺らした。

 強烈な爆風で巻き上げられた土煙に視界を奪われるが、俺はその場から飛び上がり、


「こっちを向きやがれ! 怪物野郎おおおおおおおおおッ!」


 いつか言ったフレーズとともに、あの日の光景を再現する。

 命知らずの馬鹿が木刀を構えて崖から飛び出し空から落ちてきたあの時のように、再び俺は空から立ち向かう。

 あの時の木刀の代わりに右手に構えられているのは、激しく光輝くエクスカリバー。


 黒龍は空から落ちてきている俺に気づき、翼をはためかせて突っ込んでくる。

 自由落下しながらそんな黒龍の姿を目で捉え、空中で体を縦回転させて、


『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』


 八雲流・『髑髏砕き』


 吠えながら突っ込んできた黒龍の顔面に、エクスカリバーを叩きつける。

 ぶつかり合った瞬間、火花が散り、俺は身体が砕けそうな衝撃に襲われる。

 だとしても、俺には負ける未来なんて見えない。

 なぜなら、


「負けるなああああああああッ! レイジイイイイイイッ!」


 こっちには、勝利の女神がついているから。


 俺は全ての〈アシスト〉をエクスカリバーを持つ手に注ぎ込む。


 防御なんて考えない。攻撃された時のことなんて考えない。

 後先なんて考えない。

 ただ、最強の矛を作り上げることだけを考えろ。


 エクスカリバーを持つ手から漆黒の魔力が溢れ出し、直後、エクスカリバーは黒龍の鼻っ柱をぶった斬った。

 その瞬間、鼻っ柱を斬られた黒竜が空中で怯み、隙が生まれた。

 俺は獰猛な笑みを浮かべ、空中に生み出した氷塊を力強く蹴り飛ばして黒龍に肉迫し、


「八雲流」


 俺は空中でエクスカリバーを下段に構え、全身全霊をもってエクスカリバーを振るう。


「『荒神再帰こうじんさいき』」


 エクスカリバーによる剣戟は、縦に、横に、縦横無尽に黒龍を切り裂いていく。


「うぉおおおおおおおらぁあああああああああああああああああああッ!」


 身体を捻り最後に横薙ぎに、一閃。


『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』


 刹那。大地を揺るがす咆哮が世界に響く。

 最凶の竜、邪眼の黒龍の断末魔が、死闘の終わりを告げた瞬間だった。


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