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⚠︎精霊契約は計画的に!  作者: 柊 楓
精霊契約は計画的に
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第25話 「竜狩り」

 



「えー、竜種襲撃ドラゴンダイブは竜種の気分で起こるために予測不可能で、今この瞬間に起きてもおかしくありません。予測不可能な災害のうえに、その被害も尋常では無いため、国は特に危険な竜種に名前とを与え個体識別を行いました。それが、『色持ち』と呼ばれる特異個体の竜です。最近では、五年前の邪眼の黒龍ブラックテンペスト、十二年前の隻眼の赤龍レッドアビスが挙げられます。そして、これらの竜への対策として…………」


(あー、眠い)

 俺は今、凶悪な睡魔と闘いながら竜種襲撃ドラゴンダイブについての授業を受けている。

 いつもの俺なら今頃は机に突っ伏して寝ているのだろうけど、ニアの両親の話を聞いてから、この授業だけは気合いで睡魔と闘いながら真面目に受けている。



「えー、五年前の邪眼の黒龍ブラックテンペスト竜種襲撃ドラゴンダイブが起きた日から、対策として導入された政策は何でしょうか? えーと、はい、ヤクモ君、お願いします」


 俺は椅子から立ち上がり答える。


「各地に、『竜狩り』が配属されました」

「はい、よくできましたー」


 ミラ先生がパチパチと拍手をしだす。

 それにつられて、周りの生徒までもが俺に対して拍手をしだす。

 ここは、小学校か何かか?

 それとも、授業中に寝てばっかりいる俺への当てつけか?

 まあ、どちらにせよ正解だったのだから特に問題は無いだろう。

 俺が椅子に腰を下ろしたのを確認してから、先生は話を再開する。


「『竜狩り』は竜を狩るスペシャリストの魔導師達の総称のことで、各地に少数精鋭で配属されています。うちのクラスの中にも、目指している人さ少なからずいるんじゃないかな? ともかく、『竜狩り』のおかげで小さな規模の竜種襲撃は、被害を出していないわけだね理解したかな?」


 ミラ先生が話に一区切りつけた時、角刈りの男子生徒の一人が挙手をし、質問をした。


「小さな規模の竜種襲撃って、頻繁に起こってるものなんですか?」

「えーと、一週間に一回くらいは起きてるんじゃないかな……。まあ、森にでも行かないと竜が落ちている瞬間は見れないから、竜種襲撃が頻繁に起こってるなんて実感が湧かないよね。……それと、街に小さな規模の竜種襲撃が起こらないのは、子供の竜は人間を怖がっているからという説があったとかないとか…………」


 とミラ先生は自信なさそうに答える。

 ただ、ミラ先生も教師である以上は、なんらかの考えがあって一週間に一回という答えに行き着いただろうから、大きく間違っているということは無いだろう。

 一週間に一回の頻度で起きている…………か。

 今日もどこかの森にでも、ちっこい竜が落っこちているかもしれないな。


「はい、時間も丁度いいので、今日の授業はここまでにします! 今日やったところは試験に出るから、ちゃんと各自で復習しとくようにね!」


 とミラ先生が言ったのと同時に、授業終了のチャイムが鳴った。

 ミラ先生は授業で使った資料を脇に抱えて、教室から出て行った。

 四時限目の授業だったこともあり、クラスのみんなはおもむろに昼食を食べ始める。


(俺も昼食を食べるか…………)

 そう思って俺が弁当をカバンから取り出した時だった。


「おーい、ぼっち飯なんて寂しいことしてないでさ、一緒に弁当食べようぜ!」


 俺の前の席の男子生徒が椅子の向きを変えて、俺の机の上で弁当を広げ始めた。


 一緒に食べるのを了承してないんだけどな…………。


 とやかく言うのも面倒くさいため、俺は前の席の男子生徒と昼食をとり始める。

 そういえば、隣の席のエレナさん以外のクラスメイトの名前、まだ知らなかったな。

 まあ、特に困ることは今のところ起きてないから、知らないままでも大丈夫か。


「なあ、『竜狩り』が竜を狩ってるところ見たことあるか? ちなみに、俺はある」


 唐突に、前の席の男子生徒が話をふってくる。


「いや、見たことないな……。お前が見たのは、どんな感じだったんだ?」


 俺がそう言うと、前の席の男子生徒は自慢気な表情で興奮気味に話し始めた。


「なんかさ、凄い炎魔法を使っててさ! 子供の竜とはいえ、一瞬で竜の丸焼きにしてたんだよ! ……まあ、こんなのはどうでもいいんだ。本題に入るとすると、その『竜狩り』がめちゃくちゃ美人だったんだよ! 血で濡れたみたいな真紅の髪に、白銀の軽鎧が映えるんだよなぁ〜。顔はよく見えなかったんだけど、あれは確かに美人だったね!」


 顔が見えなかったのに美人かどうかなんてわからないだろ、なんてツッコミは健全な男子の妄想の前では無粋な物でしかないため置いとくとしよう。


 血で濡れたみたいな真紅の髪か…………。

 もしかして…………、そんなわけないか。


「そのオカズもーらい!」

「あっ、おい!」


 前から伸びてきた箸が、俺の弁当箱から肉じゃがの中のじゃが芋を強奪する。

『肉じゃが』から『じゃが』が消えてしまったじゃないか……。


「……美味いな。弁当は自分で作ってるのか?」

「いや、ニアが作ってる。………………どうした?」


 前の席の男子生徒の目がすわってる。

 それだけではない、気づいた時には周りの男子全員の目がすわっていた。

 なんとなく状況が飲み込めた俺は、半分程残った弁当を持って廊下に出て、全速力で逃走する。


「ヤクモを捕まえた奴には、肉体美溢れる俺のブロマイドをくれてやる! さあ、全力で奴を追え!」


 後ろから、あのガチムチの声が聞こえる。

 教室から出てきた男子達が、一斉に俺を追いかける。

 ガチムチのブロマイドを欲しがるとか、俺のクラスメイトはホモしかいないのか?


 ……そういえば、今日はニアが昼食を誘いに来なかったなぁ。

 少し寂しい気持ちになりながらも、ホモの食い物にされては困る俺は、弁当を片手に学園の廊下を疾走する。


 俺は、ノンケだぞ!




 ◆◇◆◇◆◇




  街外れにある大きな森に、ある程度には成長している竜が突然に落ちてきた。

  気まぐれで落ちてきた竜は何か被害を及ぼすわけでもなく、あたかも最初からそこに居たかのように森の風景にとけこむようにして翼を丸めて眠りについた。


 竜が落ちた付近に居た動物は竜を恐れていないのか、何事もなかったかのように普通でいる。

 それどころか自ら竜に近ずいて、竜の翼に身を寄り添えて眠ろうとする動物さえいる。

 森の中を優しい空気が包み込んでいた。

 しかし、その静寂は長くは続かない。

 がさっと、草木を掻き分けて竜に歩み寄る人間がいた。


 血で濡れたような真紅の髪を揺らし、白銀の軽鎧を身につけたその人間は、腰から一振りの剣を抜く。

 そして、竜の翼の付け根に、その剣を突き立てた。

 精霊の〈アシスト〉による肉体強化もあり、剣は難なく竜の身体に飲み込まれていく。


『ヴァァァァァァァァァァァァァァァッ!』


 竜の悲鳴が静寂を破り、周りの動物達は一目散に散っていく。

 人間は剣を竜からずるりと引き抜き、剣を振るって付着した血を飛ばす。


「気まぐれで落ちてきてしまった自分を恨むことね…………」


 竜に剣を突き立てた人間は、突然のことで何が起こっていのか状況が把握できていない竜を一瞥し、剣が突き立てられて開いた傷口に右腕を突っ込む。


「周りが森だから、あなたは特別に中だけ焼いてあげる」


 そう淡々と告げる人間の口元は、わずかにだが笑っていた。

 竜の身体から紅い魔法陣が僅かにはみ出していて、竜の体内で魔法陣を展開していることがわかる。


「中の肉がぐずぐずに溶けるまで、燃えて苦しみなさい」


 人間がにっこりと微笑んだ次の瞬間、


『ヴァァァァァァァァァァァァァァァッ!』


 竜の口から悲鳴と同時に、黒い煙が立ち昇った。

 焦げ臭い匂いが周りに漂い始めた頃には、竜の体内は燃やし尽くされて肉が溶け、絶命していた。

 たとえ害をなさない竜であっても、『竜狩り』は落ちてきた竜を無差別に殺す。

 竜に対して感情などは一切抱かず、ただ駆逐するのみ。

 それが、『竜狩り』。


「……ふぅ」


 そう息を漏らした『竜狩り』は、一息つくために近くの丸太に腰をかける。

 ハンカチを取り出し、竜の体内に腕を突っ込んだ際に着いた血を拭う。


「あっ……、グリフさんの店で剣を鍛え直してもらわないと。…………レイジは今頃、お昼を食べてるのかなー」


『竜狩り』であるニア・クリューエルは、そう言葉を漏らした。


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