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⚠︎精霊契約は計画的に!  作者: 柊 楓
精霊契約は計画的に
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第24話 「妹候補」

 



 フィリアがスプーンを手に取り、俺の料理を口に運ぶ。

 途中で何回か味見をしたとはいえ、俺が今日初めて作った料理のために不味いかもしれない。

 胸をドキドキさせながら、フィリアに恐る恐る聞く。


「ど、どう? 美味しいか?」

「じいちゃんの料理の方が美味しいけど、レイジの料理も美味しい!」


 俺を「お兄ちゃん」と呼ばずに、フィリアは笑顔で元気よく言った。くそ、あの一瞬だけ夢を見せやがって。

 まあ、グリフさんに負けているのが少し癪だが、美味しいと言ってもらえてよかった。

 俺も自分の皿に入っている、『チャーハン』をスプーンで食べ始める。

 初めて作ったにしては美味しくできてると思う。

 これが妹パワーか…………。俺に妹はいないけど。

 チャーハンを食べながら、素朴な疑問をフィリアに投げ掛ける。


「なあ、この店って何を売ってるんだ?」


 部屋を見渡す限り、店の中には商品のような物は何一つとして置かれていなかった。

 ちゃんとした店かどうかすら疑わしい。

 俺が店の中をキョロキョロと見渡していたら、フィリアか重そうに口を開いた。


「……うちの店はね、魔法合金を使ったオーダーメイドの剣を作る鍛冶屋スミスをやってるの。店の奥に工房があるから見にくる?」

「あ、ああ。見に行くよ」


 俺はフィリアについて行き、店の奥へ奥へと進んでいく。


「……着いたよ」


 フィリアはぐっと力を入れて鉄扉を開ける。


(うおっ、これが工房か……)

 目の前に広がる光景は一言で表すなら、宇宙。

 まるで世界から切り離されているかのような、全面が漆黒に包まれた部屋が目の前には広がっていた。

 ほんのりと漂う炭の匂いが、俺の鼻腔をくすぐる。

 火種こそ入っていないものの、壁側に設置されている大型の炉はなんとも言えない重厚感を出し、俺の目を釘付けにした。

 壁に飾られた何本もの色鮮やかな剣が、漆黒の部屋で異彩を放ち闇を彩っている。


 従業員となった俺も、いつかここで剣を作ることになるのだろうか?

 そうだとしたら少しワクワクする。


「……目をキラキラさせてるけど、レイジが工房で剣を作ることはないよ」


 突然に横から、寂しい一言が投げかけられる。


「そりゃあ今はまだ、俺は未熟者だからな。でも、いつか俺にだって作れるようになる時があるよ」

「違うよ。頑張っても無理なの。魔法合金は、ベルファウスト家の人間が発現する魔法適性、『錬金』を持たないと加工できないから」


 ああ…………。

 ここぞとばかりに出てくる『魔法適性』という言葉に、俺は少々苛立ちを覚えた。

 この世界の大抵のことは、『魔法適性』が深く関係している。

 そんな世界で、一つの果物をリンゴに変えるだけで強烈な疲労感に襲われる魔法適性『妄想』を持つ俺は、自分で言うのもなんだが、かなり不憫だ。

 なあ、神よ。

 どんな理由で俺の魔法適性を、『妄想』にしたのか教えてくれ。

 まあ、魔法適性が『妄想』なのはある程度は自分でも察しはつく。でもさ、俺のことをもう少し考えてくれてもよかったんじゃないか?


「これ、持っていっていいよ」


 フィリアが漆黒の壁に飾られている一本の剣を俺に手渡す。

 …………重い。

 見た目は細身の直剣だが、手にずっしりとほどよい重さが伝わってくる。

 刃が漆黒なところもかっこいい。


「……いいのか? 売り物じゃないのか?」

「それは、私が作った剣だから大丈夫だよ。剣としての性能は保証しないけどね……」

「フィリアが作ったのか…………。凄いな、フィリア!」


 将来なんやかんや色々あって、もしかしたらフィリアの兄になっているかもしれない俺としては、鼻が高いかぎりだ。

 俺は早速、フィリア作の直剣をぶんぶんと振り回す。

 ぶんぶんと言っても、古来から伝承されている剣術を習っていたのだから、ある程度はかっこよく振れていると思う。

 …………振れているはずだ。

 俺が一通り振り終わった時、


「……まあまあ、かっこいいじゃん」


 小さい声でフィリアがそう呟いた…………気がする。


「もう一回、もう一回言って?」

「や、やだ」


 フィリアは頬を染めて、プイッとそっぽを向いてしまった。

 この恥じらう姿が堪らなく可愛らしい。


(…………妹、欲しかったなぁー)




 工房を出た後は、俺とフィリアは二人で店番を続けた。

 結局、グリフさんが店に帰って来たのは夕飯時だった。

「夕飯を一緒に食べないかい」とグリフさんに誘われた俺は、ニアのこともあるので断ろうと思ったが、フィリアのあどけない可愛さには勝てなかった。

 夕飯を済ませた後、フィリアに「一緒に遊べ!」と誘われたから仕方なく遊んでいたら時間を忘れてしまい、俺がニアの屋敷に帰ったのは夜の十一時頃だった。


「ただいま…………ごふっ! ぐぇっ! げふっ!」

「遅い! 遅い! 遅い!」


「遅い!」の声と一緒に繰り出されるニアの右ストレートが、俺の腹部を容赦なく殴りつける。


「ふんふんふんふん!」


 続けざまに俺の肩に手を置いて、俺の身体を執拗に揺らす。

 このままだと、酔ってしまう。


「ご、ごめん! 帰るのが遅くなって悪かったよ!」


 俺には謝るのが精一杯だった。



(ああ……、妹、欲しかったなぁー。妹が欲しかったなぁああああああ!)


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