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⚠︎精霊契約は計画的に!  作者: 柊 楓
精霊契約は計画的に
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第一話 「ここが……異世界」

 


「ああ〜、喉が渇いたぁ〜」


 異世界に来てからだいたい二時間が経とうとしている。何のアテもなく歩き回っているせいか、喉の渇きがひどく足が痛い。

 喉がカラカラとはまさにこのことを指すのだろう。

 それに、腹も空いてきた。


 目が覚めたら異世界の大草原に放り出されていたのだから、朝食なんてものを食べていない。

 腹が空くのは当たり前だ。

 腹が空いたなら周りにいる動物を狩ればいいと思うだろうが、原始人じゃあるまいし、そんな簡単な話ではない。

 そもそも、原始人でも無理だと思う。


 大空を舞っているドラゴンはともかくとして、目に入る陸上生物は凶暴そうな奴しかいない。

 それに武器が木刀しか無い今、奴らに喧嘩を仕掛けるのは自殺行為とも言えよう。

 木刀なんて所詮、木を細長く切っただけのものにすぎない。

 攻撃力なんてたかが知れている。


 例えて言うなら、ド○クエの『ひのきのぼう』と言ったところだろうか。

 いや、それよりは少し強いかな。

 一応小さい動物もいるが、すばしっこすぎて捕まえるなんて無理だ。

  そもそも、捌けないし、火を起こせない。


 とまぁ、こんな感じで食糧調達はほぼ不可能に近い。

 何処かに都合よく木の実が落ちているのを祈るばかりだ。

 とりあえず食糧難のことは置いておいて、今はそれよりも重要なのが飲み水である。

 水が無いと人間はすぐにコロッと逝ってしまう。

 水の確保は最優先事項だ。


 そのために先ほどから、池とか湖とか見つかるといいなぁ、と多少楽観的に考えながら歩き回っているのだけれど、一向に見つからない。

 自分が今いるところが大草原なのを見る限り、何処かに絶対に水はあるはずなんだ。絶対に諦めてたまるか! と決意するも、


「…………諦めようかな」


 数秒も経たないうちの心変わり。

 こうも見つからないと、心が折れるというものだ。


「何処かに木の実でも落ちてないかなー」


 木に木の実は成っているのだが、いかんせん高くてどうしようもない。

『ひのきのぼう(仮)』を投げて、木の実を落とせればいいのだが、たぶん無理があるだろう。

 まあ、挑戦しないで無理と決めつけるのは馬鹿の所業だが、もしも投擲した『ひのきのぼう(仮)』が木に引っ掛かって取れなくなったりしたら、死活問題だ。

 木を細長く切っただけとはいえ、武器があるというだけで心のモチベーションが違う。


 とりあえず神に祈りながらぶらぶら歩いて、湖にぶつかることを祈ろう。


「……ん?」


 不意に、つま先にコツンと何かが当たる感触がした。

 足下を見やると、そこには大きな木の実が落ちていた。

 すぐ横に大木があるのを考えると、この木の実はこの大木のものだろう

「この時をどれほど待ちわびたことか!」

 神様に祈ってみるもんだな。

 ありがとうございます、神様!

 ようやっと何か口に入れられると思うと、喉の奥から唾液がダラダラと湯水のように湧き出てくる。


「いただきまーーーす⁈」


 ガキンッという金属音が口内で響いた。


「かってぇぇぇぇぇえ!」


 固くて食べれたもんじゃなかった。勘弁してくれよ。

 異世界生活を始めてまだ四時間しか経っていないが、情けないことに心が折れ始めてきた。

 それでも、折れ始めた心を気合でカバーしながらでも、俺は前に進むしかない。

 元の世界に戻る方法、知らないから……。


「はぁー」


 この絶望的状況に嘆かずにはいられない。

 水が欲しい……。

  ここまで水を欲したのは、生まれて初めてだ。この際ジュースでもいい。何処かにオレンジジュースの池でもないかな。

  ……ああダメだ。頭が回らなくなってきた。

  なにがジュースの池だよ、あるわけねえだろ。


「はぁー」


  聞こえる。

 俺の心がボッキボキバッキバキとリズミカルに折れていく音が聞こえる。

 神はとうとう見放したか、俺は心の中でそう思った。

  ……人間って身勝手だよな。普段信仰心なんて持ってないくせに、自分の周囲の状況が悪くなるとすぐに神に祈るもんな。


「はぁー」


 はい、三回目。いっそ四回目と洒落込もうか。

 誰かに見せるわけでもないけど、記録更新の為に俺が四回目の不幸アピールをしようとした時。

 俺の絶望に濁れた目は、前から小動物が走ってくるのを捉えた。

 その小動物は俺の目の前で止まり、そして突然に俺の膝の上に乗ってくる。

 小動物に警戒されないほど今の俺は弱々しいのか、と自分の不甲斐なさに少しだけ俺は落胆したが、目をつけるのはそこではない事にすぐに気づく。


「こいつの身体、湿ってないか?」


 よく見てみると、身体の毛には、日光を反射して輝く小さな水の粒が付いている。

 俺の心の中に、一点の光が差し込んだ瞬間だった。

 神は俺を見放してなどいなかった。


「こいつが来た方向に、水は存在する!」


 そうと決まれば、ここでへたり込んでいる場合ではない。

 俺はその小動物に、硬くて食べれなかった木の実を押し付け、地面を踏み出して一目散に駆け出した。





  ◆◇◆





「あった……。あったあああああああああッ!」


 目の前に広がる巨大な湖を目の前にし、俺は年甲斐もなく飛び跳ねて喜んでしまう。更にはガッツポーズまでも。

 しかし、その歓喜の舞も束の間。思わず目をみはる出来事が起こった。


 湖の中から、一人の女性が俺の目線の先に姿を現したのだ。


「綺麗だ……。興奮する」


 俺は水を見つけた感動を忘れて、一糸纏わぬその女性の姿に、思わず見惚れた。

  残念ながらここからでは後ろ姿しか見えないが、それでも眼福というやつだ。

 俺がいやらしい目で見つめていたら、いやらしい視線を察知したのか鈴の音のような声で一言、「誰?」と女性は振り向きざまに言葉にした。


  おっと、やべえ。


  今気づいたけど、これって覗きじゃないか。

 ……謝らないと。

 しかしその女性は、弁明をしようと思った俺が「変態じゃなくて、紳士ですよ」と言うよりも早く、「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」と叫んで駆け出して行ってしまった。


「なんだったんだ、あの人 ? まあ、とりあえず水飲むか」


 他人に気を取られている場合ではない。

 今は俺の異世界生活の命運を左右している時だ。

 何かに邪魔されないうちに、早く水を飲んでしまおう。


「くぅ〜〜、生きかえる〜〜」


 身体の隅々まで、言葉では形容できない幸福で満たされていくのを感じる。

 いつまでも此処に留まる気はないが、ここに居れば水で困ることはない。

 後は食料問題だが……、いい案は思い浮かばない。


「それにしても、さっきの女性はいったい何だったんだろうか?」


  ひとまず食料問題は置いといて、俺は地面に座り込んで思考を巡らせる。

 さっきの女性が水浴びをしていたと仮定すると、近くに街があってもおかしくない。

 わざわざ遠出をして、水浴びをする人はいないだろう。

 俺だったらそんな面倒なことはしない。

 そもそも、俺は水浴びなんてしないか…………。

 よし。難しく事を考えるのはよそう。いつかわかる時が来るさ!

 思考を放棄した俺は仰向けになって、ドラゴンが舞う大空をぼーっと眺めた


(あのドラゴンの背中に、騎士が乗ってたりするのかなー)


 嫌になるぐらい暑い日差しが、俺の顔をジリジリと照りつけている。


「今、異世界に居るんだよな……」


 異世界に来て約四時間が経つが、異世界に居るという実感が湧かない。

 きっと異世界らしいことが起きていないからだろう。

 そもそも自分からアクションを起こしていない以上、何も異世界らしいことが起きないのは必然なのだが……。

 ドラゴンに襲われていないだけ、ラッキーというものだろう。


「別に異世界に来る必要はなかったのかもな……」


 異世界生活は夢見るだけで、俺には十分だったのかもしれない。

 元の世界がつまらなかったのは、俺がつまらない人間だっただけか……。


「………………って、認めるかよ」


 違うだろ。何のために、水探しをここまで頑張ったんだ。

 異世界生活を満喫するためだろ。


「……何を弱気になってるんだ、俺は。だったら、つまらなくない人間になればいいだけだろ!」


 折角、夢が叶ったんだ。このチャンスを逃す奴は愚者だ。

 逆境を乗り越えずに、先に進めるわけないだろ。

 今が頑張り時だ。

 俺は自分を奮い立たせ、立ち上がろうとする。


  ……その時。


  お子様向けのヒーロー戦隊ものでよくあるヒーローの登場シーンみたいな感じで、俺が立ち上がると同時に、俺の後方で派手な爆発が起きた。

  会場のボルテージも最高潮だぜ!

  ……なんて余裕に事を構えている場合ではない。

 少し行った先で、煙が上がっているのが見て分かる。


「異世界事変キタァーーーーーー!」


 ついに異世界らしい出来事が起こったんじゃないか?

 いやいや、期待してはいけない。

 どうせあれだろ?

 野獣と野獣の喧嘩だろ?

 巻き込まれでもしたら大変だから、近づかないほうが賢明だろう。

 でも、自分からアクションを起こさないと先には進めない。

 だったら、行くしかないでしょうよ。


「待ってろ、異世界事変!」


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