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⚠︎精霊契約は計画的に!  作者: 柊 楓
精霊契約は計画的に
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第18話 「特訓⁈」

 


 怜治がロアから魔法についてのレクチャーを受けている頃、ニアは魔術の授業を受けていた。

 授業と言っても保有する魔法適性は人それぞれで違うため、『炎魔法の授業』といったように魔法適性別に授業を行うのでは人件費がかかりすぎる。


 そのため授業は、少数で構成されたグループ別にデモ戦闘を行うというものだ。

 床に広がる大魔法陣から発動されている結界魔法により、ダメージは肉体には影響しないが、仮想ダメージという形で肉体に蓄積される。

 肉体に蓄積された仮想ダメージ量が一定値を越えると、強制的に魔力切れ〈マインド・ブレイク〉に似た症状が引き起こされ、フィールド内(結界内)から外に転送される仕組みになっている。


 前のグループのデモ戦闘が終了し、ニアのいるグループの番が回ってきた。

 結界内に入り、戦闘態勢を整える。


「始め!」


 男性教師の野太い掛け声で戦闘が開始された。

 ニアは戦闘開始の合図とともに、走り出す。

 ニアが狙うは大将。

 このデモ戦闘の決着のつけ方は単純明快。

 先に大将を倒したグループの勝ちだ。


「ごめんね、リリアナ。今回も私のグループが勝つわ!」


 ニアは高らかに勝利宣言。

 ニアの相手グループの大将はリリアナ・ヴィリアだ。

 そして、ニアのグループの大将はもちろんニアだ。


「ニアちゃんは、やっぱり戦っている時が一番生き生きしてるねッ!」


 そう受け答えながら『雷』の魔法適性を持つリリアナは、『サンダー』から派生する第二段階魔法『サンダーランス』を放つ。

 迫る『サンダーランス』を、ニアは魔術障壁のみで防ぎきる。


 大将と大将の衝突。


 結界外で待機している生徒から、歓声が沸き起こる。

 大将の邪魔はさせまいと、互いの他のメンバーも戦闘を開始する。

 魔法を撃ち合う戦闘は一対一が基本。

 魔法は通例、第四段階目から範囲攻撃となる。

 そして、第四段階目以降の魔法を使えるのは限られた僅かな人間だけだ。

 つまり、第四段階目以降の魔法を使える生徒は殆どいない。

 そのため一対一で戦うことが基本となる。


「ほら、こんがり焼けちゃいなよ!」


 ニアはそう言うと、魔法陣を二つ作り出し魔法を放つ。

 生み出された両方ともの魔法陣から発動される炎魔法の第二段階、『フレイム』がリリアナを襲う。


「それは、こっちのセリフよ!」


 そう言い放つリリアナは巨大な魔法陣を作り出す。

 魔法陣は魔力を込めた量によってサイズが変わることから、リリアナの作り上げた魔法陣に大量の魔力が込められているのが見て取れる。

 大量の魔力を込められた魔法陣は、魔術障壁に似た役割をしてニアの『フレイム』をはじく。

 リリアナが今から放つのは、第三段階目の雷魔法、『サンダーボム』。

 この魔法陣から放たれる第三段階目の魔法は、さすがのニアも魔術障壁一枚では完全には防ぎきれない。


「……そっちがその気なら。私の炎で、みんなを美味しく焼いちゃうよ」


「「「ウォォ、来たぞ! ニア様の決め台詞ダァァ!」」」


 周りの生徒達から熱狂的な歓声があがる。

 特に男子生徒のテンションのあがりようが半端ない。さながら、水着からポロリしてしまった瞬間に興奮するような様だった。

 それもそのはず、今からニアが使う魔法は、普通に生きていたら殆ど見ることなんてない第四段階目の炎魔法、『イグニス』。

 広範囲を爆発とともに炎の海に変える魔法だ。


 魔術障壁で防げないのなら、相手の撃つ呪文より高位の呪文で掻き消してしまえばいい。

 ニアはそう考えたのだ。


「今回は負けないよ、ニアちゃん!」

「今回も勝たせてもらうね、リリアナ」


 二人は同時に魔法を放つ。

 放たれた二つの魔法はぶつかり合い、せめぎ合う。

 だが、結果は見えていた。

 第三段階目の魔法は、第四段階目の魔法には勝てない。

 ニアの『イグニス』は、リリアナの『サンダーボム』を飲み込む。

 そして巨大な火球は地面に衝突し、大爆発を起こす。

 その大爆発はリリアナと、敵味方を問わず数人を飲み込んでいく。

 その一撃で仮想ダメージが一定値を越え、リリアナと他数名は強制的に〈マインド・ブレイク〉に似た症状が引き起こされ、フィールド内から外に転送された。


「そこまで!」


 野太い声で試合終了の合図が告げられる。

 リリアナの戦闘不能により、ニアのグループの勝利だ。

 ニアの人気は、この圧倒的強さも深く関係している。




「いやー、君は今日も美しいね!」


 次にデモ戦闘を行うライゼル・レグザイアが、パチパチと手を叩きながら、ニアと入れ替わりで結界内に入るときにニアを褒める讃える。

 ニアは応じることなく、無視をして通り過ぎる。

 会話をしないのが一番の対処法なのだ。


「「いけー、ライゼル!」」


 周りの生徒達からライゼルに声援が送られる。

 ライゼルはそれに応えるように手を振りながら、魔法陣を複数個作り出す。


 その数、四つ。


 そして、雷魔法の第三段階目『サンダーボム』を四つ同時に放つ。

 相手チームは四つ同時に放たれた第三段階目魔法になすすべなく、全員が〈マインド・ブレイク〉。

 勝負の決着は一瞬でついた。


(……レイジ、大丈夫かな?)


 その試合を暇潰しに見ていたニアは、そんなことを思っていた。

 冷静に考えてみれば、最近異世界に転がり込んできたばかりの怜治がエリートなライゼルに勝てるわけがない。


「………はぁ」


 ライゼルの挑発に乗り、決闘を承諾してしまったことを今更ながらに後悔し、ニアは嘆息した。








 ◆◇◆








「ほら、だいぶ形になってきてるよな⁈」


 昼食を食べ終わってから二時間が経ち、ようやく小さいながらも魔術障壁を維持できるようになった俺は興奮気味にロアに同意を求めるが、


「…………小さすぎ」


 ロアは呆れた顔をしてそう言った。


「少しは褒めてくれてもいいだろ⁈ 俺は褒められて伸びるタイプなの!」

「…………成長はしてる。この調子で頑張って」

「……うおおおおおッ! やるぞぉぉぉッ!」


 なんかやる気でてきた。頑張れそうな気がする。

「…………ちょろい」と聞こえた気がするが気にしない。


「……コツを教えてあげる」


 ロアはそう言うと、俺の方に近ずいてくる。

 一瞬何かを躊躇う素振りを見せた後、なんと俺の身体に密着したきた。

 慎ましくも、確かにある胸が俺の身体に押し当てられる。


「っ! な、何をして……」


 突然のロアの行動に俺は驚きを隠せない。

(まさかロアは俺のこと…………好きなのか?)


「……我慢して。魔術障壁を作る時の感覚を教えるためだから」

「な、なんだ……。そう言うことか……」


 別にそこまで期待してはいなかったが、少し残念だ。

 断じて期待してなんて……ない。


「ん? 待てよ。……こんな裏技があるなら最初から使えばよかったんじゃないか?」

「………………」

「おい、どうして黙る」


 …………俺に身体を密着させるのを決意するのに、ついさっきまで時間がかかったというのか⁈

 いや、普通はそれぐらいかかるか……。


「…………集中して」

「す、すまん」


 俺は気持ちを入れ替える。

 せっかくロアが俺のために頑張ってくれているんだ、それなりの結果を出さなければ男が廃るというものだ。

 ロアに言われた通り、俺は集中力を高める。


「……手を前に出して。次に、手のひらに魔力を集めて」

「これでいいか?」


 俺は手のひらに魔力を集中させる。


「…………それでいい。私が合図を出したら、一気に魔術障壁を展開して。……微調整は私がやる」

「わ、わかった」


 俺は気を引き締めて、ロアの合図を待つ。

 密着したことで伝わってくるロアの胸の鼓動が、俺の鼓動と次第に同調し始めるのが分かる。

 静寂が空間を包み、俺の耳に入ってくるのは窓の隙間から入ってくる風の音などの自然音のみ。

 自分の心が波一つたてていないのが分かる。


「……いいよ」


 やんわりとした声の合図がロアから出されたのを聞いて、俺は手のひらの魔力を開放し魔術障壁を作り出す。


「で、できた……」


 完全に安定しているわけではないが、巨大な魔術障壁を作り出すことができた。俺の作った魔術障壁にロアの魔力が流れ込み、魔術障壁を内側から安定させているのが分かる。


「…………この感覚を忘れないで。じゃあ、もう一回」







 身体を密着させながらのロアとの特訓がニ時間を経過した。

 ひたすらに魔術障壁を作り続け、俺は完全な魔術障壁を作り出すことができるようになっていた。


 ロアと身体を密着させていることもいつしか気にならなくなり、俺は自然にロアの腰に手を回していた。

 特に指摘されない為、ロアも気にしなくなってきているのだろう。

 密着していることもあって熱くなってきた俺達は、薄着で密着している。

 ちなみに俺は上裸だ。


「…………次で最後。お腹すいた」


 ロアのその言葉を聞いて、俺は魔力を集中させる。

 その際に思わず力が入り、ロアを強く引き寄せてしまう。


「…………変態」

「す、すまん⁉︎」


 乱れてしまった精神を再び集中させる。



 しかし、突然「たっだいまー!」と玄関から元気のいいニアの声が聞こえて、またもや精神が乱れる。


(ま、まずい。ロアと密着している姿を見られでもしたら、強烈な右フックが飛んでくるに違いない!)


 しかも俺、上裸だし!


「ろ、ロア。離れるぞ! …………ロア⁈」


 俺の身体からなかなかロアが離れようとしない。

 それどころかむしろ、俺の背中に手を回してがっちりと俺をホールドしだす。


「くっ、ぬっ、離れ……ろ。…………あっ!」


 ベタだが、…………足がもつれた。

 俺の身体は前方向に倒れていく。

(くっ、このままだとロアが俺の下敷きに……)

 反射的に俺の腕が伸び、床を押さえて俺の身体を止める。

(……こ、これは⁉︎)

 まずい体制になった。

 具体的に言うと、俺がロアを押し倒している。

 こんな姿をニアに見られでもしたら、ジャブに右フックを絡めたワンツーをされる。


 早くどかないと。


 俺はそう思って立ち上がるが、どうやら間に合わなかったようだ。


「私の親友に、な、何をしているのかな?」


 顔を引きつらせながら拳を構えるニアが目の前に立っていた。


「と、特訓だよ! 」

「夜の?」

「そうじゃなくて! あの金髪碧眼のイケメンとの決闘に向けての特訓!」

「…………それならいいけど。とてもそんな風には見えないんだけど……」


(おろ? 今日は穏やかだな)

 ニアがジト目で見てくるが、なんとか事なきを得た。


「まあ、とりあえずお昼に…………」


 突然、クルルルッと小鳥のさえずりのような音が、ニアの言葉を遮った。


「…………お腹空いた」


 ロアは少し頬を染めながらそう言った。




 ◇◇◇




 なんとか魔術障壁を作れるようになった俺は、「レイジの魔法適性が分からない⁈」というニアの言葉を流しつつ、疲れた身体を休める為にいつもより早くに寝ることにした。


「攻撃はお前に頼ることにするよ」


 俺は自分の愛剣を胸に抱きかかえながら、明日に備えて眠りについた。


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