表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⚠︎精霊契約は計画的に!  作者: 柊 楓
精霊契約は計画的に
16/34

第15話 「リア充なのかな?」

 


「これがニアの通う学園か……」


 俺の前にそびえ立つ『フィルネレス魔法学園』は、俺の想像をはるかに超えて巨大だった。


「立ちつくしてないで、早くしなさい」


 ニアに急かされて俺は上履きに履き替え、前を行くニアを追う。


(広々とした校舎だな……)


 なんといっても廊下が広い。生徒数が多いが、これならストレス無く学園生活を送れそうだ。

 などと考えながら、ニアに連れられ二階に続く階段を上る。

 階段を上り終えたら右手側の廊下に進む。

 そこでニアが歩みを止めた。


「ここが職員室ね。んじゃ、そういうわけでまた後でね、レイジ」


 そう言うとニアは、自分の教室に向かって走り去ってしまった。

 不覚にも、少し心細くなったのは内緒だ。

 どうやら、ここが職員室らしい。


「失礼します」


 職員室に入った俺は昨晩ニアに言われた通り、まず自分の担任を探す。


(ニアは、カミラナ先生って言ってたっけ……)


 俺が職員室の先生の席順を見ていたら、突然、肩に手が置かれた。


「やあ、君が転入生君だよね!」


 振り返ると、ブロンドヘアーの若い女の先生がそこにいた。








  ◆◇◆








「私が君の担任の、カミラナ・レティシア。気軽にミラ先生って呼んでね!」

「わ、わかりました」


 ミラ先生のあまりの元気の良さに、俺は少し押され気味だ。

 ニアが言うには、ミラ先生は最近赴任したばかりらしく新人教師だそうだ。俺と歳がそんなに変わらないんじゃないか?


「ねえ?周りの視線が怖いんだけど…………私、何かしたかな?」


 ミラ先生が不意に聞いてきた。

 新人教師ゆえに、周りの生徒からの評判とかを気にしてしまい、過剰にそういうのに敏感に反応してしまうのかもしれないな。

 でも、安心していいですよ、先生に向けられた視線じゃないから……。


「あ、それは多分僕のせいです」


 俺がそう言うと、ミラ先生は不思議な顔をしていたが、詮索してくることはなかった。

 嗚呼……、周りからの冷めた視線が痛い。

 俺は別に悪いことしてないのに。

 そこから少し歩いて、ミラ先生は歩みを止めた。


「ここが貴方のクラスの四組ですね。…………緊張しますか?」

「それは、もちろん緊張しますよ」

「大丈夫ですよ。みんな優しい子ばかりですから!」


 そう言ってミラ先生は騒がしい教室に入っていく。

 先生に呼ばれたら教師に入る手はずだから、俺は胸の鼓動を早めながら待つ。

 ドア越しにミラ先生の声が聞こえてくる。


「今日は、みんなの新しい仲間を紹介したいと思いまーす! さあ、入ってきていいよ」


 ここは小学校か、とツッコミたくなったが今は抑える。

 転入生がくると知ってざわつく教室に、俺は満を持して足を踏み入れた。


「初めまして! 八––––––––––」

「「「来たな、クソ野郎!!」」」


 誰が、何人が言ったか分からないが、俺の自己紹介はその罵声によって掻き消された。

 みんな優しいってデマじゃないか。

 せっかく自己紹介を練習してきたのに……。

 ああ…………もう泣きたい。







「…………なんでこんなことに……。ハァ〜」


 時間はちょうど十二時。

 授業体系は俺の元いた世界と変わらなかった。

 そして、今はちんぷんかんぷんな授業を四時限分受け終え、昼休みに突入している。

 自己紹介時に罵声を受けるほど嫌われている俺は、特に誰からも話しかけられることなく、教室の隅で弁当を広げている最中だ。


 隣の席のエレナさんは昼休みに入るとともに、俺から逃げるようにして何処かへ行ってしまった。

 名前は知らないが、前の席の人もエレナさんと同じく何処かへ行ってしまった。

 俺がエレナさんの名前を知っているのは、「エレナさんの隣の席に座ってね」とミラ先生に言われたからだ。そもそも、ミラ先生も俺が嫌われていることに関しては放置してる。


 いざこざに巻き込まれたく無い気持ちは分かるから、特に先生を責めたりはしないけど、どうしてこうなったのかぐらいは聞いてほしかった。


(まあ、どうでもいいか)


 きっと、時間が解決してくれる。


「おい、ヤクモ! ニア様がお呼びだぞ!」


 突然、教室の隅にいる俺に、ドアの近くにいる男から怒号にも似た声がとんできた。

 ニアの前だからこそ、ヤクモと俺のことを呼んでいるが、基本は「クソ野郎」と呼ばれている。


 俺が何をしたというんだ?

 とりあえず、ニアが呼んでいるらしいので、ニアのもとに行く。


「お弁当まだ食べてないでしょ?今から、一緒に食べない?」


 ニアがお弁当を胸のあたりに持ってきて、俺に言った。


「あ、ああ。分かった」


 俺はニアの誘いを受けるが、正直、嫌な予感しかしない。

 だって、さっきのニアの発言は争いの火種にしかならないから……。


「「「ニア様、お弁当なら私達と食べませんか?」」」


 数人の女子生徒が、お弁当を持ってニアに迫る。

 ニアが俺を誘えばこうなることは分かりきっていたことだ、何も不思議ではない。

 平民クラスの俺が貴族であるニアと仲良くしているんだ、他の連中からしたらいい気持ちではないだろう。

 当然の結果だ。


「ごめんなさい。今日は、レイジと一緒に昼食を食べることにしたの。ですから、また今度、誘ってくださいね」


 ニアは女神のような微笑みを浮かべながら、優しい声で数人の女子生徒の誘いを断った。


「行きましょうか、レイジ」

「あ、ああ」


 背中に感じる視線がさらに痛くなる変化をひしひしと感じながら、ニアに連れられて俺は教室を出た。





 ニアに連れられて俺が着いたのは、学園の屋上だった。

 都会のビルの屋上に緑があるみたいに、この学園の屋上にも木が生えていて、ちょっとした緑道のようになっていた。いくつかベンチが設置されていて、ちらほらとカップルが見受けられる。

 …………リア充死すべし。

 ニアとは弁当を食べるだけだから、当然、俺はリア充ではない。


「あそこのベンチに座りましょうか」


 ニアの指差す先にある、木製のベンチに俺とニアは腰をかけることにする。


「ふふ、驚くなかれ。刮目せよ!」


 ニアは仰々しくそう言って、弁当箱を開放する。


「…………なっ!」


 まっさきに俺の目に飛び込んできたのは、濃厚そうなソースがたっぷりかかった肉厚なハンバーグだった。

 ニアの成長ぶりは、俺の予想をはるかに超えていた……。

 褒めて、と言わんばかりのニヤけっぷりのニアを無視しつつ、俺も自分の弁当箱を開ける。

 中身はニアのものと同じだ。

 フォークを取り出し、さっそく、ハンバーグを口に運ぶ。


(うん、美味しい。)


 可も無く不可もなく、ただただ美味しい。


「ねえ、美味しいでしょ?」

「美味しいよ」


 俺がそう言うと、ニアもハンバーグを口に運び、「レイジのより、美味しくできてるわね」と言う。

 悪かったな、へたっぴで。


(…………こうしてベンチで二人で昼食をとっている俺たちは、はたから見ればリア充なのかもな)


 そんな事を考えつつ、残りのハンバーグを俺は胃に収めていく。






 よくわからないリズムの音楽が6時限目の授業の終了を合図するとともに、俺は目を覚ました。


「やっと終わった…………」


 ようやくだ…………。長く苦しい戦いだった。

 特に、意味不明な授業と睡魔が猛威を振るっていた。

 まあ、俺の圧勝なんだけど。

 え、俺が負けてただって? おいおい、冗談は止めてくれ。

 ……一人芝居にも飽きた。

(……早く帰ろう)


 部活には入ってないし、学園にいる必要はない。

 そもそも、部活動があるのかさえ分からない。

 そんなわけで、教科書等の荷物をカバンに詰めて、いざ帰らん。


「……ん?」


 教室を出ようとした時、俺は周りの視線がおかしい事に気づいた。

 ゴミを見るような冷たい視線から、今にも死にそうな人を憐れむかのような視線に変わっている。

 一旦、教室から出て、壁に耳をつけて壁の近くで話しているクラスメイトの話を盗み聞く。


「……御愁傷様だな」

「仕方ない。それがあいつの運命だ」

「ちょっと、可哀想かも…………」

「殺されはしないだろうけど、半殺しは確定だな。まあ、あの馬鹿が貴族の機嫌を損ねるような事をしたから、自業自得ってやつだな」


 なにやら物騒な話がされている。

 どうやら、どこぞの馬鹿が貴族様の機嫌を損ねさせたらしい。

 御愁傷様で〜す。


「君、ちょっといいかな?」


 そう声をかけられて振り向くと、金髪碧眼のイケメンがそこにはいた。


「えっと、何か用ですかね?」

「僕の機嫌を損ねた要因である不届き者を探しているんだ。君は知ってるかい? ヤクモ・レイジという男を…………」

「………………」

「急に黙り込んで、どうしたんだい?」

「…………あ、すいません。いやー、聞いた事ないですね、そんな男」

「ふむ、知らないか…………。ありがとう。他を当たってみるよ」


 そう言って金髪碧眼のイケメンは俺の教室に入っていく。


「君たち、ヤクモ・レイジを知らないかい?」

「今、話してませんでした? ヤクモ・レイジは彼ですよ」


 教室の中からそんな会話が聞こえてくる。

 全身から血の気が引いていくのを感じながら、俺はダッシュでその場を離れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ