表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⚠︎精霊契約は計画的に!  作者: 柊 楓
精霊契約は計画的に
10/34

第9話 「事情」

 

 いったい、どれくらいの量の涙を流したのだろうか。

 涙で目の周りがカピカピになってしまった。

 俺とニアは散々泣き明かした後、洗面所に行って顔を洗ってから俺の部屋にいる。

 俺が自分の部屋に戻ると言ったら、話したいことがある、とニアが言ったためにニアは俺の部屋にいる。

 今ではニアは落ち着きを取り戻し、ベッドの上に俺と向かい合って座っている。


「さっきレイジが私に聞いたことに対して答えようと思います」


 なぜに敬語、とつっこみたくなるが話を円滑に進めるために止めておく。


「簡単に言うとね、私の家族はもう、この世にはいないんだよ……」


 その言葉を聞いて、俺は自分のデリカシーの無さに腹がたつと同時に申し訳ない気持ちで一杯になった。よく考えてみればわかることだ。娘を家に置いて旅行になんて普通は行かないだろうが。


「辛いことを思い出させて、本当にすまなかった…………」


 元の世界に伝わる精一杯の意思表示、土下座をして俺は謝る。


「いいよ、いつかは言わなくちゃいけない時が来るだろうし」


 笑うのが辛いはずなのに、ニアは笑って許してくれた。俺が顔をあげると、ニアはゆっくりと話を続ける。


「五年前に、私の両親と弟、それからメイド達は怪物に殺されたの。私が学校に行ってる間にね……。私に残されたのは、家の財産だけ」

「……メイドを雇ったりはしなかったのか?」

「メイドがたくさん死んだ家に、雇われたいと思うメイドがいると思う?」

「………確かにな」


 誰だっていわく付きの物件は嫌だろう。ましてや、同業者達が大勢死んだ物件なんて尚更だ。

 ……そうか、ニアはずっと一人だったのか。この馬鹿でかい屋敷で、一人で暮らしていたのか。


「ここね、死んだ弟の部屋だったんだよね」


 ニアは部屋を見渡しながら言った。


「そう……だったのか……」


 あの時の悲しい表情の理由がようやく分かった。


「…………出ていかないの? いつか、怪物に殺されるかもしれないんだよ?」

「あいにく友人が少なくてさ、他に俺の居場所はないからな」


 というか、友人なんていない。だから、他に行くあてなどない。

 そもそも必ず怪物が襲ってくるとも限らないし、それに、ここは居心地がいい。今のニアの話を聞いて、いろいろと俺の中で決心がついた気がする。

 ニアに嘘はつきたくない。


「なあ、ニア。本当は俺は、この世界の人間じゃないんだ」


 俺はストレートに言う。はっきり言う必要があると思ったから。


「……知ってた。最初に会った時から、そうじゃないかなって思ってた。召喚魔法なんていくらでもあるし」


 …………まあ、俺もニアが気づいてるんじゃないかと思ってたから、うん、予想外の展開ではない。

 予想外じゃないよ⁈ いや、まじで。


「俺がこの世界の住人じゃないって、いつ確信したんだ?」

「残念ながら、東の果てに小さな島国は存在しないよ」


 ニアはくすっと笑う。

 東の何処かには、小さな島国はあると思ったんだが、俺の考えは甘かったか。









 ◆◇◆









「なあ、どうしてニアは俺を助けたんだ?」


 常に疑問に思っていたことだ。

 助けた、というのは怪物との戦いのことではなく、俺を家に招き入れたことの方だ。

 俺はたいしてイケメンでもないし、ムキムキマッチョマンでもない。ロアがこの世界では、与えられたら与えないといけない、と言っていた。

 なのに、俺はニアに与えられてばっかりで、何も与えることができていない。今日だって、俺はニアに服を貰った。

 これじゃあ、ヒモ生活じゃないか!

 どうして、こんな役立たずの俺を拾ってくれたのか、俺にはそれがわからない。


「レイジは一応、私の命の恩人だし。それに…………レイジは、私の近くから勝手に離れていかない気がするんだよね。あの怪物の一撃をくらって生きてたし」


 ニアは微笑みながらそう言った。

 私の近くから勝手に離れていかない……か。


「お、おやすみ!」


 ニアが布団にくるまる。

 ニアさん、忘れてないですかね?

 ここは一応、俺の部屋なんですが……。

 布団は一枚しかないのですが……。


「自分の部屋に戻…………いや、何でもない。…………おやすみ」


 あの話を聞いた後では、自分の部屋に戻れなんて口が裂けても言えない。

 五年間、寂しかったんだろうな。


(俺は、ニアの近くから勝手にいなくなったりしないから)


 ベッドを占領されている俺は、仕方なしに床で眠った。









「ねえ、どうしてレイジが私と同じ部屋で寝てるの?」

「いや、それはニアが俺の布団に入ったからだろ」


 ニアの顔がみるみる赤くなっていく。昨日の夜をおもいだしたんだろうか?

 …………顔が赤くなるにつれ、それに同調するようにしてニアの腕もローズレッドの輝きを帯びていく。


「言い残すことは?」

「…………理不尽だ」







 ◆◇◆







 俺とニアが互いをさらけ出した日から、一週間が経つ。ロアの渡してくれた本を読んだこともあり、この世界のことが少しずつだけど分かってきた。

 それに近所の人達とも交流するようになり、いろいろ楽しくなってきた。

 近所の人達は俺のことを、ニアのフィアンセ兼奴隷だと思っているらしく、よく茶化される。

 特におばさん達に。

 でも、おばさん達とのトークは俺にとってはとても重要だ。おばさん達と話すだけで、街の話題や世情を把握できる。

 これほどに便利な情報ツールがあるだろうか?

  いや、無いな。

 暇だし、今日もおばさん達から情報を集めるとしよう。


「食べ終わったら、食器洗っといてね〜。それじゃあ、行ってきまーす」

「あいよ」


 つい最近までは学校がちょっとした休みだったらしく、今日からニアの通う学校が再開するらしい。

 それはそうとして、俺は食器を洗って片付けよう。


(…………暇だ)


 学校に通う必要がないのは嬉しいことだが、めちゃくちゃ暇だ。ロアから渡された本も読み終わったし、することがおばさん達と話すことぐらいしかない。

 おばさん達と会話して暇をつぶすとか、いくらなんでも悲しすぎるだろ。

 俺だって、おばんさん以外の人とも会話したい。

 特に美少女と会話したい。

 いや、それは贅沢というものだ。この際、美少年でもいい。

 なにはともあれ、外に出ないことには何も始まらない。食器洗いをパパッと済ませて、外に出るとしよう。


 この世界には鍵という概念は存在しないらしく、ニアが言うには生体エネルギー、もとい魔力で識別するらしい。戸締りの方はバッチリというわけだ。

 俺は食器洗を手早く丁寧に終わらせて、外に出た。


「…………おはよう、レイジ」


 外に出た直後、抑揚のない声が背中にかけられた。

 振り向くと、眠たげな表情のロアがいた。


「こんなところでどうしたんだ?」

「…………学校に行く途中」


 ニアはけっこう前に屋敷を出て行った。

 ニアの性格から考えると遅刻しないギリギリの時間で登校してそうだ、朝もゆっくりしてたし。

 と考えると、ロアは俺に話しかけている場合ではないんじゃなかろうか?


「…………遅刻不可避」


 俺の予想は当たっていたようだ。


「…………今日は休む」

「いや、行けよ⁈」


 元の世界で、遅刻するぐらいなら休む派だった俺が言えることではないが。


「…………遅刻するぐらいなら休む」

「一理あるな……」


 納得してしまった。いや、納得せざるを得なかった。

 遅刻して恥をかくぐらいなら、仮病を使って休みたいもんな。

 ロアを見ると、どうやら先生に休む連絡を入れているらしい。

 耳のところに魔法陣が展開されていて、スマホ等の機械は使っていない。

 魔法って便利だ。


「…………先生。……男に声をかけられたから、休む」


 もっとマシな言い訳をしろよ。それじゃあ、休む言い訳になってない。

 それに、声をかけたのはロアのほうだろ。


「…………休んでいいって」

「あの言い訳で休めるって、どんな先生だよ…………」

「……婚期逃した、年増」


 さらっと聞いてはいけないことを聞いた気がする。

 その先生には、強く生きて欲しいものだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ