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⚠︎精霊契約は計画的に!  作者: 柊 楓
精霊契約は計画的に
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プロローグ

(よし、今日の妄想終了)


 俺はベッドで仰向けの状態で目を瞑ったまま、そう頭の中で唱える。

 今日も楽しい妄想ができた。満足だ。

 ただ、本当の意味では満足してはいない。甘い微睡みに身を任せている俺の口からは、


「ああ、異世界に行ってみたい」


 時折そんな言葉が漏れる。

 口癖になる一歩手前ぐらいに、俺は多用していることだろう。

 そんな俺は異世界に行くことを夢見ること、はたまた妄想することを、毎日のように続けていて今年で妄想歴は約十年目になる。


 男の妄想と言ったら、下品で卑猥なエッロエロな内容だと思うだろうがそんなのではない。そもそもの話、妄想という言い方が悪いのだ。


 それこそ「夢見る」と言い換えてしまえば、その辺の女共にも使えるような、メルヘンチックだのファンシーだのというニュアンスを含むはずだ。そんなわけで妄想には何の恨みもないが、「妄想」を「夢見る」という置き換えを全世界に推奨してみたいわけだが、ぶっちゃけどうでもいい。


 自分の妄想なんてものは他人に話すものではないし、共有するものでもない。いくらメルヘンチックに、ファンシーに言い換えたところで特に意味はない。

 まあ結局のところ、俺はエッロエロな妄想をするわけでもなく、先ほど言ったように自分の憧れみたいな感じで異世界に行くことを夢見ているわけだ。


 異世界に行きたすぎて、部屋の中で「エクスカリバァァァァッ!」などと叫びながら木刀を振り回した結果、テレビの液晶をぶっ壊したのはいい思い出。それのおかげで、世にはびこるアニメオタク文化なるものに相いれなくて済んだと言えば少しは救われるものだが。

 とは言ったけど、結局のところアニメは見ているのだけれどね。

 アニメ面白いから仕方ない。

 とまぁ、そんな俺が異世界に行って何をしたいか、答えは単純明快だ。


 王様になりたいだとか、魔法を使いたいとか、お姫様を救いたいとか、そんな高尚な望みじゃない。

 俺はただ、こんなつまらない世界から、おさらばしたいだけだ。

 なんの面白みもないこの世界で、ただ毎日を惰性で生きるなんてごめんこうむる。


 この世界が面白いか面白く無いかは、個々の考えで違う。

 だから俺の答えに対する反論は唱えさせない。


「嗚呼、異世界ライフを満喫してみたい……」


 悲しい事に今の俺には、ぼやくことしかできない。

 折角、いつ異世界に行ってもいいように、子供のころから近所のおじさんに剣術を習ってるのに。

 まぁ、いいさ。いつか異世界に行ける日を夢見て、今日も俺は愛用の木刀を抱いて眠るとしよう。


 異世界に行きたいだとか、厨二病もほどほどにしろって?

 生憎だが、俺はこの生き方しか知らない。

 それに誰しも、一度は小さい頃に夢見たんじゃないだろうか?


 異世界の勇者に成る自分を。


 異世界で魔道士に成る自分を。


 異世界に召喚される自分を。


 だから俺ははっきり言うとしよう。


 『俺は他の人より少し長く、夢を見続けているだけなんだ』


 それじゃあ、今日も今日とて夢を見よう。

 自分が異世界に行く夢を見よう。

 異世界を冒険する妄想をしよう。


 おやすみ。


 そう自分に告げると、俺の意識はすぐに深い深いところに落ちていった。






  ◆◇◆






 《夢見る男の子でいいのか?》

 不意に深い闇の中で声が聞こえくる。聞き覚えのある声だ。

 …………そうか、自分の声か。

 とうとう、異世界に行きたくてしょうがない俺の心が話しかけてきてしまったか。


 《夢見る男の子でいいのか?》

 うるさい、黙れ。俺は妄想するのに忙しいんだよ。

 ああ〜心がぴょんぴょんするんじゃ〜〜。


 《夢見る男の子でいいのか?》

 しつこい男は嫌われるぞ。


 《夢見る男の子でいいのか?》

 ………………。


 《夢見るだけで、お前は満足なのか?》

 …………そんなわけないだろ。


 《どうしてこの世界に満足してない?》

 この世界はつまらなくないけど、楽しくもないから。


 《……まあ、頑張れ》

 自分に慰められるとは思っていなかったよ。


  《異世界に行きたいか?》

  ……当たり前だ。


 そう答えたのを最後に、俺の意識は覚醒し始める。




 

 ◆◇◆





 パチッと目を開けて飛び込んできたのは、眩しい日差し。

 俺の部屋は完全に締め切っている。日の光が差し込んで起こされるなんてありえない。

 それに、柔らかいベッドに横たわっているはずなのに、固い感触が背中から伝わってくる。

 俺は気だるげに身体を起こして、周りを見回した。

 そして気づく。


「ここ……何処だよ?」


  俺が寝っ転がっていたのは固い地面の上。

 そして、目の前に広がっていたのは大草原。大小様々な生物がちらほらと見うけられる。

  空を見上げると、そこにいたのは大きな翼を携えたドラゴン。


「…………嘘だろ?」


 どんなに目をこすっても、頬をつねってもこの夢は覚めない。

 止まない雨は無いと言うように、覚めない夢も無い。

 すなわちこれは、紛れもなく現実であり異世界だ。

 目の前の非日常に茫然としながらも、俺の顔は次第に口角が上がっていく。


 異世界に行く妄想をして約十年。

 童貞十七歳、八雲 怜治と名を授かり世に生まれおちた俺は嬉々として呟いた。


「今、妄想は現実へと昇華した……」


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