-第39-リーナの力量
「さーてっと……どの武器がいいかなぁ」
スペクトラは片手を開き、頭上に挙げると何もない場所から武器が何本も降り注ぐ
その武器のどれを取っても……先端に血が付いておりベタ付いている物もある
それを見て、引く事なくリーナはスペクトラに笑顔で話かける
「武器の血はちゃんと拭かないと錆びるわよ?」
「ん? だいじょーぶ、この武器達は特別なやつで
錆びないようにできてるの」
リーナの顔を見ず質問に答えながら武器と1つずつ取り選んでいる
その光景は明らかに子供が遊び道具を選んでいるように見える
だが、そんなスペクトラに隙はまったくない
『この子……殺し合いを遊びとでも思っているのね』
リーナは黙って腕を組み、スペクトラが武器を選ぶのを待っている
すると、スペクトラは1つの大斧を取ると片手でくるくると回し構える
「よしっ、これに決まり」
「よくそんな重たい武器持てるわね」
「え? 軽いよ? 持ってみる?」
「遠慮するわ」
スペクトラは笑顔で血の付いた斧をくるくる回しながらリーナと話をする
その最中に攻撃してもいいと思ったリーナだが……合えて会話をする
しかし、スペクトラはそんな時間稼ぎにわざと合わせているのか付き合っている
「……スペクトラって言ったけ」
「うん、そうだよ」
「そろそろ始めましょ、あなたの最初の敗北の戦いを」
「あははは、いいよいいよ……私が負けるとこ見てみたいかも」
その瞬間、スペクトラの右目が紅く光
まるで『遊び相手』を見つけたように微笑みながら両手で大斧を軽く持つと
リーナ目がけて飛び込むと大斧を叩きつける
「どーん!」
「危ないわね」
スペクトラの大振りの斧からの叩きつけを後ろに下がり避ける
すると、スペクトラは笑顔で大斧を持ち直しぶん回す
「えいえい、あったれー!」
「当たらない、当たらない」
「むぅ……」
リーナは微笑みながらスペクトラの大斧を避け続けると
暫くしてスペクトラは大斧の先端を地面に置き、両手をだらんと下げ
リーナの顔を睨むのではなく、何かを考え始める
『……思ったより強くないわね』
そうリーナが思った直後、スペクトラは大きな声で『あ、そうだ!』と言い
大斧を両手で持ち直し腰を後ろに持っていく
それは大振りの構えに見えるが、スペクトラはそのままの姿勢から動かない
「溜めて……溜めて……」
その小さな呟きをリナリアは聞き逃さなく、リーナに叫ぼうとした時
ロイがリナリアの前に手をだし、それを止める
「ロイ様?!」
「……大丈夫だ、リーナは気づいている」
「え?」
リナリアはロイの言葉にリーナの方を見ると微笑みながら両腕を組み
少し羽ばたいている、その表情は余裕があるように見える
「……どうして、相手は5枚羽なのに」
「リーナにはスペクトラの考えがわかってるんだろ」
「わかってる……?」
「ああ、きっとな、だからあんなに余裕なんだろ」
そこまで話した時、スペクトラは溜めた力を放ちリーナに接近すると
斧を構え、横から薙ぎ払う……その音はこの20盤全体を震わせる一撃
なのに、リーナは平然とした顔で右手1本の魔力シールドでその攻撃を防いでいる
『魔力シールド』
魔法が使える者なら誰でも使える一般的な魔法
手に魔力を溜め、それを円や四角に形成し、相手の攻撃を防ぐ
ただ、そのシールドは簡単な攻撃を防ぐ手段で
大魔法、強い攻撃は貫通されるため、遠距離戦で使用されるケースが多い
「なっ……」
それに一番驚いているのはスペクトラ本人
自分自身の一撃を右手1本、しかもシールドで阻まれる事
「こ、このー!」
スペクトラはさらに力を込めるが、リーナの体は1歩たりとも動かない
動いたと言うのなら、その風圧でリーナの髪が少し揺れたぐらい
「この程度が5枚羽の力?」
その言葉とリーナの殺気にスペクトラは斧を捨て後ろに飛び退いた瞬間
斧は音を立ててリーナに右手に潰される
「……ふふ、じゃあ少し本気をだそうかなっ」
「ええ、遠慮なくどうぞ」
リーナは両腕を組んだまま微笑んでいる
その光景にリナリアは唖然とした顔でロイに言う
「……あれは本当にリーナなんですか?」
「ああ、そうだな……というか、まだ気づかないのか?」
「え?」
「リナリアはとっくに気づいていたと思うが
ああやって体を浮かす事で攻撃の威力を弱めているんだ」
「だから、あの一撃も片手で……?」
「元々、リーナは魔法じゃなくて物理が得意だからな
ガード系ならリナリアよりも上なのかもしれないな」
「……たしかに物理シールドと魔法シールドは構成が違いますけど」
リナリアはどこか納得せず、右手顎に当て悩みだす
それにロイは何も言わず、リーナの方を見ながら微笑む
『一番大切なのは、以下に戦い慣れしているか……だな』




