表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
4/42

到着

 あれから三日が経ち、今日中には龍ヶ峰家本家に着いてしまう。


 彼女はやたらりんごジュースを飲みながら、だんだん近付く距離に眉尻を下げた。

 そんなに緊張しなくてもいいと沙紀は言ってくれたが、不安と緊張は消えない。逆にどんどん増していく。


「一応、龍ヶ峰家について説明しておくわね」


 正直聞きたくはなかったが、予備知識として知っておかなければ、何か失礼かもしれない、とジュースを飲みながら話を聞く。


「龍ヶ峰家はもともと土地の豪族で、龍を救ったことから栄えたと云われているわ」

「龍?」

「知らない? "四神"って。そのうちの青龍を、あたしたちのご先祖は救ったの」


 まあ、そこはどうでもよくて、と沙紀はにべもなく切り捨ててしまう。


「一族の人間は、あらゆる業界にいるわ。警察、政府、芸能界、町工場に至るまで。あらゆる太いパイプを持っているのよ。龍ヶ峰家が恐れられるのはそれが所以。あたしは無職だったんだけど、あなたのお世話係っていう仕事を貰ったわ」


 ミラー越しにウインクを投げてくる。


「現当主は九十九代目。一昨日も言った通り、あんまり期待しないでね。これから嫁入りする子に言うのもおかしいけど。ともあれ、大体みんないい人たちよ。仲良くできると思うわ。何か質問は?」

「…なんで、私を?」


 言葉少ないながらも、沙紀は命の言わんとすることを理解して、静かに告げた。

「それは当主に聞いた方がいいわ」

 未来の夫なんだから、と。命は空になったグラスを置きながら、不安に胸を詰まらせた。


 *****


 このまま事故が起こって到着できなければいいのに、という命の願いというより呪いが果たされることはなかった。

 昼食もあまり喉を通らず、そのかわりトイレには何度も行った。


 そしてとうとう到着したのが、これまで宿泊してきた、龍ヶ峰家経営の旅館が足下にも及ばないほどの豪邸だった。まず敷地が桁違いだ。そして何棟にも渡って建つ屋敷。


 呆気にとられる命を強引に車から下ろして、沙紀は門まで案内した。そこには一人、初老のおじいさんが居て、他には誰もいなかった。彼に沙紀が名乗ると、おじいさんはお帰りなさいと返して、命が名乗ると、ようこそ、と返した。


 一歩中に入ると、そこはまた城のようだった。日本の世界遺産にも引けを取らない、見事な造り。ここに洋服の自分が居るのはおかしい、と命は訴えたが、何を馬鹿なことを、と一蹴された。

 一歩一歩踏みしめる度、不安が募り爆発してしまいそうになる。泣きそうな命のためにか、沙紀は人がいない道ばかりを選んでいた。


「とりあえず庭に行くわ。そこに居るはずだから」

「誰が?」

「泰澄」


 知らない人だった。ともかくにも人に会わなければいけないらしく、命は唾を飲み込んだ。


 辿り着いたのは、見事な庭園だった。草花が様々に咲き乱れ、それと水琴窟の響きが目と耳を楽しませる。そこに、彼はいた。

 四十代あたりの男性だ。燕尾服を身にまとい、それがまた似合っている。白髪が混じり始めた黒髪と細いフレームの眼鏡。厳しさと優しさを兼ね備えた、眼差しをしていた。


 泰澄、と呼ぶ沙紀に反応して片手を上げたことから、この人が泰澄であるとわかった。

 二人で近づくと、彼は持っていたガーデニング鋏と菊の花を置いて、命に対して自己紹介をする。


「龍ヶ峰 泰澄と申します。ようこそおいでくださいました、命様」

「こんばんは…」

 その様子を見ていた沙紀が、挑むような視線を泰澄に投げる。

「予定は?」

「…この後は宴会だけだ。八時には始まるから、支度しておけ。命様の服は桜の間に準備してある」

「わかったわ。行くわよ、命。あなたの部屋に案内してあげる」

「うん」

「ごゆるりと。命様」


 お辞儀する泰澄に、命は会釈だけ返して沙紀を追っていく。その後ろ姿が完全に見えなくなると、彼は燕尾服の胸元から黒い携帯電話を取り出した。

 二、三度ボタンを押し、耳に押し当てる。相手はすぐに出た。

「ご到着されました」

 本当か、と返されると、間髪入れずにお急ぎください、と告げる。

「当主」



前回2日なんちゃら言ってましたが、忘れてください。


何はともあれ、到着です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ