表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
34/42

鬼、覚醒

しばらく頑張って更新しようと思います(`・ω・´)

新年初投稿!

「なあ、馬鹿餓鬼」

「なんだ、ババア」

「嫁さんは可愛いかい」

「……」


 思えば、鬼瓦朱里とも長い付き合いだ。

 死んだ祖母と同じくらいの歳だったはずだが、鬼瓦朱里は未だ若々しい。歳を感じさせない所作は優雅で、度々開かれる旧家名家の当主を集めた茶会では視線を集めていた。

 齢六十二。老い先は長くない。


「なぜ、そんなことを訊く」

「理由なんて決まってるじゃないか。私の本能が叫んでるんだ。……いや、本能ではないね。少なくともこれ(・・)は、私の意思ではないからね」


 胸に手を当ててそう告げる彼女に、当主は何も言わない。お決まりのように、冷ややかな言葉を投げることもなかった。


「夜が近くなるとね、この体は言う事を聞かなくなるんだ。好き勝手に暴れて、人を傷つける」


 普通の人間が聞いたならば、精神異常者とされるだろう。だが、彼らにそれは身近すぎた。


「ババア、眠るのが恐ろしいか」

「ああ」

「狂うのが怖いか」

「ああ…」

「ならば、」


 認めよう。鬼瓦朱里に、彼女は必要だ。

 ―――できるのなら、ずっと手元に隠しておきたかった。


「ならば信じろ、俺の花嫁を。お前を必ず救うだろう」

「……ああ、そうさね。あんたの嫁なら、信じられそうだ」


 彼らが何をするつもりなのかは判らないが、信じろと確たる自信を持って言うのならば、鬼瓦朱里も疑わないことを決める。

 彼女がいるはずの庭は、もう目の前に迫っていた。


 *****


 その庭は、命が初めてここへ来て、泰澄に会った場所だ。

 一番不審に思われない場所で、広く、いざと言うとき周りを巻き込まないためにと、この庭が選ばれた。


 そうして、庭に鬼瓦朱里を導いてきた当主は、命の隣を目指して向かって来た。

 未だ朝のことが抜けきらず、戸惑いを見せる彼女に、内心当主は命以上に戸惑っていた。嫌がられたわけではないと思う。しかし、こうまで露骨だといっそ微笑ましいな、とも思う。

 結局のところ、当主にとって神楽命とは、"愛しいもの"でしかなかった。


「……その子が嫁かい」

「はじめまして、神楽命と申します。本日はわざわざご来訪いただき、ありがとうございます」


 礼儀正しく膝を折った命に、鬼瓦朱里は頷いた。


「顔を上げな。―――神楽家の姫だね」

「姫、と言うほどのものでは…」

「いいや、姫だ。白髪白眼…まさか生きているうちにお目にかかれるとは思ってもいなかったよ」


 命は小さく肩を震わせた。神楽家の者で白髪白眼……神呼の姫である証拠は揃っている。彼女は感心したようにそう言った。

 真っ直ぐに鬼瓦朱里を見つめた命は、目を逸らさずに告げる。


「鬼瓦朱里様、無礼を承知ながら、あなた様の"鬼"を封じる許可をいただきたいのです」

「なんだって?」

「どうか信じてください。あなたの害になるようなことはしません。今だけ、わたしにいのちを預けてください」


 懇願するように正面からそう告げた、天使のような少女。

 いつもなら、優しく穏やかな微笑みをたたえ、震えたり真っ赤になったり真っ青になったりと忙しい彼女が、今はとても頼もしく見える。

 見惚れる、とはこういうことを言うんだろう、と当主は惚けた顔をしている鬼瓦朱里を見た。本当に人をたらすのが上手い。


「ちょ、命、不意打ちするって計画だったじゃないの!」

「でも、まだ話せるんだから話し合った方がいいと思って…」

「それはそうだけど!」


 目の前で不意打ちするつもりだったと暴露する二人に、鬼瓦朱里は苦笑とともに命の願いを受け入れた。

 なんというか、毒気を抜かれまくった。


「よろしく頼むよ、嫁さん」

「はいっ」


 *****


 神楽家からの巫女が、それぞれ違う文言を唱えている。流暢な日本語のようだが、三人の声が絡み合っていて詳しくは聞き取れないようになっている。


 命は意を決して鬼瓦朱里の背中から、それ(・・)を引き剥がした。

 途端、耳をつんざくような叫び声が聞こえる。鬼瓦朱里の体から、引き離されないようにともがいているその鬼の幻影が見えるのは、神楽家の人間と神だけだ。その他には、叫び声さえ聞こえない。


「…っ」


 耳栓をしても聞こえてくるのだから、これはもう耐えるしかない。それよりも大変なのは、非力な命が鬼の力に対抗できないことだ。

 引き剥がして、封じて、清めなければならないというのに

 生命力の強すぎる鬼は、命に引っ張られてしまったぶん、戻ろうとするのに必死だ。もちろん彼女も全力で抗う。

 鬼とは、気性の荒いものらしい。角が生え、厳しい顔付きをした略奪者。それに憑かれた鬼瓦家とは、一体なんなのか。本当に一度、詳しく調べてお父様に報告しないといけない。


「命っ、どうしたの!?」

「こ、この鬼力が強くて! 融合率も高いから剥がれにくいんだ」

「手伝った方がいい?」

「ううん、多分、あんまり意味は無いと思う」


 どうしよう。身体の一部と化した鬼は、容易く操れない。融合体との相性が良すぎたのか、拒否反応もなくともに生活していたそうだし、ここまで来ると力技ではない他の方法も視野に入れなければならなさそうだ。


「柚月さん、破魔の呪文はご存知ですか」


 彼女が呪言を唱えながら頷く。他の二人にも確認するように目を向けると、力強く頷いてくれた。

 思わず笑みを浮かべる。流石、神楽家の巫女だ。


「一節だけ、唱えてください。それ以上は危険なので」

「わかりました」


 すぐに重なった声が耳に流れてくる。破魔の呪文は最も影響力が高いため、滅多に使われることのないものだ。封じの儀式では重宝されやすくもある。


 すぐに影響が出始めたのか、鬼が強く暴れた。鬼瓦朱里の身体ごと揺れて、動きが制御できない。

 そのとき、それが前に倒れた。乗り出した身体に命は着いていくことができなくて、掴んでいた手が、離れる。


「はがれ……」



 後ろに尻もちをついて倒れた命の目の前で、独特な咆哮とともに、鬼と鬼瓦朱里が、完全に重なった。


 深く融合した。


 長い長い咆哮を終え、起き上がり振り向いた彼女の額には、二本の角が皮膚を突き破って生えていた。


 瞳の瞳孔が獣のそれになっていて、皮膚が破れたことにより流れた血が、よりそれを不気味に際立たてせている。


 沙紀の悲鳴と巫女たちの絶望に歪んだ嗚咽が、酷く遠くで響いて耳に届いた。


 鬼瓦朱里と融合し、覚醒した鬼。


 目が合うと、彼女は不気味に嗤ってみせた。





挿絵入れたい……!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ