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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
33/42

不自然

キタ━━━(゜∀゜)━━━!!!!

「命様、実は当主様から内密にご連絡があるのです」


 柚月の台詞に、命は驚いて顔を上げた。

 このタイミングで父からの連絡。何と言われるかわかったものではない。

 怒られるのか、叱られるのか。言葉だけでの連絡だとわかっていても空恐ろしい。

 恐る恐る先を勧める命に内心苦笑しながら、柚月は意を決して口を開いた。


「天様が神呼かみよばいを行い、神詞かみことばを授かりました。神の名はギリシャ神話の太陽の神、"アポローン"。予言です」


 驚いた。アポロンが予言を授けるとは珍しい。命でさえ、未来のことははぐらかされてしまうのに。

 しかし、それを伝える役割を任された彼女たちの浮かない表情からして、それはあまりいい予言ではなかったのだろう。


「柚月ねえさん、本当に今言ってしまうの?」

「ならばいつ告げるというの。命様にも心を決める時間が必要だわ」

「それはそうだけど……」

「構いません。どうぞ、いま」


 歯切れの悪い葉月に被せるように言う。

 神から授かるものに恐れはあれど、怯える必要は無い。


 大体、神とはほどほど間が悪いのだ。はじめに教えてもらわなければ、その突発的な行動の餌食になってしまう。そのことをよく知る神楽家の巫女たちは、ようやく腹をくくって告げた。


 *****


 巫女とともにやって来た命を視認して、沙紀は目の前の背中に声をかけた。


「来たわ」

「そうか」


 至極いつもの反応だ。そんなこと沙紀が伝える前にわかっていたと言わんばかりだ。

 冷酷という言葉を欲しいままにするその男は、ゆっくりと彼女たちを振り返る。


 和やかにこちらへ向かっていた彼女たちの中で、異彩を放つ少女がいた。

 巫女服とは明らかに違う、白い白いワンピース。風を受けてふわりと舞う度、明らかに上等な布で作られたそれはきらきらと輝いている。

 染められていたはずの黒髪は元の色を取り戻し、白というより白銀に近い。昨日までカラーコンタクトで隠されていた白の瞳も、ともすれば磨かれきった宝石のように艶やかだ。


 天使だ、と沙紀は息を呑んだ。紛うことなき天使がそこにいた。ここ数日、彼女とともにいたが、あれほどまでに……。

 すると、こちらに気づいた命が駆け寄って来ようとくる。しかし、途中でなぜかぴたりと動きを止めた。


「と、うしゅさ……」

「姫、早くしろ」


 彼女の方も向かず素っ気なく告げるやつが不自然だ。沙紀は長年の付き合いからこいつら何かあったな、と察した。

 命は薄らと頬を染めて、彼の死角に回り込んだ。それは沙紀の背中で、なんとなくくすぐったい気持ちになった。


「命、何かあったの?」

「あああありましたけど、た…大したことじゃないです」


 盛大にどもりながら答えた彼女の真っ赤な顔に苦笑する。誤魔化すのが、下手。

 これは何かしたのは当主だな、と踏み、背後から目を眇めて彼を睨んだ。


 そんな三人の様子を傍目から見ていた巫女三人は、婚約者同士の仲はあまり良好ではないのかと考える者一人、何かあったのかと訝しむ者一人、にやにやする者一人と、それぞれ考えを巡らせる。


 唐突に、廊下に慌ただしい足音が聞こえた。目の前の正面玄関を見つめた命は、「来る」と呟き、廊下からやって来た泰澄は冷静に告げる。


「皆様、覚悟はよろしいか?」




 そしてそれは、やって来た。


 玄関の扉に影が映り、横開きの扉が音もなく開く。

 妖艶な初老の女。紫紺の着物を着て、白髪の混じった長い髪を背中に流している。

 笑みを浮かべてお辞儀を返す彼女に、不自然な点は見当たらない。至っていつもの、鬼瓦朱里だ。


「なんて、こと……」

「…まさか、こんなに…」

「どうして、そんな…」


 内心訝しんでいたところに、三人の巫女の驚愕を顕にした声が耳に届いた。小さい声だったが、この距離の沙紀にも届くのだから、当主にもとどいたはずだ。


「何かあるの?」

「ええ、できればもっと早く気づけばよかった」

「何が、そこまで……」


 当主と挨拶を交わす鬼瓦朱里を見ながら訊ねる。呆然とする彼女たち、神楽家の人間には見ることが出来て、一般人である沙紀にはわからないもの。

 それすなわち、異常のこと。


「できるだけ早く、庭に連れて来て」


 それを言い置いて慌ただしく踵を返した巫女たちを振り返ることなく見送って、沙紀は命を見た。

 白の瞳を見開いて、鬼瓦朱里を見つめている。そこを抉りとるかのように、強く。


「ところで響、今日は何の用なんだい? ようやく花嫁を見せてくれる気になったのか?」


 揶揄するように笑う彼女に白けた目を向ける当主。別段変なところはない。いや、一般常識にしてみればおかしいことだらけだが、これは龍ヶ峰響にとって平常運転だ。

 生憎と、鬼瓦朱里から命と沙紀は死角の位置にいる。まだ、始める時ではないから。


「ひとまず、こちらへどうぞ」


 泰澄が彼女を案内する。その当主を含む三人の背中が見えなくなると、沙紀は息を吐いた。


「やっぱりあの人苦手だわ。なんていうか、威圧感がすごいのよね」


 その鬼瓦朱里の威圧感を凌駕する不機嫌さを持つ、龍ヶ峰家当主もすごいが。


「で、どう命。上手く行きそう?」

「わからない……。だって、もう手遅れかもしれない」

「なっ」

「もうほとんど融合してる。実体はないけど、頭から角が生えてた」


 鬼の証とも言える角。鬼瓦家の家紋にも、確か角が刻まれていたはずだ。


「前にはなかったのよね?」

「うん。たった三日でこんなに進むなんて…。で、できるかどうかわからないけど、やるよ」

「お願い、命」


 鬼瓦朱里は確かに怖い人間だが、忌むべき人ではなかった。だから、助けて欲しい。


 もう、はじまる。




次回から本格的にバトル回です。

みなさん覚悟はよろしいか?



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