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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
28/42

神楽の至宝

お久しぶりですm(。≧Д≦。)mゴメ-ン

「どうして、そんなことわかるの」

「わかるわよ、私を誰だと思うの?」


 神楽家宗家次女、神楽天。十八歳。

 神楽家の神呼の力を授かる者にはムラがある。現に、命は“神呼の姫”という称号を受けているが、彼女たちの姉である長女はほとんど一般人と変わらない。

 多少霊感のようなものがあるくらいで、だからこそ、一般社会に働きに出ることができる。


 天は、命よりは小さいが、姉よりは大きい力を持っている。命が神呼を身につけるまで、神楽家の芯として動き回っていたのだ。経験は“神呼の姫”より多い。


「今まで、神呼の力を利用しようとやってきた者は、一様にお父様によって追い出されているわ。けれど、純粋に、ただ神詞を受けて希望を見いださんとしている者の判別はつく」


 天は、静かに瞼を閉じて胸に手をかざし、その手を中心に気を高めた。何をしようとしているかなど沙紀に分かるはずもなく、ただそれを見ていた。


「雰囲気で、わかるのよ。あなたは過ぎた野心や欲を持っていない。こうして本当の目で見れば、最初からわかっていたことだわ」


 そう呟くように言いながら、閉じていた瞼を開く。その瞳の色は、白――。

 彼女の瞳の色は、黒だったはずだ。紛れもない闇の色。しかし、今は神呼をしていたときの命と同じ色。強く脳裏に焼き付いていた記憶が呼び覚まされる。

 沙紀はその美しさに息を呑み、魅入られた。


「わかるでしょう? 私も神楽家の娘。命の紛れもない姉よ。私が行う神呼に失敗はなく、神詞に嘘はない。―――だから、命は必ず連れ戻すわ。それでもいいのなら…」

「構わない」


 間髪入れず答えると、天は愉快そうに笑い、ひとつ頷いた。

 それと同時に、黒い髪が揺れる。神呼のときの命は白髪だったが、そこは違うようだ。

 それも、命が“神呼の姫”だからか。


「そう。それでいい。悩む必要なんてないの。聞いたところで、あなたには神楽家の支援しかできないのだから」


 そうだ。神楽家の者以外には、神呼の力は一片たりとも与えられない。だから、聞いても何ができるというわけでもない。沙紀は確かに龍ヶ峰家の者だが、家を動かせるほどの権力も持たないのだから。

 真っ赤な瞳のまま、天は本題を振った。


「さて、あなたは何を聞きたいの?」

「…命から聞いたわ。神楽家は神を呼ぶこともできるけれど、追い払うこともできるのだと。今日ここに来たのは、取り憑いたモノを追い払うためには――いわゆる除霊をするためには、どうしたらいいのか訊きに来たの」


 真剣な眼差しで訊ねる沙紀の視線を真っ向から受け止め、天は少し考える仕草をした。


「なるほど。それは命にはわからないことだわ。あの子は除霊をしたことは愚か、見たことすらないでしょう。仮に見ていたとしても、ほんの少しだけだろうから。……いいわ、教えましょう。ただし、これはあくまで神楽家の者がやることだから、普通の人が行えば、必ず後遺症が残る」


「わかった、教えて。必ず、命の役に立つわ」

「そうならなければ困るのよ。神々はあの子を手ぐすね引いて待ちかまえてる。仮に命が無茶なことをしようものなら、地上は災厄に見舞われてしまう」

「ど、どういう意味…」

「仮に、もし仮にみこといのちを落とせば、寄り場を失った地上を、神は今度こそ見捨ててしまうでしょう」


 “今度こそ”。その言葉が胸に引っかかる。

 どういうことか、混乱した頭ではよく飲み込めなく、重苦しく告げられたもしもの話にも、深く理解することができなかった。しかし、それが後から重要な意味を持っていたと知るのは、近い未来の話。





「祓うのは、実は神呼より難しいのよ。取り憑いたものを引き剥がすには力が必要だし、神経を傷めないために集中力も必要だわ。さながら手術ね。大動脈あたりの」


「何が必要なの?」


「銀の鋏と、翡翠の針、絹の糸。そのモノの嫌う香を焚き、絶えず呪文を唱えるの。慎重に慎重に体からモノを浮かせ、鋏で少しずつ切っていく。モノが暴れるのなら強く呪文を唱え、弱ってきたなら香を近づける。最後に離れたのを確認して、悪いモノなら地に還し、良いモノならば輪廻の輪に還す。そして剥がれた傷口を絹の糸で縫うの」


 集中力と忍耐力が試される儀式のようだ。あの場所に居ることができる神楽家の者は命だけなので、全ての負担は彼女にかかる。

 天は高良家から出ることは許されておらず、結局、神楽家から数人借りることにした。


 取り憑いているのは鬼だと伝えると、天は特に驚きもせず、儀式行程を身振りを加えながら丁寧に教えてくれた。


「これが普通の除霊の儀式だけど、命の場合はどうかしらね。何せ禄な供物もなく神呼を行ってしまう“神呼の姫”のことだから、どうなるのか予想がつかないわ」

「記録に残しておいたほうがいい?」

「ええ是非。後の者たちのためにも、記憶と記録は刻み込まなければね」



お姉さんもいずれ…

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