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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
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夜 -神の御印-

読み返して見たら、どことなく卑猥な台詞に見えてきて冷えました。

そういう意味は欠片もないのでご安心を!!

 時計が8時を回る頃、命は当主の部屋を訪れた。緊張した面もちで、お邪魔しますと頭を下げる。


「泰澄さん、ありがとうございました」

「いえ、お礼は必要ありませんよ。では当主、命様、おやすみなさい」


 慇懃にお辞儀をして去っていく泰澄の背中を見送って、やっと落ち着いた命は、真っ直ぐ当主を見上げることができた。

 互いに動きやすい夜着を着込み、黙って顔を見合わせる。どちらかが動いてくれなければ、行動を起こしにくいのだろう。現に命は戸惑っている。


 そこで動いたのは当主だ。冷えるだろ、と言いながら命を中へ招く。今更冷えるもなにも、屋敷の中は完全に防寒が成されているのだが。


 のろのろと当主の部屋に入った彼女は、その装飾や広さに特に驚くこともなく、静かにソファとテレビのある場所に行き着いた。

「当主様のお部屋は、洋風なのですね」

 今朝だって見たが、あのときは周囲に構っている暇がなかった。改めて見回すと、あちらこちらがきらきらだ。


「洋風の方がいいのか?」

「いえ、和室の方が、わたしも慣れてますから、十分です。むしろ余りあります。できれば狭めてくれると、ありがたいです」

「それはできない。改装は面倒だからな」

「そうでした…。すみません、無理を言いました」

「いや…」


 物珍しげに辺りを見回していた命は、やがて今度は、洗面所や風呂場に興味を示し始めた。

 許可を得ると、すぐさま物色を始める。興味津々の様子だ。

 当主が少々疲れてきた頃、満足したのか少し恥ずかしげにソファで寛ぐ当主のもとへ戻ってきた。


「すみません、好き勝手見て回ってしまって…」


 別にいい、という意味を込めて首を横に振り、ソファの隣の空きスペースを黙って叩いた。命を意味ありげに見つめて、だ。

 しかし彼女は何ら察せていないらしい。首を傾げて、「ほこりでも?」ととぼけた返しをする。

 彼は呆れてため息を吐き、察してもらうことは諦めて、彼女の腕を引き強引に隣に座らせた。


「こうだ」

「はあ…」


 意味の分からない、という顔をしている。確か頭は良かったはずだが、どこでこの理解力のなさを発揮してくれているのだ。正直いらない。


「あの、当主様、わたし、なにをしたらいいのでしょうか? 何かお手伝いを?」

「別に、ない」

「なら遊び相手ですね! かるたでもしますか?」

「お前がやりたいなら」

「いえ、やりたいと言うほどのものではないのです」

「それならお前は何がしたいんだ?」

「そう…ですね、特には…」


 ふとここで沈黙が落ちる。

 黙って難しい顔をする当主に、命は少しの戸惑いを見せてから、その問いを口に出した。


「あの、特に用がないならなぜ、わたしを呼ばれたのですか」

「それは、」


 やりたいことは特にない。ただここに居ればいい。それだけで満足だから、となぜ言えない。

 素直にそう言えないのは、多分…。


「…寝ろ」

「はい。お邪魔しました」


 そう挨拶して出て行こうとした命を慌てて引き止める。止められた方の彼女は、驚いた顔をして半立ち状態の当主を振り返った。

 この察しの悪さ、どうにかならないものか。


「お前、何をしに呼ばれたと思ってる」

「あ、ええと、遊び相手…かと。トランプとか?」


 当主はため息を吐き、彼女を再び呼び寄せた。傍らに座り直した命に、テーブルから太めのファイルを渡す。

 それを受け取り開いてみて、驚く。


「これ…」

「好きに選べ。どこへでも行ける」

「ありがとう、ございます…」


 それには、ここの近隣中学校が、私立公立関係なくまとめられていたものだった。

 命はまだ中学生で、義務教育真っ只中。もうあと5ヶ月で今学期が終わるという中、見知らぬ土地へ嫁入りに来たのだから、もう学校に通うことは諦めていたのだ。

 けれど、こうして、通わせてくれようとしている。


「優しいですね、当主様。あなたは、とても綺麗に、わたしの諦めを断ち切ってくれます…」


 知らず知らず、いつの間にか。

 嬉しい。嬉しいのだ、どうしても。諦めていたけど、諦めていたから、嬉しい。


「…当たり前だ。俺が呼んだのだから」


 頭に落とされた優しいぬくもりに、涙ぐみそうになった。


 *****


 資料をめくるうちに、命はうつらうつらと船をこぎ始めた。見れば時刻はもう10時を回っている。

 まどろみの中にいる命をベットに運び、ゆっくりと眠らせる。

 そのあどけない寝顔に思わず頬を緩めてから、違和感に気づいた。


 見れば、命の鎖骨の下あたりが、淡く発光している。華に包まれた十字架の形をした痣が、赤く色づき光っている。

 それに触れようとした途端、弾かれた。


「―――っ」


 電流が走ったような痛みを感じ、それが防衛反応だと気づくのに時間はかからなった。

 彼女に何が起こっているのか、わからない。焦燥感を感じながら、思わず呟く。


「守護者が、足りない」




次の日は平和に過ごしてくれることを願いつつ、寝ます(*´﹃`*)

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