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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
22/42

繋がり

 地下の牢にいた青年は、自分は神楽家と懇意にしていたのだと話した。

 聞けば、幼かった彼を山の中で拾ってくれたのが、命の父である神楽家当主とのことらしい。

 当主は彼に家を与えた。家族を与えた。生きる意味さえもくれたのだという。


「とっても優しいひとでさあ、捨てられたぼくに、あの人がいろんなものをくれたんだ」

「初めて、知りました」

「それはそうだ。きみがまだ生まれてないころだろうからなあ」


 年を聞いたら、27だと教えられた。見た目よりずっと若い。

 それを思わず呟けば、彼はけらけら笑い、疲れたように息を吐くと、また静かに語りはじめた。


「何個かくれたんだけど、ずっと覚えてるのがこれだ。きみの護衛役になれって、言われたんだ」

「わたしの…?」

「ああ。きみがいつか家を出て行くとき、守ってくれって、言われた」


 不思議な気持ちだった。だって自分の知らないところで、自分に関するそんな約束が結ばれていたと知って、むずがゆい。

 愛だなあと思ったよ、と雷城伊吹は言った。


「あの人はぼくにも愛をくれたけど、きみに対する愛は計り知れない。だって娘だもんなあ…」


 まるで愛おしむように言われて、彼を介して父を見ているように感じた。

 知らなかった父のことを、まさかここで知ることができるとは。


「うれしいだろ? だって愛だもんなあ。求めて返されるものじゃないもんなあ。与えられると、しあわせだ」

「…うん…っ」

「へへっ。あの人素直じゃないもんな。やさおとこのふりしてツンデレだ」


 冗談めかした口調。けれど優しい。

 雷城伊吹は微笑みのまま、気力を振り絞るように手を伸ばし、柵の間を縫って、彼女の頭に手を乗せた。

 大きく固い手のひらは、鍛えられた人のそれだった。

 ああ彼は本当に、叶えるために、全てを…。


「だからさ、ぼくをきみの護衛役にしてくれよ」


 この恩を、返そう。


 *****


「ちげえよ。家出なんてもんじゃない」


 相変わらず牢越しの会話。

 彼にはけらけらと笑うのが異様に似合う。


「家出みたいなもんじゃない。黙って出て来たんでしょう?」

「追い出されたに近いけどなあ」


 家出にせよ追い出されたにせよ、呑気にこんな場所にいる理由がわからない。

 首を傾げてその理由を訊ねると、彼は初めて困ったようだ。返答に窮した。


「もう少し馴らしてからだなあ…」


 何を、と問いつめる前に、彼の食事を持って女性の使用人が姿を見せた。

 また日を改めましょう、と沙紀が言うので命は立ち上がり、彼に頭を下げる。


「未熟者ですが、よろしくおねがいします」

「はは、こちらこそ、主」


 顔を見合わせて握手を交わす。

 短い時間だったというのに、1ヶ月近く語り合った気分だ。それくらい深い時間に感じてしまった。


「なあ、主。これをもっててくれないか?」

「これは?」


 どこからともなく彼の手のひらに乗せて差し出されたのは、水晶のような玉が埋め込まれた腕輪だ。明かりに透かすときらきらと瞬く。


「魔除けの石。あと、ぼくとの絆」


 なら大事なものだ。ぎゅっと握り締める。


「ありがとうございます」

「うん。またな」


 ぶんぶん手を振って見送る。人懐っこい笑みを向けられると、近づくことを許されたみたいで嬉しい。


「会って良かった?」

「うん。ありがとう、沙紀さん」


 沙紀さんが連れて行ってくれなければ、あの人にも会えなかった。会えて良かった。とても嬉しい。


「友達になってくれるかな?」

「大丈夫。友達以上の人になるから」


 それがいい。その未来があれば、幸せだ。


「でも、なんで牢にいるの?」

「いずれ分かるわ」


 どうして、沙紀さんはいつも隠してしまうのだろう。

 階段を登り始めて、そこでようやく、命は先程までいた場所が地下であることに気づいた。それを沙紀に言うと、今頃? と笑われてしまう。

 むくれる命に沙紀は微笑みかけ、この後の予定を伝えた。


「昼ご飯、食べましょう」



ゆるい喋り方もなかなかいいですね(`・へ・´)

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