直談判
遅くなりました!
短いです。すみません。
鬼瓦朱里が龍ヶ峰家を後にしたあと、命は三人に訴えかけた。
それは命らしからぬ大きな声で、眉尻を下げた悲壮な表情でのことだったから、沙紀と泰澄は驚きを隠せないでいた。
しかし、さらに衝撃的だったのは、命の訴えの内容だった。
「鬼瓦朱里が、鬼に取り憑かれている…!?」
「間違いないです。アテナも言っていました。あの方は、もう取り返しの付かないくらい、鬼に魅入られてしまっています。早く引き剥がさないと…」
「完全に鬼になってしまう、と。そんなまさか…」
有り得ない、とは言えないのが、この世の裏側を知るものだ。
「とにかく、わたしをあの方に会わせてください。方法はなんとかどうにかしますのでっ」
「命が無責任なこと言ってる!」
「ご、ごめんなさい…」
「ばかっ、怒ったんじゃないわ! 嬉しいのよ」
「それはどういう…」
「意味なんかいらないの! 今は喜びだけ噛みしめさせて!!」
意味の分からないことを言う沙紀に首を傾げる。何が喜ばしいことなのだろう。
「神呼の姫」
訳も分からず沙紀を見ていると、当主が声をかけてきた。緊張しながらそちらに向き直る。
何を言われるのかわかったものじゃない。ドキドキと胸を慣らしながらその口から出てくる言葉を待った。
一方の当主は、あんまりにも怯えられているので若干ショックを受けている。今まで彼女に優しい言葉こそすれ、厳しい言葉などかけたこともないのに、だ。
理不尽さに嘆いているのをおくびにも出さず、怯えながらも真っ直ぐ目を合わせてくる命に告げた。
「いいだろう、許す。ただし3日後だ。その日以外はできない」
気前のいい快諾に、命は顔を輝かせた。ありがとうございます、としきりにお礼を繰り返す。
「やっぱり当主様、お優しいですね!」
その一言に、当主以外の二人が驚き目を見開く。
優しい? こいつが? と沙紀は命と当主を交互に見やり、泰澄は意外そうに命を見ている。
「そうだ。俺は優しい」
どの口が言うかっ! と盛大につっこみたい。しかし耐える。珍しく当主が嬉しげだ(昔からの知り合いにしかわからない微々たる変化)。いくら嫌いだからといっても、ここで水を差せば死ぬまで恨まれそうだ。
そんなことを沙紀が考えているとは知らず、命は当主の台詞に大きく首を縦に振って同意した。
「沙紀さんが教えてくれたのは真逆なことでしたから、びっくりしました。たぶん仕事をしているときのことを教えてくださったんですね」
「へぇ…」
当主が沙紀を目をすがめて見やる。本来なら気まずくてつとめを逸らすところを、彼女は全ての力を眼に込めて睨み返してきた。
その、常識とは真逆な行動をするところを虎崎 白夜は好ましく思っているふしがあるのだが、そんなことを彼女が知るわけもない。墓穴を掘っている。
眼飛ばす沙紀には気づかず、命は背の高い当主のを見上げた。
「これからずっと一緒にいる方が、優しい人でよかったです」
綻ぶような笑みを向ける。向けられた相手は、その眩しい笑顔からまた目を逸らした。
命は感謝を示すとき、目を細めて日だまりのような笑みを浮かべる。見ているとぽかぽかしてくるような、親しみのある笑みだ。
いつか太陽のように光り輝く笑みも見てみたいものだ、と当主と沙紀は珍しく、同じことを思った。
次は早めにあげたいです。
応援くださいっ! 冗談です笑




