挨拶
結構早くないですか!?
矢面に立たされるのは、ここへ来て二度目だ。
生家でもできなかったことがここでは嫌でもさせられるのだから、新鮮な驚きばかり感じる。
そうか。こうやって人は、成長していくのだ。
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テーブルを介して目の前に座るのは、龍ヶ峰家と親しい関係を持つ虎崎家の現当主の次男坊である虎崎 白夜というお方らしい。先程簡単な自己紹介をされた。
幼い頃から響や沙紀とは懇意にしていて、所謂幼馴染みというものらしい。
だから気負わずに軽口が言えていたのだと納得する。
虎崎 白夜は現在二十三歳で、最近まで海外留学していたらしい。日に焼けた肌や髪が、彼は日本のほぼ反対側にいたのだろうということを教えてくれた。
「響の婚約者になったと聞いた。さぞ辛いだろう。こいつは人の心を毛ほども理解しない冷血漢だから」
「そう言うお前は自尊心だけは一人前に鍛えられた凡人だろう。留学したところでその頭が変わるとは思えないが。さっさと兄のために働いたらどうだ」
「黙りなさいそこの二人。命の前では発言を慎みなさいよね。あたしはあんたたちがどうなろうと知ったこっちゃないけど、命に何かあったら容赦しないわよ」
「珍しく良いことを言う。白夜、そういうことだ」
「お前ら、変なところで同調するな」
若干置いてけぼりの命は、手持ち無沙汰で泰澄の淹れてくれた茶を飲んでいた。
小広間は座敷で、長いテーブルと座布団が六つ置かれていたので、命は当主と沙紀にはさまれる形で座っていた。対面には虎崎 白夜がいる。
二人のおかげで今のところ命は一言も話さずに済んでいるが、いつこちらに矛先が向くのかと気が気ではない。
「それで、あたしたちに何の用? まさか帰還報告だけとか言うんじゃないでしょうね?」
沙紀が鋭い目つきで訊ねる。
つまらないことだったら尻蹴っ飛ばして追い出してやる、と言外に告げていた。
若干怯みながら、白夜は答えた。その視線は真っ直ぐ、命を見つめている。
「俺…いや、私は龍ヶ峰家ご当主の婚約者となられた“神呼の姫”である神楽 命様にご挨拶賜ろうと押しかけた次第である、虎崎家現当主が次男、虎崎 白夜といいます。お見知りおきを」
背筋を伸ばし、礼節をわきまえた行動をすると、彼は威厳を持つ。
その切り替えは分かりやすく、そのせいでどこか裏があるようにも思えてしまう。
こういった場合の返しを用意していなかった命は、うろたえて沙紀に助けを求める視線を送った。
心得た、と言うように沙紀が頷く。
「なんでこのタイミングなのよ。そもそもどうやって知ったわけ?」
「響が嫁を取るのは前から噂になってたからな。まさか神楽家からだとは思わなかったけど」
と、しれっとした顔でお茶を飲んでいる当主をじと目で睨む。
まるで相手にされていないが、白夜は当主が視線を合わせないのを別の意味に取ったようだ。満足げに鼻を鳴らしている。
命が何をそこまで当主を意識しているのか疑問に思っていると、沙紀がそっと耳打ちしてきた。
「白夜と響は同い年で、しかも名家の息子同士ってことで何かと比べられてきたんだけど、響の方がいろいろ上で。だからあいつは些細なことでも響に勝てると嬉しいのよ」
「なるほど…」
「うん。だからね、あいつの前では当主様の方が~とか、比べる発言しちゃだめよ。面倒だから」
「気をつけます」
頷いて、しかと胸に書き留める。面倒なのは御免被りたい。
気を取り直したように姿勢を改めた沙紀は、白夜に向き直るとまじめな顔で告げた。
「白夜、あたし命の世話係になったのよね」
「らしいな。懐かれてるじゃないか」
「うん。つまりそういうことで、あたしは結婚しないから」
命は目を見開いて絶句した。
(๑⊙o⊙๑)←命




