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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
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客人

ふおおー、気合い!

気合いをナメちゃだめだ!!

 今朝方別れたばかりなのに、しばらく会っていなかったような気がする。


「遅い」

「爺さん方の会合があったんだ。付き合うこっちの身になるといい」

「そんなのやってらんないわ。あたしは命の世話係なの。四六時中、命の側にいなきゃいけないの」

「役割交換でもするか。たまには息抜きも必要だろう、泰澄」

「賛成しかねます、当主」

「そうよ。それにそんなの、あんたしか得にならないじゃない。馬鹿にしてるの?」


 顔を合わせてすぐにこんな言い合いが始まるのだから、よほど仲が悪いのだろうと考える。

 板挟みになる命に同情の視線を向けるのは、彼女が来る前にその役だった泰澄だ。

 苦労が解るだけに、助ける気も起こらないらしい。


「あ、の…入らないんですか?」


 できれば入りたくはないが、来客を待たせるのは申し訳ないと、小声で命は問いかけた。

 すると落ち着いた二人は顔を見合わせ、すぐに逸らした。仲直りをするように諫められる子どものようだ。


 そんな二人に小さく笑っていると、頬に向かって伸びてくる手に気づいた。

 それは恐れるように指先だけで命の柔らかな頬に触れ、次いで確かめるように、手のひら全体で触れてくる。


「当主さま?」


 小首を傾げて問いかけるように呼ぶ彼女に、彼は何を思ったのか、顔を近づけていき――阻止された。

 間に割り込んできた沙紀を睨むが、さらにガラ悪く凄まれる。


「命から離れなさい、変態」

「少しは可愛げを持ったらどうだ? 嫁き遅れ」

「あなた方は話を聞かれてはどうですか? 命様もおっしゃったでしょう。人を待たせていますよ」

「虎崎のやつなんか待たせておけばいい」

「あいつは一度十年くらい待たされるべきなのよ」


 口を揃えてそう言う二人に、また苦笑する。

 二人にこんなことを言われる人の想像ができなくて、興味も湧いてくる。


 泰澄は大きく息を吐き出すと、何も言わずふすまの前に立ち、その引き戸に手をかけた。

 このままでは埒が開かないと踏んで、強制的に実行に移そうとしたのだろう。襖を開ける手に迷いはなかった。


 さり気なく沙紀の背後に庇われる。その前には当主、そして泰澄だ。最後尾に立った命には、襖の奥は見えなかった。


「失礼いたします。龍ヶ峰家が当主、龍ヶ峰 響を只今連れて参りました」


 恭しく頭を下げる。

 その仕草は板に付いていて、流れるような動きだ。


「入れ」


 泰澄の言葉に応えたのは、聞き覚えのない、まだ若い青年の声だった。自尊心に満ちた、敬われて当然、と言うような。

 沙紀が顔をしかめる。なるほど彼女が相手をしたくなさそうだったのはこの為か、と声しか聞いていないのに妙に納得できた。


 まず泰澄が開いた襖から、響が入室した。

 渋々ながら沙紀が続く。

 彼女に引っ付いていた命は、のろのろと襖をの境を超えた。


「久しぶりだな、響」

「俺は会いたくなかった」

「失礼なやつだなっ」


 軽口を言い合う当主と誰か。

 これまでから察するに、恐らく響や沙紀とは古い付き合いなのだろう。二人からはかなり邪険にされているが。


「お前とは二週間ぶりだ」

「あたしは会いたくなかったわ。この前も今も」

「ふざけるなよお前ら」


 ひやりとするようなやり取りだ。

 相手方は偉い人なのではないのか。確か取引先なのだから、一応は丁寧に相手をするべきでは。


 社交など滅多にしたことがないのでわからない。とりあえず今のところは相手をする必要はなさそうだから、様子見をさせてもらおう。

 命がそんなことを考えていると、唐突に、彼は彼女を指した。


「その子が噂の“神呼の姫”か?」


 どうやら話題から逃れることはできそうにない。




生意気な大人を書いてみたかったので。

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