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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
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一緒に

短いのは致し方ないことなのです。

すみません。

 朝食を半ば強制的に終了させられた後、命と沙紀は桜の間へと戻った。

 風呂に入り着替えを済ませ、適当に当たり障りのない会話ばかりする。


 もちろん命には沙紀に対して聞きたいことがあった。しかし、彼女は答えてくれそうにない。

 無理矢理聞きだそうとすれば、それこそおしまいだ。その先教えてくれることはないだろう。

 ちらちらと沙紀を盗み見ながら、彼女が用意してくれた神に関する本を読でいると、唐突に扉をノックする音が響いた。


「はーい、なに?」


 テレビのリモコンをいじっていた手を止めて、扉の向こう側にいる人物に声をかける。

 くぐもった女性の声で、お客様がおいでです、と告げられる。

 どうやらその人は言伝を頼まれただけで、直接的な用事はないらしかった。

 知らず緊張していた命は、胸を撫で下ろす。


「お客様? 誰よ、そいつ」

「虎崎家のお方だそうです」

「虎崎ぃ?」


 思いきり顔をしかめる沙紀。


「誰?」

「うちの取引先」


『龍ヶ峰家の取引先・虎崎』。それだけ聞けば、ただ用があったんだろう、くらいにしか思わないのだが、なぜか沙紀に言伝が頼まれている。

 彼女はもう命の世話係であって、お客様の相手をする立場ではないはずだ。とすると、相手方の用件は、沙紀個人に対するものか、彼女を介して、彼女の主人である命に用件があるのだということになる。

 命はそれに思い当たり、内心どこに話が転がるのか気が気でなかった。


「わかったわ。どこに行けばいいの?」

「小広間にお願いします。それでは」


 扉の前から人の気配が消え、残された2人は顔を見合わせた。

 そして沙紀が口を開き、命は聞きたくなかった言葉を聞くことになる。


「行きましょうか。一緒に」


 一緒に、を強調され、顔をひきつらせる。

 昨日までなら確実に喜んでいた台詞が、状況を窺い知れば、全く持って嬉しくない。

 彼女もそれをわかっていて言っているのだから、軽い嫌がらせのように感じる。


 あっという間に部屋から連れ出され、先導されるままに連れて行かれた先は、“春の棟”の中央二階に位置する小広間だった。

 そこは色々な用途に使われ、冬の間の過ごしやすい場所、として溜まり場になることも、少なからずあった。


 小広間の襖の前に立ち、二人は人を待っていた。

「遅いわね…」

「伝言が遅れてるのかな」

「伝言だったら、誰より先にあいつらの方に行くはずよ」

 それは確かにそうだった。命は壁に背を預け、暇を持て余す。

 虎崎家の話に自分が全く関係なければいいのに――と、願わずにはいられない。


「来たわ」


 硬い声で沙紀が呟く。

 彼女の視線の先には、きちんとした服装の当主と、その秘書がこちらへ向かってくるところだった。



次回!

新キャラ登場!

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