一緒に
短いのは致し方ないことなのです。
すみません。
朝食を半ば強制的に終了させられた後、命と沙紀は桜の間へと戻った。
風呂に入り着替えを済ませ、適当に当たり障りのない会話ばかりする。
もちろん命には沙紀に対して聞きたいことがあった。しかし、彼女は答えてくれそうにない。
無理矢理聞きだそうとすれば、それこそおしまいだ。その先教えてくれることはないだろう。
ちらちらと沙紀を盗み見ながら、彼女が用意してくれた神に関する本を読でいると、唐突に扉をノックする音が響いた。
「はーい、なに?」
テレビのリモコンをいじっていた手を止めて、扉の向こう側にいる人物に声をかける。
くぐもった女性の声で、お客様がおいでです、と告げられる。
どうやらその人は言伝を頼まれただけで、直接的な用事はないらしかった。
知らず緊張していた命は、胸を撫で下ろす。
「お客様? 誰よ、そいつ」
「虎崎家のお方だそうです」
「虎崎ぃ?」
思いきり顔をしかめる沙紀。
「誰?」
「うちの取引先」
『龍ヶ峰家の取引先・虎崎』。それだけ聞けば、ただ用があったんだろう、くらいにしか思わないのだが、なぜか沙紀に言伝が頼まれている。
彼女はもう命の世話係であって、お客様の相手をする立場ではないはずだ。とすると、相手方の用件は、沙紀個人に対するものか、彼女を介して、彼女の主人である命に用件があるのだということになる。
命はそれに思い当たり、内心どこに話が転がるのか気が気でなかった。
「わかったわ。どこに行けばいいの?」
「小広間にお願いします。それでは」
扉の前から人の気配が消え、残された2人は顔を見合わせた。
そして沙紀が口を開き、命は聞きたくなかった言葉を聞くことになる。
「行きましょうか。一緒に」
一緒に、を強調され、顔をひきつらせる。
昨日までなら確実に喜んでいた台詞が、状況を窺い知れば、全く持って嬉しくない。
彼女もそれをわかっていて言っているのだから、軽い嫌がらせのように感じる。
あっという間に部屋から連れ出され、先導されるままに連れて行かれた先は、“春の棟”の中央二階に位置する小広間だった。
そこは色々な用途に使われ、冬の間の過ごしやすい場所、として溜まり場になることも、少なからずあった。
小広間の襖の前に立ち、二人は人を待っていた。
「遅いわね…」
「伝言が遅れてるのかな」
「伝言だったら、誰より先にあいつらの方に行くはずよ」
それは確かにそうだった。命は壁に背を預け、暇を持て余す。
虎崎家の話に自分が全く関係なければいいのに――と、願わずにはいられない。
「来たわ」
硬い声で沙紀が呟く。
彼女の視線の先には、きちんとした服装の当主と、その秘書がこちらへ向かってくるところだった。
次回!
新キャラ登場!




