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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
15/42

秘密

「命ーーっ!!」


 扉を開けるなり中から飛び出してきた沙紀に抱きつかれる。いつもより抱きしめる腕の力が強い。


「朝になっても帰ってこないから心配したわよ。大丈夫だった? あいつに何もされなかった?」


 怒濤の勢いでまくしたてる。対応が追いつかない命を鶴の一声で響が助ける。つまり、「うるさい」の一声。

 それだけで沙紀のマシンガントークはぴたりと止み、代わりに血管が浮き出る様を間近で見られた。


 沙紀に促され中へ入室する。

 畳が敷かれ、落ち着いた雰囲気の和室の長いテーブルには、食事が二膳置かれていた。

 響は上座には座らずに、命と向き合う形に座る。沙紀は命の傍に陣取った。


「ああ、揃っていますね」


 穏やかな声とともに、泰澄が入室する。

 今日は昨日とは打って変わって和服だ。浅葱色の織物は上等で、それがとても似合っている。


「おはようございます」

「おはようございます。命様、当主」

「ああ」


 挨拶を済ますと、一直線に響のもとへ行き、何かを耳打ちするとそのまま後ろに控えた。


「命、食べて。あっちは気にしなくていいから」

「でも、偉い人が先に食べてからって」

「偉くないわよ、あいつは」

「沙紀」


 泰澄が制する。彼を睨みつけた沙紀は、何よ、と反抗的に返事した。

「静かに」

 当主は気にした様子もなく、お箸を手にした。


「いただきます」


 そして始まる、静かな食事風景。


「……」


 誰も喋らない。

 辛うじて沙紀からの気遣いに、命のお礼が聞こえるだけだ。

 静かなのは苦痛ではないが、生憎、沈黙は苦手なのだ。

 命はどうにか会話をしようと、必至に言葉を探した。


「…泰澄。魚が冷めてる」

「ああ、それはすみません。すぐに暖め直します」


 向かい側の二人のやりとりを、味噌汁をすすりながら眺めていると、なぜか泰澄は膳の中から鮭の塩焼きを皿ごと取り上げて、着物の裏から何かを持ち出した。

 それは石のようだったが、翡翠色の石面が照明を反射してきらきらと瞬き、宝石のようにも見える。


「泰澄っ」


 突然、隣の沙紀が焦るように身を乗り出し、泰澄を静止した。

 驚く三者をよそに、沙紀は命の様子を気にしながら、泰澄に身振りで何かを訴えた。

 それは、おおよそ命には解読できないもので、泰澄も意味を理解できていないようだった。

 一人、響だけは訳知り顔で沙紀の奇行を眺めている。


「当主、沙紀は何を?」

「“それ”を仕舞えだと」

「何故です?」

「…おそらく姫は知らないんだろう。沙紀は臆病だからな」

「なるほど。ありがとうございます」


 男たちの間でそんな会話が行われてると知らない命は、気にせず沙紀に、あれは何なのかを尋ねた。


「知らなくていいのよ」


 と諭すように沙紀が言うので、命は納得仕切れていないながらも、頷く。

 いつか教えてくれるだろう、と踏んで、それからあの石について命から尋ねることはなかった。

 突然、ちょうどいい、と泰澄が、いいことを思いついたというように言った。


「命様、龍ヶ峰家についてお教えしましょう」

「移動中に散々教え込んだわよ」

「お前が教えたのは表向きの龍ヶ峰家だろう。私がお教えするのは裏の顔だ」

「裏の顔?」


 泰澄の言葉に、沙紀はわなわなと震え、命は何の話だと小首を傾げ、響は平然として、余裕気な表情。


「だ、駄目よッ」

「沙紀」


 窘めるように泰澄が彼女の名を呼ぶが、沙紀は気に留めずに、箸を置いてお茶を取ろうとしていた命の腕を引っ張って立たせ、部屋の外へ引っ張り出した。


「沙紀!」

「あの事は、誰にも教えるべきじゃないわ、泰澄。ましてや、命には」

「ならお前は、いつまで隠しておくつもりだ」


 沙紀は一瞬動きを止め、息を吐き出すように告げた。


「終わりがくるまで」


 ―――意味が分からない。


 ひとり話題から取り残された命は、沙紀を見上げ、その真意を探ろうとした。


 今、最も信頼している女性が、自分に何を隠しているのか。命には、それが解らなくて恐ろしくなった。

 私は、沙紀に信用されていないのか、と。嫌われてしまうことが怖かった。


 ―――体いつになれば、彼女は私に…。



ストックがきれたので、2日投稿はできなくなります。

すみません! 見捨てないでください!

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