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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
13/42

眠りの中

前回長めだったので今回短めです。

 その頃、“桜の間”。


「ふ…。ふふふ」


 沙紀は、面白くもないバラエティ番組を観ながら、違う意味で笑っていた。

 視線はテレビ画面に注がれているが、考えていることは全く違うことだった。


「ふふふふふふ」


 言うまでもなく不気味だ。

 この場に命がいたなら、間違いなく怯えていただろう。


 彼女が命に付いて行かなかったのには理由があった。

 もちろん、追い出されることは尤もだが、もうひとつ、沙紀にとって利益が上がる理由があるのだ。


 それは、『命を響の部屋に行かせないため』だった。

 これにより命の貞操は守られ、なおかつ響に対する嫌がらせにもなる。


 命はこの家の地理を把握していなく、辿り着くまでに迷ってしまう確率は限りなく高かった。

 夜十時を過ぎれば、龍ヶ峰家の人間は余程のことがない限り部屋に戻り床につく。つまり命が道を聞ける確率も低い。

 だからこそ、沙紀は付き添いはもちろん道案内も拒否したのだ。響への嫌がらせのために。


 ――命には申し訳ないけど。

 ふてぶてしい笑みを顔に形作り、不気味に笑い声を響かせる。

 ――絶対、辿り着かないでね。


*****


 その少し後、“初冬の棟”。


 彼女は廊下の脇にうずくまって、眠っていた。

 それはもう、深い深い眠りの中。

 夢を見ているのか、その頬は緩んでいる。


 渡り廊下を何度も渡り、ここがどこであるかも認識できなくなった彼女は、欲望に耐えきれずに眠りについた。

 床をぼんやりと照らす非常灯の灯りだけが、暗闇の中での救いだった。

 朝になれば窓から陽光が差し込み、電灯もいらないくらいに照らしてくれる。


 初冬の棟とは、陽光がよく当たるがために、客人が過ごすための間として建てられた。

 それは先々代当主の、広く愛される人徳にも繋がる。故に人は基本的にいない。


 そんな場所に、足音が響いた。


 板張りの廊下を、ゆっくりと歩く音。

 何かの前触れのような、不吉なものが近寄ってくる気配。


 それは彼女の横で止まると、しばらく見下ろし、体を曲げて少女を抱き上げた。

 顔を見て起きる気配がないのを確認すると、足音を響かせて来た道を戻り始める。


 揺りかごのような感覚が懐かしく、少女は顔を綻ばせた。

 暖かい体温が半身から伝わって、彼女は深く安心する。


 足音は、階段を昇り渡り廊下を渡り、どこへ行くつもりなのかもわからない。


少女は未だ、眠ったまま。


さあ、当ててごらん。

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