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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
12/42

呼び出し

危ない危ない。

サボるところでした(;´Д`)

「み、こと…」


 彼女は真っ白な瞳を細め、沙紀に微笑みかけて見せた。

 その笑顔は確かに命のもので、彼女はあの子なのだと認めるしかなかった。


「マリアナ」


 静かに告げると、命の背後にいる神が頷き、ふっと姿を消した。あまりにも突然の消失。

 途端に辺りが闇に包まれ、驚く暇もなく元に戻った。そう、それはなんの痕跡もなく。

 命の髪は漆黒に戻り、神も消え、宴会場は笑いと話し声に満たされていて、“神呼”が本当に行われたかも疑わしい。


 蒼然とする二人に、命は虚空を見ながら告げた。


「マリアナは、幻覚の神です」

「なら、あれは幻覚…?」


 彼女は首を振る。


「あれは本物。この会場の人たちに、私たちが普通に食事をしている幻覚を見せたんだよ」

「術にかけられたのは彼ら、か」


 響は落ち着いた様子で酒を口に含んだ。そして、おもしろい、とつぶやく。


「やはりそうか、」

「は? 何がよ」


 二人は疑問符を浮かべ、何か確信を得たような笑みを浮かべる彼を見た。

 しかし彼は何も語らず、勝手に食事を再開する。命と沙紀は顔を見合わせたあと、渇いたのどを潤わせた。


 何事もなかったかのように宴会が催され、静かに終わりを迎えたのだった。


 *****


「命、泰澄が呼んでる」

「う? なんで?」


 わかんない、と首を横に振る。

 曲がっていたワンピースの裾をなおして、燕尾服の泰澄に駆け寄る。

 片付けの指示を出していた彼は、命を認めるとテーブルクロスを置いて向き直った。


「お疲れ様でした。命様」

「お、おつかれさまでした」


 命に頷きかけ、彼女の後ろにいた沙紀にも労いの言葉をかける。


「沙紀も、お疲れだったな」

「本当よ。次からあたしにあいつの給仕させないでよね」


 命は思い出してまた震えた。

 臨場感溢れる彼女の切り分けももちろんだが、彼女たちの言い争いも挟まれている命としては、よく耐えたものだと思えるものだった。できればもう二度と味わいたくない。


 泰澄は笑い、命に視線を戻す。


「当主がお呼びです。今夜、“紫陽花の間”にお越しいただきますよう」

「ちょっ!? あたしが認めないわよ! 絶対連れて行かないから!!」

「当主命令だ」


 ぐっと言葉に詰まる沙紀。

 彼女は一体何を反対しているのだろうか、と命が本気で悩んでいると、よろしいですか、と声がしてとっさに肯定する。


「ありがとうございます。では」


 お辞儀して去っていく背中を見送り、片付けが始まった宴会場を急いで出る。

 沙紀が叫んだのはその後だ。


「駄目!! 行っちゃ駄目!!」

「な、なんで…」

「汚されるわ! 無垢な命が……!!」


 意味が理解できない命に、なおも彼女は言葉を並べ立てる。

 ただし命には何の理解もできなかったが。


 そうこうしているうちに"桜の間"へ着き、命は手早く部屋着に着替えた。

 髪もほどき、未だぶつぶつこぼす沙紀にブラシを入れてもらう。


「そういえば、"神呼"のとき、命の髪って白くなったわよね。それどういう原理?」

「ああ、えーとね」


 居住まいをただし、沙紀に向き直ると、彼女は自分の髪を撫でながら、呟くように告げた。


「染めてるんだ、黒に。だから本当は白なんだよ。"神呼"のときは一時的に元に戻るんだけど」

「何で染めてるの?」


 あんな見事な髪を染めるのももったいない。

 沙紀は命を真っ直ぐ見つめ、答えを待った。


「アポロンがね、そうしたほうがいいって言って」

「アポロンって、ギリシャ神話の太陽の神?」

「うん、そうだよ。アポロンは占いが得意で、未来が詠めるんだって。だから、アポロンの言う通り髪を染めて、カラーコンタクトもして…」


 普通の人を装った。

 彼女は苦笑とともに、ばれちゃったけど、と言った。


「まさか知ってる人がいるとは思わなかったからね。父様も言っていたけど」

「ああ、まあ…。家の当主は特殊だからね。大体の人間は知らないから大丈夫よ。あたしも知らなかったし」

「あ、当主様といえば、呼ばれてるんだった。行かないと……」


 思い出して立ち上がると、命は厚手のカーディガンを羽織って沙紀を見た。

 一緒に行こうよ、という意味を込めて。


「イヤ。あたし行かない。あいつも命一人宛てに出した伝言だろうし、あたしが行っても追い出されるだけよ」

「わかった。じゃあ、少し行ってくるね」


 にっこりと笑みを浮かべ、部屋に残る沙紀に手を振りながら自室を出た。

 果てしなく悪い予感がするのだが、考えないように足を一歩踏み出す。


 記憶を頼りに渡り廊下を目指し、階段の昇り降りを繰り返し、気づけば時刻は午後十時。いつもらなばとっくに眠っている時間である。

 くっつきそうになる瞼を気力で持ち上げ、意地でも眠らないようにする。


 何故なら、この状況で眠ってしまえば、きっと今夜中には部屋に帰れないという自信があった。…自慢にはならないが。

 見慣れない廊下を歩くのは孤独感があり、辿り着けなかったらどうしょう、という不安感もある。


 しっかり朧気な記憶を頼りに来たのだが、どうやら眠気で朧気な記憶がさらに朧気になっていたらしい。どうしようもない。

 そもそも命は、当主の部屋の位置さえ知らないのだ。

 辿り着こうというのが無謀だが、やはり眠気のせいで思考はそこまで行き着かない。


 つまり、端的に言えば「…迷っちゃった」なのだ。


 こうもあっさり自然に迷ってしまうとは思っていなかったのか、命はしゃがみ込んで頭を抱える。


 ――今日中に帰れなかったらどうしよう。


 もちろんどうしようもない。



命は箱入りなのです。

まったくもう( ´Д`)=3

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