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龍の花嫁  作者: おはなし
第一章 嫁入り
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対面

 いきなり現れた青年に、命は動揺を隠せないでいた。

 彼をぽかんと見つめて、真っ白な思考をどうにかしようと脳内をかき回してみる。


 状況を整理してみよう、と無意識に炎城に酌をしながら考える。

 まず、彼が誰なのかだ。

 黒いスーツのような服が異様に似合っている青年だ。艶のある黒髪はさらさらと流れ、整った鼻梁に薄い唇。肌は女性のそれより肌理細い。

 鋭利な刃物のような鋭さを持った漆黒の瞳で、真っ直ぐ命を見ている。


 ざわめきの中に、彼の素性を教えてくれる声が聞こえた。


『当主のお帰りだ』


 言葉を噛み砕くのに、随分時間がかかった。

 ――当主? あの人が?

 舞台の上から見下ろす姿は、まさしく王のようだが、それにしても彼女の予想を裏切っていた。


「おじさんじゃなかったんだ…」


 じろりと睨んでくる炎城に、違う違うと弁解し、また彼を見上げる。

 沙紀から聞いた現当主の武勇伝のせいで、命の中の彼のイメージは、白髪の混じり始めたおじさんで固まってしまっていたのだ。

 意外性とはこういうことをいうのか、と勝手に考えていると、当主がちょいちょいと、言外に彼女を呼んでいた。


 命は首を傾げて疑問符を浮かべ、誰を呼んでいるのかと辺りを見回した。しかし、誰も動く気配がない。

 そのままどうしようもできないでいると、ため息を吐いた当主の方から動き出した。一直線にこちらに向かってくる。


 命の目の前に立ち止まって見下ろした彼は、何も言わずに彼女の手にあったビール瓶を取り上げ、炎城に押しつけた。

 そして命を横抱きにし、満足げに舞台へと戻る。


 ちなみにこの間、命はあまりの出来事に唖然としていた。

 何の反応もできず、されるがままになっている。見ているだけだった視線が痛いものに変わり、秀麗な顔が近くにあるということに赤くなった。


「命!」


 沙紀の声だ。視線を動かすと、急いでこちらに駆け寄ってくる彼女がいた。

 助けを求めるように彼女を見返したが、声にできずに眉尻を下げる。


 舞台の階段を登ると、彼の腕の中が不安定になり、命はとっさにしがみついた。そしてさらに赤くなる。俯き、早く終わってくれ、と強く唱えた。

 それが届いたのかどうなのか、命は椅子の上に降ろされた。そして、隣の椅子には彼が座る。


 その席は、舞台のど真ん中で、なおかつ隣には当主だ。それが何を意味するのか知った瞬間、命はまたしても固まった。

 そんな彼女に一瞥もくれず、当主はグラスを持って立ち上がり、よく通る声で音頭をとった。


「宴会を始める」


 その一言で、騒がしくなったり静かになったり忙しかった、龍ヶ峰家の縁者たちが、にわかに活気を取り戻す。

 その様子に、本当に当主だったのだ、と命は素直に感心していた。


おじさんか(゜゜;)\(--;)ビシ

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