対面
いきなり現れた青年に、命は動揺を隠せないでいた。
彼をぽかんと見つめて、真っ白な思考をどうにかしようと脳内をかき回してみる。
状況を整理してみよう、と無意識に炎城に酌をしながら考える。
まず、彼が誰なのかだ。
黒いスーツのような服が異様に似合っている青年だ。艶のある黒髪はさらさらと流れ、整った鼻梁に薄い唇。肌は女性のそれより肌理細い。
鋭利な刃物のような鋭さを持った漆黒の瞳で、真っ直ぐ命を見ている。
ざわめきの中に、彼の素性を教えてくれる声が聞こえた。
『当主のお帰りだ』
言葉を噛み砕くのに、随分時間がかかった。
――当主? あの人が?
舞台の上から見下ろす姿は、まさしく王のようだが、それにしても彼女の予想を裏切っていた。
「おじさんじゃなかったんだ…」
じろりと睨んでくる炎城に、違う違うと弁解し、また彼を見上げる。
沙紀から聞いた現当主の武勇伝のせいで、命の中の彼のイメージは、白髪の混じり始めたおじさんで固まってしまっていたのだ。
意外性とはこういうことをいうのか、と勝手に考えていると、当主がちょいちょいと、言外に彼女を呼んでいた。
命は首を傾げて疑問符を浮かべ、誰を呼んでいるのかと辺りを見回した。しかし、誰も動く気配がない。
そのままどうしようもできないでいると、ため息を吐いた当主の方から動き出した。一直線にこちらに向かってくる。
命の目の前に立ち止まって見下ろした彼は、何も言わずに彼女の手にあったビール瓶を取り上げ、炎城に押しつけた。
そして命を横抱きにし、満足げに舞台へと戻る。
ちなみにこの間、命はあまりの出来事に唖然としていた。
何の反応もできず、されるがままになっている。見ているだけだった視線が痛いものに変わり、秀麗な顔が近くにあるということに赤くなった。
「命!」
沙紀の声だ。視線を動かすと、急いでこちらに駆け寄ってくる彼女がいた。
助けを求めるように彼女を見返したが、声にできずに眉尻を下げる。
舞台の階段を登ると、彼の腕の中が不安定になり、命はとっさにしがみついた。そしてさらに赤くなる。俯き、早く終わってくれ、と強く唱えた。
それが届いたのかどうなのか、命は椅子の上に降ろされた。そして、隣の椅子には彼が座る。
その席は、舞台のど真ん中で、なおかつ隣には当主だ。それが何を意味するのか知った瞬間、命はまたしても固まった。
そんな彼女に一瞥もくれず、当主はグラスを持って立ち上がり、よく通る声で音頭をとった。
「宴会を始める」
その一言で、騒がしくなったり静かになったり忙しかった、龍ヶ峰家の縁者たちが、にわかに活気を取り戻す。
その様子に、本当に当主だったのだ、と命は素直に感心していた。
おじさんか(゜゜;)\(--;)ビシ




