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未来永劫の過去帳には

作者: だみ

 私は貴女を失った。

 私の隣から暗闇も去り、運命も、自由も。

 与えられたはずだった。

 なのに、悲しみはぷくぷくと膨れ上がって、涙はとぶとぶと溢れた。

 私は貴女を失ったのだから。



 ━━━━



 ここは幻想郷の博麗神社。私は博麗霊夢と呼ばれ続けていた宇佐見蓮子。八雲紫と言われていたメリーもいる。

「ねえ、メリー。私の帽子は何処にあるのー!?」

「知らないわー」

「嘘でしょ。私には分かるよ」

「うーん……そこの押し入れの中」

「ほーら嘘だった。あったあった」

 押し入れの引き出しを引いてみると私の黒い帽子が置かれてあった。私はそれを取って頭に被せる。

 もう私にとって邪魔な赤いリボンはない。だから帽子も素直に入ってくれた。

「どう?メリー。貴女にとって懐かしいものでしょ?」

 私は紅白を身に纏ってなんかいない。巫女はいないから。

「ええ。何年振りかしら……忘れちゃったわ」

「凄い長生きしてるもんね。私よりも長生きなのに尊敬が出来ないのは何でかな?」

「さあ……見た目があまり変わらないから?」

「いやーぁ、見た目は結構変わったよ?」

「じゃあ何なのかしらね」

 博麗霊夢はいない。霊夢自信によって消えたのである。その代わりに私がいる。

「やっぱり長い付き合いだったから?」

「関係は歳がかけ離れていててもなかなか破れないのね」

「そうねー」

 私がいるからこそ、いずれか大変な事態を招くことは双方知っていた。その大変な事態のストーリーが動き出した。

「霊夢ー」

 第二主人公、霧雨魔理沙がやってきた。これの何処が大変な自体か? それは先を見れば分かるはず。

「あ、魔理沙……」

「よ……霊夢? どうしたんだ? 変装か?」

 今の私は霊夢じゃない。格好も霊夢じゃない。その事を突いてはてなマークを浮かべている。

「変装なんかじゃないよ、魔理沙」

「な、なんか違う。お前は誰だよ。霊夢は何処にいるんだよ」

 地上に降り立った魔理沙は鋭い目付きで私を睨んできた。私は隣にいたメリーとアイコンタクトをした。メリーは静かに頷くしかなかった。

 魔理沙の方に振り向くと髪だけが動いた。

「私は宇佐見蓮子。博麗の巫女だったの」

「だった、だぁ?」

「うん。博麗の巫女が私になったことによって博麗の巫女は消えた」

 その瞬間に私の過去が急に思い出されたんだ。特にメリーが目の前から、あの世界からいなくなったことが強く感じた。

「待てよ待てよ。一体何があったか教えてくれよ」

「私は霊夢の生前って言えばいいのかな? それに戻っただけだよ」

「どういう経緯でかって聞いてるんだ!」

「私が霊夢の過去の存在を思い出させたのよ」

「紫が……か?」

 メリーは至って普通な表情をして言った。

 神社の中で座り込んでいる私達と神社の外で立っている魔理沙とのにらめっこ。何処からか吹いてくる風が全体を掠めて通りすぎていった。

「ええ。あと今まで黙っていたけど、私の名は八雲紫ではないわ」

「じゃあ何なんだよ、お前も」

「私はマエリベリー・ハーンよ」

「ならそのマエリベリーに告げるぞ」

 秋なのに落ち葉一枚もない神社に小さな一呼吸が聞こえた。その後、魔理沙のその口元が動いた。


 ━━霊夢を返せ。返すんだ。


「!!」

「さあ、返せ。急な事過ぎて私は泣くこともできない。霊夢がいない今、この異変を解決するのはお前だマエリベリー・ハーン」

「な、何を……」

「あのな、今までずっといた親しい友が全く違う別人だったなんて知ったら、お前はどうするんだ?  ショックだろ? そいつに会いたいと思うだろ? それと一緒だ。さあ、早く」

「……」

 メリーと私は言葉を失いも、魔理沙は続ける。構わず責める、責め続ける。

「私は正直凄いリアクションはできない。だからあまり伝わらないと思うがな。な、頼むから━━」

「私から提案をしてもらってもいいかしら」

「何だよ」

「私に考える時間を与えてほしいわ」

「何を考えるんだよ」

 今のメリーは私が霊夢であったときのメリーに似ている。少し小さな笑みを浮かべている。

「選択肢を選ばせてほしいのよ」

「何の選択肢を……」

「霊夢に戻すか、消すか」

「はぁ? どういう意味だよ」

 私にもメリーの言っている意味が分からない。抽象的すぎるよ。

「蓮子である記憶を消して再び霊夢に戻すか、幻想郷を含む全てに博麗霊夢の存在を消して宇佐見蓮子の存在を刻むか。二つの選択肢よ」

「何でそんな選択肢を吹っ掛けるんだよ」

「だって、異変解決をするのは私ではなく博麗の巫女。博麗の巫女がいない限り、異変解決ができないのは当たり前の事でしょ?」

「だからって何で選択肢なんだよ!」

「直接的に異変解決はできないのよ」

「だから━━」

「分からないなら分からないでいいわ」

 今のメリーはうんざりしている。でも、抱いている気持ちはそれだけじゃない気がする。

「とにかく、明日のこの時間になれば決断を下すわ……」

 メリーはスキマを開いて境界にとじ込もってしまった。その瞬間の表情は至って苦痛の顔だった。その表情からは私に語りたいことが伝わってきた。

「おいおいおい! ……何なんだよ、全く…………」

「魔理沙」

「何だよ」

「この事、皆に伝えてくれない?」

「伝えろって……いいのか? 傷つくんじゃないのか? 黙ってても結果、変わらないと思うが」

「でもそれじゃ皆に悪いよ。しかも今までが偽物だった。それじゃ私とメリー、嘘をついてたってことになるよね? それも異変と同じようなものだよね? あと、この状態がずっと続くってわけでもないし……」

「ま、まあ、そうだが……分かった」

 魔理沙も怒りだけじゃなくて、心配な気持ちもあるんだね。ちょっと意外。

「ありがとう。メリーも皆の意見で決めることもあるから、皆の気持ちをぶつけてみると、その暁にはいい結果がくるかもしれない」

「それは博麗の巫女の勘か?」

「どうだろうね」

「まあ、いいや。絶対に霊夢は返してもらうからな」

「どうぞ、お好きなように」

 魔理沙は私の言葉を聞いたあと、涙を一滴落として何処かに飛んでいった。

 博麗神社に一人取り残された。その時に第二訪問者が現れた。

「黙って聞いていたのですが、話は全て本当なのですか?」

 妖怪山に住んでいるパパラッチ鴉天狗、射命丸文だよ。

「いたんだね。うん、そう。全部本当の話。話聞いてたのなら文も皆に伝えてよ」

「元からそうするつもりですよ。こんな事、記事にしないなんてあり得ないですからね」

「そっか……ねえ、文はどう思ってる?」

「私も正直、ショックを受けました。しかし、新聞記者として真実は受け入れなければいけないので、仕方ない事です」

 新聞記者だから、か……何か違うな。それはただの言い訳じゃないのかな。

「そうじゃなくて、選択肢の話」

「私はどちらとも、できれば避けたいですけどね」

「何で?」

「だって、そちらの方が異変っぽいじゃないですか」

「え、文ってそういう趣味?」

「そういうとは何ですか」

「あ、ごめん……」

 魔理沙の目から流れた一滴のしょっぱい水は既に乾いてしまった。これから色んな事が起きそうな気がした。

 朝からこんな気持ちにさせられるのは、今日が初めてかもしれない。複雑な、この、気持ち。

「大分メモは取りました。これで記事にすれば、すぐにばらまきますので」

「やっぱり私も説得しに行く」

「え、何故でしょうか?」

「文の新聞と魔理沙だけじゃ心配だし、自分から行った方が早い気がするんだ」

「心配って……」

「あれ? 文、自分の新聞が毎日のように読んでくれている人が少ないってこと、知ってるの?」

「え!? そそそれは本当ですか!?」

「本当だよ。新聞記者ならばこれくらいも受け入れなきゃね」

「えぇぇ……」

 文は絶望して座り込んだ。今まで知らなかったとは……大きな命題ができちゃったね。

「まぁ……こんな軽い空気は放っておいて、出掛けましょうか。文、よろしくね」

「あんな事言われてショックですよ……霊夢さんがいなくなった以上に……」

「文、信じてないっていうわけじゃないから。取り敢えずなるべく早く記事をまとめて、あらゆる所にばらまいてくれればいいから。じゃあ」

「は、はい……」

 私は文と別れて、希望の面騒動以来の博麗神社の鳥居潜りをした。



 ━━━━



 飛んでいった方が早かったけど、何故かそういう気分じゃなかった。結局歩いて人里まで行ったら太陽が大体11時を示していた。今更ながら、飛んだ方がよかったと後悔しちゃった。

 今はそんな事よりも伝えるのが先だけどね。

 人里に着いたら、人々は不思議そうな顔をしたり噂したりしていた。門の入口に立って言ってもいいけど、より広く伝えるためには目立たなきゃいけない。外の世界で言う、人がよく交う場所で選挙立候補者が演説をしているのと一緒。だから私も人里で一番人々が交う場所で立ち止まる。それをじっと見る人もいれば、気づかぬ振りをして通りすぎる人もいる。

「皆、聞いて!」

 今までにない大声。人里全体に響き渡ったところで、早速話をしようか。

 周りがざわざわする。

「率直で悪い。だけど聞いて。私は博麗の巫女……博麗霊夢だった、宇佐見蓮子。霊夢とは赤の他人なんだ」

 転回が急過ぎていまいち理解していない人が大勢だけど、気にしない。言ってることは事実なんだから続けるよ。

「そう、前までは霊夢だった。私を知らない霊夢だったんだ。でも、メリー……八雲紫によって私を思い出させたんだ。この事は私と紫の異変だったから、そして解決しなければならなかったから」

 人々のざわめきは雑音に聞こえて何と言っているか分からない。

 人々が集まって隙間が見えない中で一人私の前に立ちはだかったのは、寺子屋の教授、上白沢慧音だ。

「お前、何を言ってるんだ。お前が霊夢とはどういうことだ」

「言葉のまんまだよ慧音」

「!? ……どうやら本当らしいな」

「うん」

「霊夢は……どうなるんだ」

「いない。だから帰ってこない」

 これを言うのは辛い。今までいたはずの人が、もういないと告げるのは辛い。何故か? それは、人はその先を見てしまうから、その先に相手がどんな表情をするかはっきりと分かるからだよ。

「ただ、聞いて? そのために来たから。霊夢は帰ってくるかもしれない。皆の想い次第で霊夢は帰ってくるかもしれないんだ」

「それはどういう意味か?」

「メリー……紫が明日、私としての記憶を消すか、皆の霊夢の記憶を消すかを決めるんだ。だからだよ」

「私達が勝手に想って帰ってくるのか?」

「紫は今、境界の中にいるんだ。その境界を突き破って声を届けたらいいんだよ」

「できるのか?」

 私も今までメリーの作った結界は破れたことがないけど、長生きしている末か、力が弱まってきてるみたいだよ。

「多分。さあ、どうするかは自由。私はまたこの事を広めなきゃいけないから。あ、この事はなるべく広めて。皆にもそれなりの覚悟をさせてもらうためにね」

 私は人里を何もなかったかのように過ぎ去った。このあとに慧音や人里の人々がどう思ったかは知らないけど、多分、皆霊夢に帰ってもらいたいんだろうな。

 曇った空に黒い翼が紙を飛ばしている。紙は風にゆらゆらりと吹かれて舞っていった。



 ━━━━



 洞窟。夢殿大祀廟の洞窟。命蓮寺を通り過ぎた所にある墓地の洞窟。命蓮寺にも寄ろうかと思ったけど、ちょっと面倒な妖怪がいたと思いこっちからに行くことにした。結局は後回し。

 皆がこの洞窟を聞いて言う言葉といえば『どうくつっていいね』。そう言われている場所を歩いている。

「新聞、見たわよ。貴女が博麗の巫女だったって言う宇佐見蓮子ね」

「……青娥だよね」

「面白いわ。本当に博麗の巫女みたいね」

 面白いものには何でも興味を示す、霍青娥がうしろで気配を消してついてきていた。

「うん……」

「あら、どうしたの? 元気なさそうね。お悩み相談なら構わないわよ?」

「なら、そうしようかな」

「いつでもどうぞ」

『いつでもどうぞ』と言っているのに、どうしても自分を急かしてしまう。何から言い始めよう……。

「私……今この事を広めようと色々廻っているの」

「何故広めるの?」

「皆に覚悟をしてもらうため」

「大規模な異変だって知っているのに、わざわざ人々を傷つけるの? それなら知らない方が楽よ」

「それだと皆に悪いと思って……異変があったのに、異変がなかったかのように振る舞うのは」

「なるほどね……そういえば、貴女が霊夢って事は今までの普通の事も貴女にとっては異変だったって言えるのよね?」

「うん……そうだけど、それが何?」

「ちょっと聞いてみただけよ。それで? 貴女はどう思っているの?」

 どう思っているか……。きっと、私の意見を聞いているんだと思う。私でいたいのか、霊夢でいたいのか。

「私は……正直を言えばこのままでいたい。メリーと一緒にいたいんだよ」

「そのメリーって方は誰かしら? 新聞には載ってなかったわよ?」

 文の編集ミスなのか、わざとなのかは分からないけどおかげで説明するのが面倒になったのは確かである。

「メリーは私の親友の中の親友だよ。今までは八雲紫として語っていたけどね」

「とんでもなく面白いわ! 気に入ったわ。私、貴女の手助けをするわ」

「何のために……?」

「そんなもの、決まってるじゃない! 面白そうだからよ」

「そっか……青娥って邪仙だったね」

「そうよ。天に認められなかった邪の仙人よ」

「そうだね。ならちょっとお願いしてもいい?」

「分かってるわ。神霊廟に伝えに行けばいいのでしょ?」

「分かってるねー。よろしくね」

「ええ。協力を得てくるわ」

 壁をすり抜けられる青娥は洞窟の壁の中に入っていった。

 さて、次はどうしよう。あ、一番めんどくさい所がまだ残ってた。でも行かなきゃなぁ。

 私に気持ちの白状がいつの間にか芽生えていた、と青娥との話を振り返ってみてそう感じた。



 ━━━━



 外はまだ昼。多分、2時頃だと思う。

 洞窟から出て今更ながら、今日一度も霊夢の能力を使っていない事に気づいた。だから特に意味はないけども、飛ぼうとした。

「あれ……飛べない」

 結果は足が浮かずに、他人から見たら佇んでいるようにしか見えない光景になってしまった。恐らく、私はもう博麗霊夢じゃないからだと思う。

 この墓場にずっと立っていたら後にキョンシーが出てくるから早く行かなきゃ。

 早歩きで足がどんどん前へと運ばれていく。その先は命蓮寺と言うお寺だ。

「ぎゃーてーぎゃーてー! 門前の小僧習わぬ経を読むー! でも私は小僧じゃないよー、山彦だよー!」

 命蓮寺門前で習わぬ経を読んでいたのは音を反射させるのに弾幕まで反射させた、幽谷響子だ。めんどくさいって言ったのはこの子の事。だってうるさいんだもん。

「相変わらずだね」

「だ、誰っ!? 見たことない人に気軽に話しかけられるのは初めてだから! 怖っ!」

 ちょっと小さな溜め息をついた。まためんどくさいの始まりだね。

「ちょっと説明するから、聖に━━」

「あ、ちょっと待って。見たことあった。んーっと……あったあった。これ、貴女でしょ?」

 響子の差し出してきた1枚の紙を見て、新聞を見たはずの青娥が何故メリーの事を知らないかが分かった。

 その紙にでかでかとした見出しと写真、狭いスペースに小さな記事文章、そして''文々。新聞''と右上端に書かれていた。

 通りで新聞に目が通るわけだし、メリーの事を知らないのも分かる。

「文にしては……珍しい書き方だね。記事文章がこんなに短いなんて」

「まだ読んでないけど面倒だから、貴女説明して。載っているってことは関係あるって事だよね?」

 色んな意味でめんどくさかった。

「なら……聖に会わせてくれない? 直接の方が伝わりやすいし」

「私を信用してないのー?」

「うん。まあ」

「酷いっ!! そこ普通気遣うとこっ!!」

「貴女だけは正直言って信用できない」

 習わぬ経を読むくらいなんだからね……ちょっと信用難い。

「心が更にえぐれる!!」

「ごめんね。お願いするよ」

「あれだけ人……妖怪の心を傷つけて……貴女、妖怪の心も退治するのかしら……しかもその事にも気づかずに『ごめんね。お願いするよ』って何もなかったかのようにぶつぶつ……」

「あ……いい……かな?」

「うん……ついてきて」

「わ、分かった」

 響子の溜め息を聞いて無性に罪悪感を感じた。

 黙って響子についていったら、命蓮寺にある沢山の襖の中の一つに対面していた。

「聖様ー? 入りますよー?」

 さっきの大声は何処に消えたのかと言われそうなほどの普通の声で言った。流石にここでは大声を出さないんだね。

「どうぞ、響子」

「失礼します」

「どうしたのですか? 響子。そちらの方は?」

「まずはこれを見てくれるかな、聖」

「……分かりました」

 聖は私に''聖''と呼ばれたことに動揺を見せた。そしてそれを隠し切れていないまま、私の手に持つ新聞に軽く目を通した。

「これは……事実ですか?」

「事実だよ」

「詳しくお話を聞かせてもらいますか?」

「元からそのつもりでいるよ」

 二人は黙った。

「二人が知ってる通り、私は博麗の巫女だった。だけどメリーによって昔の私が霊夢から思い出されたんだ。あ、メリーは私の友人で、八雲紫だった人ね」

「あの八雲紫まで別人!?」

 一度立ち上がった響子を聖が再び座らせた。

「それで、霊夢から私が思い出されて、霊夢は私、宇佐見蓮子になったことで消えたんだ。今、メリーは私をどうするか考え中なんだ。明日の朝までに私を消すか、博麗霊夢の存在を消すかをね。明日の朝になれば全てが決まる」

「それで今、それらを広めていると仰るのですね?」

「うん」

「状況は把握しました。しかし、貴女の気持ちが一切入っておりません。これではまるで、誰かに義務づけられているようにしか思えません」

「そうよ。貴女の気持ちが表情にしか現れてないよ。今の気持ちは? どう思ってるの?」

 青娥と同じような事を言われた。もちろん答えだって同じ。

「このままで……いたい」

 でも、何故か言いづらかった。先が見えてしまったんだ。

「そうですか……残念ですが、貴女に協力はできません」

「そう言うかと思ってたよ。分かってる。私に協力しちゃうと何もかもがひっくり返っちゃう。異変を起こした側にいると人間どころか、妖怪にも否定されちゃうんだよね。私が博麗の巫女だったから……」

「……仰る通りです。お引き取り願います」

「うん。話すことができただけでも幸いだと思っておく」

 予想通りでも少し痛い。

 私は途方に暮れて、何処に行こうかと迷った。ここから近い所もあったはずなのに、頭が真っ白だったから博麗神社に向かった。そう、あの地底に。



 ━━━━



 地底には行ってみたものの印象に残っている事と言えば、私の心が読むことができないこととこいしに好かれたことだけ。そのあとも妖怪山や太陽の畑にも寄ったけど、涙を流されたり苛められたりされた。

 あと残されている場所といえば紅魔館だけ。これを聞いて紅魔館の主は何を言うんだろ? 全く予想がつかない。

 空は暗い。一番星と月が照らす今宵、もう別れ道が近いね。

「あ、来てくれると思っていましたよ。宇佐見蓮子さん」

 紅魔館の居眠り門番、紅美鈴が私を呼び止めた。

「新聞から?」

「はい。お嬢様がぜひとも、貴女とお話がしたいと仰っております」

「うん。元から話に行くつもりだったよ。ありがとうね」

「いえいえ。では」

 私は門を通って紅魔館のへと通じる道を歩んだ。ちょっと緊張気味だよ。

 大きな門を開き、そのまま進んで止まった。ここから先はよく分からない。メイドさんが来るまで待とうか。どっちかっていうと招かれているもんね。

 すると、うしろの扉は急に閉まって風が止まり、目の前には人間メイド、十六夜咲夜がいた。凄くかしこまった様子でメイドらしい姿を見せている。

「お待ちしておりました」

「事情の事は説明した方がいいかな?」

「いえ、事情は全て知っております。貴女は話を聞くだけで結構です」

「分かった」

「では、こちらです」

 私は咲夜について行きながら高級感を味あわせる道を歩いた。別れ道が沢山あるけど迷わずに歩く。ある一つの扉にたどり着くと、咲夜は扉を開けて私を中に入れさせてくれた。

 中には紅魔館の主、レミリア・スカーレットと破壊の妹、フランドール・スカーレットと喘息魔女、パチュリー・ノーレッジがいた。要には美鈴以外全員揃っている状態で私を迎えた。

「いらっしゃい、宇佐見蓮子。そこに座って」

「話したいことって何? レミリア」

「今話すことは今まで黙ってたのよ。貴女が霊夢だったから」

「……」

 話すことはない。反応もしない。ただ、聞くことだけはするのである。



 貴女が貴女であったとき、貴女はここに来たのよ。そう、この紅魔館にね。私は貴女が疲れ果てて来るものだからつい保護しちゃったわ。でも後悔はなかったわね。

 それから貴女は倒れ込んじゃってね、ちょっと様子を見てみるのよ。そしたら涙を流したの。何かを失って悲しむような涙よ。私は流したことがないわね、涙。あっても痛いときだけ。

 私は貴女が涙を流した原因を知りたかったから、今までの運命を覗いてみたんだけど、よく分からなかったわ。だから先の運命を覗こうとしたんだけど、今度は何も見えない。曖昧なものが見えたのよ。何と例えればいいかしら? ああ、そうよ。よく扉についているうねうねと波打っているガラスに似ているわ。とにかく、見えないのよ。多分このままの状態で死んでも、判決はグレー何でしょうね。白でも黒でもないわ。きっとね。

 私は貴女が目を覚ますまで待ったわ。ずっと傍にいたわ。

 貴女が倒れて約3時間くらいで目を覚ましてくれたわ。それで見慣れない服を着た貴女と自己紹介をしてね。貴女は宇佐見蓮子って言ったわ。外の世界からやって来たのだってね。

 それから貴女はフランと遊んでくれたり、図書館で本を読んだりして過ごしたのよ。でもやっぱり時は突如訪れるものよね。八雲紫が現れて、『その子を引き渡してほしい』と言ったのよ。もちろん断ったのよ。でもダメだったわ。

 連れ去られた貴女がこの館からいなくなって、フランは自ら閉じ籠り孤独を抱くようになったわ。私も面白い貴女が隣から消えて寂しく思えたの。出ないはずの涙が出たの。だからその事を幻想郷を支配したいという言い訳で異変を起こした。八雲紫に連れ去られたとなれば彼女の目的は今世代の博麗の巫女を見つけ出すことのはずだとすぐに察したわ。だから貴女を誘い込むために、もう一度だけでも、と。

 貴女は来てくれた。しかし目の色や服装がすっかり変わってしまっていたわ。もうそれで力が出なくなったわ。抱え落ちはしなかったけど、やられてしまったわ。フランの方も貴女が霊夢に変わったことに相当ショックを受けたわ。

 霊夢と貴女を比べて気づいた事はまだあったわ。久々に訪れた貴女は運命がしっかりと見えたわ。ずっと先まで見通せたわ。その運命が変わったりしないようにと思ったわ。



「以上よ」

「そんな事が……」

「蓮子お姉さま……」

 フランは話の途中で私の隣に来て服の袖を引っ張っていたけど、それだけでは耐えきれずに抱きついてきた。涙目だよ。

「だから私は貴女が貴女であることを願うわ。絶対に作ってみせるわよ。いいわよね、パチェ」

「反論することがないわ」

「お姉さま……私、蓮子お姉さまと……と……」

「止めなさい。今じゃないわ。ということだから、貴女がもし霊夢に戻りたいだとか思っても私が許さないからね」

「分かったよ。今の私もこのままがいいって思っているから大丈夫だよ」

「信じるわね。今の私は貴女の運命が見えないから事実だかどうだか分からないのよ」

 地底の覚り妖怪が私の心が読めなかったのと一緒で、私の運命も見えないみたいだね。今の私は別れ道の真ん中にただおどおどと立っているのか。

「大丈夫。絶対にね」

「分かったわ。じゃあ貴女を帰しましょう。咲夜」

「かしこまりました」

「またね、レミリア」

「また会いましょうね」

 私達はレミリアに別れを告げて、次に会う日まで待つことにした。取り敢えずは再び博麗神社だね。

 正直、私が霊夢になる前の話を聞いて驚いた。私のせいで皆を傷つけたなんて……期待に応じなきゃ。



 ━━━━



 空はすっかり暗闇に襲われた。その代わりに星が輝いて月が今は見えない太陽の光を反射している。時刻は丁度1時。外の世界にいたときでこの時刻といえば私とメリーの秘封倶楽部の活動がまるで昼間のように開始している時刻だね。私がメリーとの待ち合わせに遅刻した姿が見えるよ。

「どうでしたか? 皆さんの反応は」

 隣には文がいた。だからお話をしている。

「やっぱり皆考え方はそれぞれだよね。味方になるって人もいたら、敵になるって人もいる。文の方は? 何か見て来たんでしょ?」

「はい。まず、魔理沙さんの所へ行ってきました。ですが、完全に病んでましたね」

「結局しなかったんだ……」

「魔理沙さんだけではありませんよ? 人里の方とかは特に目立っていましたね」

「皆病んでるんだね……どっちかっていうとこっちの方が異変かも」

「ですよねー……さて、私は明日の朝……今日の朝ですかね? とにかくその日に備えて早く寝るとしますかね。では失礼しました」

「うん。またね」

 文は妖怪山の方角に向かって消えていった。星の一部になったかのようだ。

 私も寝よう。どんな事でも、例え異変であろうとも、睡眠は大事だよ。



 ━━━━



 朝は早いわ。史上最長のこの異変に幕を閉ざさなければならないわ。霊夢の代わりにね。

「おはよう、メリー。もう決まった?」

「ええ。だけどギャラリーが少ないわね。もっと多いかと思ったわ」

「皆相当病んでいるらしいよ」

「病んでいる? ……そうだったのね」

「うん。朝人里の方に行ってみたけどちょっとね……」

「そっか……まぁ、早く始めましょ」

「そうだね」

 周りには宗教組くらいしかいないわ。大体数えられるくらいね。

 私はもう心は定まっているわ。大丈夫よ。これは私がやるのだから方法は自分の勝手よ。あのとき『直接的にはできない』とか言ったけど、あれはただの言い訳に過ぎない。元からこうするつもりでいたからああ言ったのよ。

 でもね……状況が変わったのよ。

「えっ!? ちょっと! くっ……!!」

 蓮子が何者かによって封じられたわ。

「……なるほどねぇ。これが……」

「お嬢様?」

 ちょっと離れた所に紅魔館の吸血鬼とそのメイドが何かささやいているわ。

 そのときに蓮子をやった黒幕が現れたわ。

「うふふ」

「貴女……邪仙ね」

「ええ、そうよ。私はこの子の大きな欲望を叶えさせただけよ」

「大きな……欲望?」

「そう、誰よりも遥かに大きいわ。それで面白そうって思ったのよ。何か問題でもあるかしら?」

「ええ、大ありよ」

「何故かしら?」

「これは私の問題だし、貴女のような邪仙に譲る訳にはいかないわ」

「どうして? そんなに意地の張るものではないじゃないの。博麗の巫女が大きな存在であるように、この子も大きな存在よ。それを支えるのは''私達''、じゃあないのかしら? そうでしょう?」

「違うわ。意地なんて……張ってないわ」

 私は何故こんなに蓮子を自分のものだと思っていたのかしら? 元は霊夢。あの邪仙の言う通り、大きな存在よ。なのに……。

 いや、何故自分のものだと思っていたか分かったわ。それは━━

「蓮子は私の友達だったから……だから私がやるべきことなのよっ!」

 私は怒りに身を任せて遠くにいる邪仙の首をスキマを使って掴んでやったわ。だけどその首はするりと抜けてしまっていたわ。

「あらあら、そんなに本気になって怒ってはダメよ。このお話はただの時間稼ぎなんだから」

「時間稼ぎですって……!?」

「そうよ。あと……5分もすれば蓮子さんも楽になるわ。もし蓮子さんを博麗の巫女に戻したいとならば、もう少し私とお話しましょ? それとも弾幕ごっこ?」

 異変に異変が重なり、さらに異変が絡んでくる。私の頭の中はこんがらかり、ぐっちゃぐちゃよ。でも……やっぱり異変を解決するのは博麗の巫女でなければならなかった。もう異変を起こさせないようにとしようと思ったけど……こんなのが幻想郷にいる限り異変は起き続けるわ。

 私は腹をくくったわ。

「邪仙……弾幕ごっこをしましょうか」

 私は蓮子を引き離した。思えば、私はマエリベリー・ハーンなんかじゃなかったわ。メリーでもなかったわ。私は八雲紫。大切なものを引き離して、大切なものを見つけてしまった八雲紫よ。

「あら? 貴女にとって蓮子さんは大切な存在だとお聞きしましたが? それを諦めるの? そのままいれば貴女諸とも、霊夢の全ての記憶を消せるのよ? 今までをなかったことにできる。貴女の代わりにね」

「私は幻想郷の八雲紫よ。外の世界の者なんかじゃないわ。私はただ、幻想郷を守る手段だけを考えればいいの」

「どうやら分からなさそうね。丁度いいわ。腕試しと時間稼ぎにお付き合いしましょう。芳香」

「はーい! 青娥ー!」

「あとはよろしくね、芳香」

「分かったー!」

「人に任せて逃げるつもり? そうはいかないわよ」

 私は邪仙の周りに結界を張ったわ。だけどまたするりと抜けて逃げられたわ。

「頭を使いなさいよ、八雲紫。私は''壁''をすり抜けることができるのよ? 私にとっては結界もただの''壁''なのよー。じゃあまたねー」

「待ちなさいっ!」

「通さないぞぉ!」

「くっ……」

 残された時間は5分とか言ってたわね。それを過ぎてしまえば私に残された霊夢の記憶も消えるのね。あと、4分くらいかしら。

「食らいなさいっ!」

「痛ぁい! でも負けないぞ!」

「そうだったわ……この子、キョンシーだったわ……ああっもう! 世話を焼かすわ!」

「うぬ! 囲まれてたまるものかっ! 行けっ!」

「きゃあっ!」

「ぬぅ……当たったはいいけど、これじゃ身動きがとれんなぁ」

 私はこのキョンシーの周りに結界を張った。だけど、その直前に撃ってきた彼女の弾幕をまともに浴びてしまったわ。

 どうも身体が思うように動かないわ……もうすぐかしら。

「……咲夜、帰るわよ」

「かしこまりました。しかし何故でしょうか?」

「ここから先はそこら辺に転がってる小石よりも面白くないわ」

「そうですか……」

 吸血鬼が帰ったわ。一体何を見たのかは分からないけど、今考えるべきことは異変解決よ。地面に這いつくばって蓮子に近づく。ずりずりと服が砂と石畳に擦り付けて一つ一つの繊維の隙間を痛めつける音が聞こえてくるわ。ギャラリーは誰一人動こうとはしない。皆、私と蓮子に釘付けよ。

 体力が保たないわ。もう……私。

「蓮子……」

「……いいよ、別に。何となく分かっているから」

「ごめんね……ごめんね……」

「ほら、早く。博麗の巫女がこの幻想郷に必要なんでしょ?」

「……うん」

 私は蓮子の額に手をかざした。もう底尽きそうな力を振り絞って、消したわ。



 ━━━━



「あー……今日もつまらないわ。しかも寒いし、お茶は冷めるし」

「おい霊夢、だらけているぞ。掃除はしたのか?」

 八雲藍はずっと私の傍にいる。しかし何か足りない気がするのは何故かしら? 別に毎日来るはずの魔理沙がいないからとかじゃないわよ。

「してないわー……」

「寒くてもやらなくてはいけないぞ」

「……ねぇ、藍ー」

「なんだ」

「何か足りない気がしない?」

「……何を言っているんだ?」

「質問してるのに、逆に返されたら困るわ」

「そ、そうだな……紫様……」

「何か言った?」

「いや、何でもないぞ?」

「怪しいわねー。私の勘だと何か隠し事してるわね。言いなさいよ。貴女らしくもない」

 藍は思っていることは全部言う。それも毎日。それを劣ったことがないのに今回は明らかにおかしいわ。

「本当に何でもない」

「嘘つきは泥棒の始まりよ。さ、早く」

「……今から話すことは作り話とでも思っておいてくれ」

「藍が作り話とは珍しいわね」

「いいだろ、九尾狐なんだから」

「わけ分かんないから早く」

「あ、ああ。それでな、私には主人がいたんだ」



 その主人はいつも寝てばかりいたが、ある人だけを大事にしてたんだ。主人は言った。

「この子は私の友達だからね」

 私はずっと主人の隣にいましたが、そんな関係の人のことを初めて聞きました。知ってても冥界の亡霊くらい。

 その人は外の世界から来たそうなんだ。そんな外来人と友達ということは主人も外来人ということになる。しかし主人とその人がここに来た動機が分からなかった。

「昔、ちょっと悲劇があってねぇ……聞いてね。私が外の世界で生きてた頃はね、夢をよく見たのよ」

 夢……ですか?

「そう、夢よ。まるで現実のような夢。それでね、ある日の夢で博麗神社に行く夢を見たのよ」

 はい。

「神社の境外の階段を上ってね、ようやくここに着いてからね、鳥居の外から境内を覗いてみたら巫女さんがいたのよ」

 それって……?

「ええ。ここの巫女よ」

 しかしあれは何も言わなかったですよ?

「そうね、ふふっ……」

 ……?

「後に分かるわよ。 そう、それでからね。その巫女さんが私に一言言って私を誘った。それだけなのよ」

 動機がいまいち分かりませんが、その誘いにのったということですか?

「ええ。それから友達と離ればなれになっちゃってね」

 その友達とこの友達は同一人物ですか?

「そうよ。ここまで追いかけてきたのよ。だけど結局ああせざる終えなかったの。悲しませたくなかったから」

 そうでしたか……。

「ああ……今思うとあの日が恋しいわ」

 一人でぶつぶつと喋る主人はその外来人を思い馳せている。私にはそのような人はいないから、その気持ちはよく分からない。だがとても悲しい事というのは主人の表情を見てよく伝わった。

 外来人はこんな悲劇の人が多いのか、とも思ったな。そう思うとこの幻想郷は豊かすぎるのだな。



「それ……本当に作り話?」

「ああ」

「凄いリアルな作り話ね」

「だろ?」

 藍の目元が光った。口角もすっかり下がっている。これが作り話? そんなわけがないわ。

 普段は触れるはずもない会話が弾んでも面白くないわね。

「そうだ、霊夢。早く掃除しろよ」

「はーい……」

 藍は傍から消えて私一人だけになった。さっき聞いた話を振り返ってみる。すると何故か私の頬に水が伝った。

「あのバカ。発言と意思が噛み合ってないんだからっ……!」

 私は掃除をすることにした。ただするだけじゃないわよ。

 博麗の巫女をやっている私は鳥居の外に見える小さな少女の所へと向かっていった。



 ━━━━



 私は必死になって走った。探す場所の目星もついていないけど、走っていれば必ず何処かにたどり着くはずだから。カフェで初めて会ったあの一人。私の前から消えたあの一人……そう、あのたった一人のためだけでここまで走ってきた。

「メリー……!!」

 あの一人はここにいるはず。あの一人が話してくれたものばかりが通り過ぎていくから。狂いそうになる竹林や変な雰囲気を漂わす森等が全て話と一致している。

 あの一人、一人が現実を夢になんて変えたから、夢を現実に変えたから……私は悲しまなければいけない。

 私は力尽きて、とある紅い屋敷に助けを求めた。門番さんが走っていって人を連れてきたら何だかほっとして倒れてしまった。

 そこからあの人達が何をしたか分からなかったけど、目を覚ましたら天然の天井じゃなくて人工の天井が一番最初に見えた。その次には人の姿。いや、黒い翼が生えている人の姿か。

 どうやら私は布団の中にいるらしい。

「はっ! あー……よかったわ。てっきり死んだかと思ってたわ」

「ここは?」

「ここは私のお屋敷の紅魔館よ。咲夜ー! 来なさいっ!」

「紅魔館……?」

「そうよ。幻想郷の紅魔館」

「幻想郷……」

 近くにある扉が開いて一人のメイドさんが駆けつけた。多分その人がさっき言ってた''咲夜''っていう人みたいだね。

「お目覚めになられたのですね。大丈夫ですか?」

「大丈夫だけど……何でこんな所に?」

「あら、自分の行動も思い出せないのかしら?」

「お嬢様っ!」

「……あ、そっか……私、迷惑をかけたんだね。ごめんなさい」

 メイドさんが少し動揺の顔を見せる。私はこういう悪口的な事も大体慣れているから大丈夫なんだ。

「気にすることなんて全くないわ。私はレミリア・スカーレット。ここの主よ。こっちは

 私の従者の十六夜咲夜よ」

「レミリア、咲夜……よろしくね。私は宇佐見蓮子」

「よろしく」

「よろしくお願いいたします」

 レミリアには翼がある。黒い翼。気になるけど今はそれどころじゃない。

「それで……いきなりだけど、幻想郷って何?」

「凄いいきなりすぎるわね。もしかして外来人かしら?」

「外来人?」

「まあ、そこら辺は説明して頂戴、咲夜」

「はい、お嬢様。幻想郷というものは、その名の通り幻想の世界です。外の世界にはいない妖怪や神、幽霊。そこに人間がいてこそ、この世界なのです。外来人というものは外の世界からここへやって来た人の事を指します」

「外の世界っていうのは……もしかして私のいた世界の事?」

「貴女が幻想郷の住民でなければそうでしょう」

「そうなんだ……」

 走ってただけなのにいつの間にかこんな所にたどり着いちゃうなんて思っていなかった。確かに走っていく途中、竹林とか森とか見た覚えがあるけど……意識が朦朧としてたから途切れ途切れだよ。

「改めて。貴女は外来人かしら?」

「うん」

「何故ここまで?」

「探し人を追いかけてきたんだ」

「探し人? 誰?」

「私の友達……よく私と一緒に冒険したり、夢の話を聞かせてくれたりしてくれたんだ」

「どんな子なの?」

「金髪で大人しいんだ。でもたまにさばさばしたりして、ちょっと不安定な友達なんだ。あと」

「あと?」

「不思議な目を持っているんだ。それもこちら側にしたら結構危ない目」

「もしかして……それって、マエリベリー・ハーンっていう子かしら?」

「やっぱり……」

 私はこの紅い屋敷の話をあの一人から一度だけ聞いたことがある。そのとき、そこの屋敷からクッキーを貰って帰っていた。だから何か面識がないとおかしくなる。そう思ってあまり身形とかを言わなかったんだ。

「貴女、私達の事を知ってたの?」

「いや、名前とかは言ってくれなかったけど、一度だけ夢に出てきた紅い屋敷を見たってことを話してくれたから、そう思ったんだ」

「夢? ……ああ、そんな事言ってたわね。あの子。咲夜覚えているでしょう?」

「ええ。あのときは貴女のように動揺な顔は見せていなかったので、人里にいる変わった人かと思いましたが、外来人だったとはね……」

 閉まっていた扉が急に音をたてた。

「お姉さまっ! あの人が……起きたって!?」

「フラン……」

「ああっ! よかったぁ……」

 外から入ってきたのは小さい子どもだった。レミリアとは違って色んな色の結晶がついている翼がある。

 その子は私に飛び出して抱きついてきた。

「うわっ! な、何!?」

「ずぅっと心配してたんだからねっ!」

「その子は私の妹よ。フランドール・スカーレットっていうの」

「フランドール?」

「フランって呼んでね!」

「う、うん。よろしくね、フラン」

「うんっ! 貴女の名前は?」

「私の名前は宇佐見蓮子だよ」

「蓮子お姉さまねっ! 私と一緒に遊びましょっ!」

 フランが勢いよくベッドから飛び降りて私の腕を引っ張った。''お姉さま''と呼ばれて少し恥ずかしい自分がいる。

「ええっ!? 大丈夫?」

「まぁ、いいわ。あとでゆっくりお話しましょ」

「分かった、ありがとう。待って! フランッ!」

 私はレミリアを置いてフランと一緒に遊んだ。そのあとも魔女さんの図書館で本を読んでみたり、レミリアとあの一人の話をしたりした。だけどそれには限りがあった。来客だ。

「邪魔するわよ」

 似てる。何もかもが。あの一人に。

「邪魔するようだったら帰って頂戴。邪魔されるような事は一切してないわ」

「あの子を私にくれないかしら?」

「人の話聞いた?」

「人じゃなくて吸血鬼かしら?」

「あー、もうっ! そんな事は聞いてないわ!」

「ふふっ。冗談よ。それで答えは?」

「……ノーよ」

「残念ね。選択肢ははいかイエスかなのよ」

「どっちも同じ意味じゃない」

「そう。つまり、選択肢はないって事よ」

 私はその来客をじっと見つめていた。いや、そんなはずがあるわけ……。

「そんな事、私が認めないわ」

「悪いわね」

「ひゃっ!」

 彼女は瞬間移動か何かで私のうしろまで来た。そして私の腕を掴んでいった。レミリアや屋敷の景色が目の前から消えた。

「ちょっとっ! 何っ!?」

 不思議な空間で彼女は抱きついてきた。息苦しいっ!

「ここまで来なくてもよかったのに……悲しかったでしょう?」

「まさかっ……!」

「お疲れ様。ゆっくり休みなさい」

 額に手を当てられ視界と記憶がボーッとしてくる。あぁ……メリー……行かないで……。



 ━━━━



 小さい人が鳥居に引かれた境界線を越えたと認識し、私は崩れ落ち、泣いた。

 何故聞いたんだ。いや、何故ここに来てしまったんだ。そうしたら私もメリーも……っ!


 貴女は何故悲しむの?


 曇った空からそんな声が聞こえた。

「何故って、メリー……冗談言わないでよ。確かに、言った。覚悟もしてた。だからって……」

 返答なし。あれは空耳だったか。でも、確かに聞こえた。メリーが、言ったんだ……。

 空は何も言わない。空に口なんてなかった。



 ━━━━



 過去帳に刻まれた貴女。

 色んな事があったが、私が巫女でいることで収まった。

 しかし、未来永劫の彼方を知っておけば、私に運命も自由も。

 手にいれることができたというのに。

 ただ、晴れ渡った世界で悲しむ他、何もない。

 貴女がいないから。

バッドエンドですね。まあ悲しい事です。こんな事を思いついた私が怖いです。


前回と比べ、抽象的な事が多いと思います。この辺りは皆さんのご想像にお任せします。あと急に蓮子の口調を変えたことには触れないでください(苦笑)。

題名の過去帳というのは寺で、死者の俗名・法名・死亡年月日などを記しておく帳簿の事をいいます。内容と関係ない事も触れないでください(苦笑)。


前回短編小説から引き続き読んでくださった皆さん、ありがとうございます。これで全てが繋がったと思います。多分次回はないと思います。完結です。


前回を読んでいない皆さん、今からでも読んでみたらどうですか?(視聴率狙いという名の親切)



今回の説明はあまりなしということで、ありがとうございました!

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