第20話:守護者
両足でムカデの入った小瓶を抱えたコクマルは、だるいだるいと何度も呟きながらも、馬で三日は掛かるヘリファルテまでの距離を、僅か半日で飛び越えた。魔力によって強化された彼は、フクロウよりも鋭く夜の闇を見通し、渡り鳥よりも長い距離を、隼よりも速く飛ぶことが出来るのだ。
しかし、そんな優れた能力を与えられても、コクマルは呪詛吐きに感謝する事は無かった。あのクソババアが自分を道具としてしか見ておらず、そして自分も、彼女を魔力供給器程度にしか考えて居なかった。つまり、呪詛吐きとコクマルの関係は主従というより、利害関係のみで結ばれていたわけだ。
コクマルが目的の王宮に着いた頃には、ちょうど昼過ぎとなっていて、ターゲットのセレネとかいう色白の小娘は、外見の美しさと異質さのおかげもあって簡単に見つけることが出来た。小娘は草むらの上で、なにやら金髪の優男にせっせと食事を振舞っていた。
その美味そうな肉料理を見ていると、思わず割って入ってみたくなったが、魔獣としての理性が彼を押し留め、白い娘が自室に引っ込んでいくまで、近場の木に止まり、じっと様子を窺っていた。
しばらくすると、その娘は部屋に戻り、ベッドの上に転がるとすぐに目を閉じて眠ってしまった。春の麗らかな薫風を取り入れるためか、窓は開け放たれていた。これは実に好都合だ。コクマルは器用に瓶を足で押さえ、くちばしを使ってフタを外し、呪われしムカデを解き放つ。
『オラヨっ!』
そうして飛び出してきた巨大なムカデをくちばしでつまみ、コクマルは空から無造作にセレネの部屋に放り投げた。ムカデは呪詛吐きの言っていたとおり、セレネのベッドの下へと潜り込んでいった。その様子を始終眺め、問題が無い事を確認したコクマルは、瓶を抱えたままその場を飛び去った。
『オワッタ、アソンデカエル』
自分の仕事を成し遂げたコクマルは、せっかく都会に来たのだから、綺麗どころのメスのカラスにちょっかいを掛けながら帰国しようと考えていた。コクマルは魔獣となった今でも、別段その力で高みを目指そうとか、世の役に立とうなどとは思わなかった。カラスの仲間にでかい顔でえばっていられれば、彼の心は十分それで満たされていたのだ。
さて、セレネの部屋に忍び込んだムカデは。与えられた命令に従い、ベッドの下へと潜り込んだ。蠱毒というおぞましい魔術によって生命力は強化されていたが、元が虫であるため、知能は殆どなく、本能によって暗闇を目指したのだ。
仲間を食い殺し、身体にたっぷりと邪悪な魔力と栄養を蓄えた虫は、標的の枕元に忍び込み、物陰でただじっとしているのだ。そうしているだけで、すやすやと寝息を立てているセレネの命は蝕まれていく――はずだった。
『何者だ。ここをどなたの部屋と心得る』
ベッドの下で唐突に響いた、よく通るバリトンの声に、ムカデは不思議そうにキチキチと顎を鳴らした。ムカデは、ちょうど標的の枕もとの下辺りに、何か小さな白黒の生き物の姿を捉えた。それと同時に、嘲笑するように再び顎を鳴らした。その生き物は、自分の体長の半分にも満たない、ちっぽけな小鼠だったからだ。
『私の言葉が分かるか? 分からないだろうが一応警告はしておこう。ここは姫の中の姫、セレネ=アークイラ様の寝室。そして私は偉大なる姫の守護者――バトラーと申す』
虫相手に通じはしないだろうが、それでもバトラーは恭しく名乗った。だが、バトラーの言葉などまるで無視し、ムカデはじりじりとバトラーと距離を詰める。バトラーはただ悠然と身構えるだけで、怯えた様子はまるで無い。
『ムカデよ、一つ問おう。何用で姫の寝室に訪れた? 姫に謁見を申し込む気か……おっと!』
バトラーはムカデの意図を探ろうと交渉を試みたが、ムカデはいきなり飛び掛り、バトラーの喉元に噛み付こうとした。バトラーは特に慌てる様子もなく、軽く身体を捻るだけでその鋭い牙の一撃を回避した。
この短い動作を見て、ムカデは初めて動揺するように身をくねらせた。小鼠を見たときは、美味そうな餌が転がっている程度にしか考えて居なかったが、この鼠の俊敏さは尋常ではない。バトラーが一歩前に出ると、気圧されたようにムカデが後ずさる。
『ふむ……なかなかに速さのある一撃だ。どうだ、私と少し『遊び』をしてみないか?』
バトラーはいきなりそう言うと、後ろ足だけで立ち、両前足を広げ、仁王立ちをした。まさに飛び込んでこいといわんばかりだ。それどころか、彼の胸元につけていた赤いリボンすら優雅に解いてみせた。
『どうした? 私の喉元はがら空きだぞ? それに私の喉元は真っ白だ。ベッドの下の暗がりでもよく見えるであろう。さあ、来るがよい』
バトラーの言葉が分からずとも、相手が自分を敵とみなしていない事実に、ムカデは深くプライドを傷つけられた。そして、自殺志願の鼠の望みどおり、無防備にさらされた喉に思い切り噛み付いた。後は魔力で強化された牙で、この小鼠の首をへし折り……へし折り……折れない!
『ふぅむ……やはり、この程度の威力しかないか』
バトラーはムカデに噛みつかれても身じろぎ一つせず、そのまま後ろ足だけで立っていた。食い込みが甘かったのか。ムカデは再度、攻撃態勢を整えるため離れようとするが、ここである事に気がついた。噛み付いた牙が全く離れない。バトラーが首の筋肉に力を篭めているため、牙が抜けなくなってしまったのだ。
『ムカデよ、貴様に攻撃を許可した理由は一つ。たとえ狼藉者であったとしても、実力があれば、私が性根を鍛えなおせば、姫の剣となり盾となる従者になる可能性があったからだ。しかし、この私に傷一つ負わせられないようでは、貴様を生かしておく理由も無いな』
そしてバトラーは力を緩めた、ムカデは危機を感じ、その無数の足を動かし、高速でベッドの下から逃げようとする、しかし、四本の豪脚を持つバトラーからは逃れられはしない。彼は電光石火の速度でムカデの前に回りこむ。
『お前がここに侵入した理由は分からぬが、ここは偉大なる姫の寝室である。許可無く立ち入り、従者である私にいきなり襲い掛かる。あまつさえ、勝てぬと分かれば敵前逃亡。以上をもって、セレネ姫に謁見する資格無しと見做す!』
そう言うと、バトラーはムカデが回避行動を取る間もなく、頭を一撃で噛み砕いた。バトラーの牙は小さいが、ひとたび彼が本気を出せば、鋼鉄の盾にひびを入れる事すら容易である。こんな一撃を喰らってしまえば、多少強化されていようがいまいが、ムカデはひとたまりも無い。
強烈な前歯の一撃を喰らったムカデは、断末魔の雄叫びのように身悶えていたが、そのままびくびくと痙攣し、二度と動かなくなった。
「バトラー、うっさい」
侵入者を撃退したバトラーが後ろを振り向くと、そこには逆さまになったセレネの頭があった。ベッドの上から動くのが面倒なのか、頭だけでベッドの下を覗き込むように見ていた。
『騒がしくしてしまい申し訳ありません。狼藉者を始末しておりました故。お許しを』
「ろーぜき? あ、ムカデ……」
セレネはベッドから降りると、何のためらいもなくベッドの下に手を突っ込み、寝ぼけ眼でそのムカデを手に取った。
生前から、元々動植物が好きな方であったし、ムカデやクモといった生物は、ゴキブリやハエといった厄介な相手を捕食してくれる、セレネにとって友軍だった。
そんなわけで、人間の友達が殆どいないセレネにとって、ムカデはセレネにとって友達の一人だった。
「しんでる……」
しかし、セレネが手を差し伸べた時には既に遅く、その立派な体格のムカデは息絶えていたので、セレネは大層がっかりした。せっかく鼠が喋る世界に転生したのだから、もしかしたらこいつとも友達になれたかもしれないのに。
そういえば、こういったムカデみたいな虫を使う呪いを、過去世の漫画で読んだ事がある。ああ、もしこいつが生きていてくれたら、魔力を与えて王子の寝室に忍び込ませたり出来たかもしれないのに。こんな立派なムカデ、中々手に入らないぞと、セレネは悲しげに目を瞑る。
『姫はお優しい方でございますな……ですが、そのムカデの死は無駄ではございません』
「え?」
『生きている物は皆、いずれ土に還るのです。そうして再び生きる物の血肉となるのでございます。さあ、もうお休みになられてください。そのムカデは、私のほうで然るべき手段で処理しておきますので』
「わかった」
セレネはあっさりバトラーの台詞に頷いて、ムカデを床にぽいっと投げ捨てた。セレネは動植物の命を大事にする人間だったが、それ以上に美少女と乳房を大事にし、そしてそれ以上に自分を大事にする人間なのだ。
『姫は寝たか……よし!』
セレネが再び昼寝に戻るのを確認した後、バトラーはおもむろにムカデに喰らい付いた。バトラーはムカデの死骸を、実にうまそうにモリモリと食べていく。
『むむっ! このムカデ、外殻は噛み応えがあるが、中身は想像以上にふんわりとしているぞ! それでいてしつこくなく、身もたっぷり詰まっている! こ、これはなんという絶品だ!』
バトラーは元々森の鼠である。セレネが嫌がると思い、極力、彼女の前では虫を食べないようにしていたが、やはりこれほど立派なムカデが乱入してくると、否が応でも食指が動く。無論、セレネに害を及ぼすムカデを始末するのが主な目的ではあったが、降って湧いたご馳走にバトラーは内心で大喜びだった。
『しかし、どこか懐かしい味だ……おふくろの味と言った感じかな?』
それもそのはずである。蠱毒は本来なら呪いの力だが、バトラーの体内には、数年間流れたセレネの魔力がある。数日篭められた呪力程度なら中和してしまう。さらにセレネの魔力を触媒に使われているのだから、親しみやすいのも当然である。
こうしてバトラーは、丸々と太ったムカデをぺろりと平らげた。しかし、このムカデは一体どこから来たのだろう。どう考えても、自然にこんな物が生まれてくるとは考えづらい。しかも、このムカデは窓から入ってきた。どう考えても、誰かが空から落としたとしか思えない角度でだ。
『もしかしたら、亡き母上からの贈り物かもしれないな……』
日ごろ影としてセレネを助けているのを、もしかしたら天に昇った母は見ていてくれているのかもしれない。その母が、自分を労うために魔力の詰まったムカデを送ってくれた。子供じみた考えだが、偶然にしては出来すぎている。バトラーはこのムカデを母からの贈り物という事にして、それ以上は言及しなかった。細かい部分はどうでもいい、そう思うほどに美味いムカデだったのだ。
こうして近年まれに見るごちそうを食べてご満悦のバトラーは、今は亡き母を偲び、英気を養い、より一層執務に励むのだった。
◆◇◆◇◆
「もう二週間経ったのに全然駄目じゃない!」
「うむむ……こんなはずでは……」
人を食ったような態度の呪詛吐きも、エンテの部屋に呼び出されて以来、初めて困惑したような表情を浮かべた。常人であればとっくに死んでいる筈である。にもかかわらず、セレネの訃報は一向に入ってくる気配が無い。
渋るコクマルを叱咤し、何度かヘリファルテへ様子を見に飛ばしたりもしたが、セレネはぴんぴんしており、いつも通り生活しているとのことだった。コクマルの報告が嘘であるという可能性も無いわけではないが、あの馬鹿ガラスは、自分の利益に関することだけは決して逆らわない。そういう意味では、呪詛吐きはコクマルを信頼していた。
「考えられる原因としては二つありますが……」
呪詛吐きは口元に当てていた手を離し、言いづらそうに口を開く。
「まず一つ、あの娘が呪いに対抗できる存在を用意し、取り除いてしまったという事です。しかし、これはあまり現実的では有りませんな」
そう言って、呪詛吐きは己の考えを否定した。蠱毒に対抗できる存在はそうは居ない。対抗できるとしたら、相当な力をもつ魔獣くらいだが、この大陸に魔獣の製法を知っている人間はほぼ皆無だし、一万歩譲り、何らかの偶発的な理由で魔獣を作ったとしても、力を蓄えるためには相当前から準備しておかねばならない。
「じゃあ、もう一つの可能性ってのは何なのよ?」
「あの娘の精神力が、人並みはずれて優れているということでございます」
「……どういうことよ?」
「そもそも呪いという物は、精神的なものと強い結びつきがあるのです。『誰かが自分に悪意を向けている。命を狙っている』こういう事実を知るだけで、人は疑心暗鬼に囚われ、恐れ、衰弱してしまうほどです。そういった人間の弱い部分を増長させ、魔力を絡めて蝕んでいくのが真の呪いにございます」
「それで?」
「つまり……そういった汚らわしい物を跳ね除ける高潔な精神があれば、呪いという物は効果をなさなくなる可能性があるのでございます。何かご存知なことはありませぬかな?」
「そういえば……」
エンテは記憶を掘り返す。ヴァルベールにセレネがやってきた際、他の従者から搾り出した情報では、セレネに魔力がある事と、何か類稀な才能を持っていてヘリファルテに引き取られたという話を聞いたことがある。
「ほお……類稀な才能、でございますか。して、どのような才能でございましょう」
「分からないわ」
エンテは首を振る。従者たちが言っていたのは「セレネに類稀な才能があり、アークイラからヘリファルテに献上された」という事だけだった。これはアークイラとミラノ王子が取り交わした書簡であり、ヘリファルテ王宮全体にそう公言されているらしい。しかし、具体的にどんな才能があるかは誰も知らなかった。
「もしかして……ううん、きっとそうだわ」
「何がでございますか?」
ここでエンテは、自分が重大な勘違いをしていることに気が付いた。てっきりセレネに魔力があるから、王子はあの小娘を手元に置いたのだと思っていたが、それ自体がおかしいではないか。
少ないとはいえ、平民にも魔力を持つ者はいるのだ。ならばセレネでなくても良いはずだ。類稀な美貌である事は理解出来るが、ミラノは外面の美しさだけで寵愛をするタイプではないはずだ。
「その才能が……公言出来ないものだったってわけよ!」
そう、セレネの持つ真の才能は、数値や形で表現できないものだったという事ではないのか。つまり、ずば抜けた精神力、民を導くカリスマの片鱗、邪悪を跳ね除ける高潔さ、そういった類の物だったのではないだろうか。だから、「魔力の才能がある」とか「絵画に造詣が深い」とか、具体的な文言として記述されなかった。そう考えるのが自然ではないか。
こうなると、エンテとしては本当に過去最大級の敵が現れたと認識せざるを得ない。魔力は自分にもある、技術は修練で見につけることが出来る。しかし、その者の生まれ持った「高潔な精神」とか言った漠然としたものは、その者以外には決して身につけることが出来ないのだから。
「どうすんのよ! 呪いが効かないんじゃ打つ手無しじゃない! もっと他に方法は無いの!?」
「そう言われましてもなぁ。蠱毒が効かないとなると、恐らく、どの呪いも跳ね返されてしまうでしょうなぁ」
「この役立たず! 何が呪詛吐きよ、このウソツキ!」
エンテはあらん限りの罵詈雑言を呪詛吐きにぶつけたが、呪詛吐きは平然としている。それどころか、だんだん顔がにやけてくる。怒りのままに感情を吐き出していたエンテも、段々不気味に思えてくるほどだ。終いには、呪詛吐きは天を仰ぎ、腹を抱えて笑い出した。
「ひ、ひひひ……ヒャーヒャッヒャッヒャ!!」
「な、何がおかしいのよっ!?」
自分の呪いが効かなくて気が狂ったんじゃないか、エンテはそんな邪推をしたが、それはあながち間違ってはいない。呪詛吐きは目を爛々と輝かせ、丸めていた背筋を伸ばし、今までに無いほど生き生きとしていた。
「いやいや! これほど愉快な事はありませぬぞ! まさかこの呪詛吐きの代で『あれ』を使うことになるとは思いませんでしたからな!」
「あれ……?」
エンテが不審がると、呪詛吐きは喋りたくて仕方ないとばかりに、べらべらと饒舌に口を開く。
「我が一族に伝わる『禁術』でございます。あまりにも危険ゆえ、もう何百年も使われておりませんでしたが、それほどまでの精神力をもつ者を殺すとなると、これを使わざるを得ませんな。いやいや、長生きはするもんですなぁ!」
呪詛吐きはうれしくて仕方が無い。今まで骨の無い相手ばかりで、こんな大魔術を使う機会など二度とないと思っていたのだ。それを自分の代で行使できるなど、呪い師として最高の名誉だ。
「それ、本っっ当に効果があるんでしょうね? 蠱毒とかいうのだって肩透かしだったじゃない」
「蠱毒などというちんけな代物と比べられては困りますなぁ。これは、呪いの質そのものが違いますので。ただ、準備にかなりの時間が掛かりますぞ。そうですなぁ、期間は半年ほどですかな」
「半年!? 随分と待たせるのね」
「まあ色々と準備がありましてな。まず罪人の血を集め……」
「聞きたくないわ」
どうせ碌でもない方法なのだ。エンテは耳をふさいで話を遮る。
「私が興味があるのはただ一つ。その禁術とかいうので、確実にセレネを始末できるかどうかよ」
「過去にこの術を使い、何度か国を滅ぼした記録がございます。それを小娘一人にぶつけるのですぞ。聡明なエンテ様なら、これで分かるのではありませんかな?」
「…………」
エンテは沈黙する。人一人ではない。国一つ滅ぼす程の術だ。呪詛吐きは今回は失敗したが、人を呪い殺すという事に病的なこだわりを持つ人間だ。嘘を言っているとは考えにくい。
「分かったわ。ただし、二度は無いわよ?」
「それはご安心を。このような大魔術、この老体では二度は打てませんのでな。この呪詛吐きの生涯最初で最後の大仕事にございます」
呪詛吐きは実に上機嫌でそう言うと、エンテに準備資金として額を示した。途端にエンテの顔が引きつる。
「ちょっと、これは法外すぎない?」
「そりゃあ法外な事をしますので、法外な値段になるのは当然でございます。しかしエンテ様、効果の程は保証しますぞ」
結局、エンテは呪詛吐きの要望を受け入れた。
これ以上、セレネを増長させておけば、成長したときに本当に危険分子となる。
ならば、多少のリスクを払ってでも、絶対に消しておかねばならない。
エンテは歯がゆい思いをしながらも、あの美しい娘が、どのように悶え苦しみ死んでいくのか、それを考えて過ごすのもまた一興であると思いなおした。所詮あれはまだ小娘。半年程度なら王子も夜の相手はさせないだろう。まだまだ時間はある。
「今回は私の負けね。でも、最後に勝つのは誰かしら? せいぜい半年後を楽しみにしている事ね」
そうして、エンテはセレネの散る姿を思い浮かべ、悦に入るのだった。




