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君へ

作者: 幸橋

久しぶりだね、カフネスカ。僕は元気だ。君が僕の街に来たのは雨季のころだったね。君が僕の街の雨を見たいと言ったのだ。僕が手紙で話す中で君は雨に一番興味を抱いた。嬉しかったよ。あの雨は世界中で最も美しい。


そう、僕の街には七色の雨が降る。


まるで雲が虹で、それがポロポロと剥がれ落ちるかのようなんだ。そんな僕の言葉を見て君の手紙は目に見えて速足になっていった。そして、いつしか僕たち二人は雨の中、共に七色の世界に抱かれることを夢見ていた。

君はとうとう船の長旅にもめげずにやって来た。お母さんやお父さんに黙って、それも旅費をちょろまかして。僕があげたお土産は謝るときの手助けとなっただろうか。もし、こっぴどく叱られても僕が保証しよう、君は最高さ!大人用のぶかぶか、ぼろぼろの外套をまとった君を見て最初にそう思った。

おっと話がずれてしまった。

念願の雨は君の到着から二日遅れて追い付いた。君は興奮していた、僕もさ。君と初めて見る雨だ。七色と僕は言ったけど、それはそう言った方がわかりやすいと思ったからで、本当はあまたの色が降り重なり数限りないのだ。君も同じことを言い、いいね、君は七色なんてはっきり見分けがついてさ、なんて僕の表現力の乏しさを皮肉った。僕は怒らなかったろう?同じ思いを共有できたことの方が嬉しかったんだ。

でもね、カフネスカ。君は降っている雨より、降ったあとの雨をより気にしたね。君には言わなかった。降ったあとの七色の雨は僕の街を舞台上の舞姫にはしないのだ。路地裏の老婆のように醜くしてしまう。

七色の雨は地に落ちた瞬間、漆黒に変わる。

真っ黒の街と人。その間を七色の雨は降り続く。

まるでチュナ(天国)からルシュ(現世)に降り立った我ら人の魂のようだと君は君の国の宗教語を使って呟いた。美しいものが醜く変わる瞬間はなんとも言えない悲しさがある。僕たちはそれぞれ反対側の肩を真っ黒に染め、1つ傘の下たたずんだ。

君は次の日、降り続く雨の中、真っ黒な海に小さな船と消えていった。

僕が何を思っていたかわかるかい?僕は雨があがる日までいて欲しかったんだ。でも、君は聞いちゃくれなかった。

君、僕の言葉を聞くべきだったよ。


七色の雨はね、空から降るだけじゃない、地上から空にも降るんだ。


お日さまが顔を出したら七色の雨は母親を見つけた幼子のように一目散に空に駆けていく。でも、空は黒くならない。青空を七色の雨は駆けて、そして、消えていく。


僕の街には伝説がある。戦争好きの隣国の王様がこの地を攻めて来た。雨が降っていた。まだ、普通の雨の頃さ。でも、王様は雨を真っ赤にしてしまうくらいたくさん人を殺した。自分の兵士もごろごろ死体になった。土地は血の赤で染まった。

戦いは終わった。勝者のいない戦いだ。生きているのはほんの一握り。その王様も手傷を負って戦場で動けなくなっていた。その時だ、戦いの間中降り続けた雨が止み、ふと雲の切れ目から日がさした。王様は自分の体から煌めく何かが舞い上がるのを見た。自分だけじゃない。周りから一斉に七色の光が舞い上がった。それは今までに見たどんなものより美しかった。

王様は何も信じて来なかった。美しいものはその分中身は醜い。この世界は醜い。だから、汚しても何も思わなかった。七色の光は王様が汚したものから美しく羽ばたいた。

王様はとぼとぼと墓を作り始めた。死体を埋め、汚い石か、枯れ木を置いた。何ヵ月もそうして、腐り崩れ落ちる死体もあったけど、戦場一面に墓を作った。

また、雨がやって来た。そして、雨があがるとまた七色の光は天を舞った。何度も何度も戦場が何もない野原になるまでそれは続いた。

王様はそれを見ながら死んだ。王様の体も雨がなめ、そして、七色の光となって空に消えた。それからだった、七色の雨が降りだしたのは。

七色の雨は空から来たんじゃない。この地上から旅立って行ったのさ。


君はまたこの街に来るべきだ。君はなぜこの街の傘は皆黒いのかと問うたね。残念。黒じゃない。それを確かめにおいで。中庭に干した傘を君が来るまでそのままにしておくからさ。

君と僕、二人でさした傘からも七色の雨は旅立って行ったよ。


ああ、妹のミゥラが中庭から呼んでる。今日は良い天気だ。きっとまた、木陰にあるブランコを押してとせがむんだ。あの傘はミゥラが好きな傘だからしまってしまわないように言っておかなくちゃ。じゃあね、カフネスカ。きっと来なよ。待っている。


君に天地の女神の加護を


ルプネッツ




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