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未来彼氏*五つのストーリー*

未来彼氏*五つのストーリー*「共通ストーリー」

作者: カノン

恋愛ゲーム“風”なので、選択肢などはありません。

「詩穂…なのか?」


花束を落とした男性が、信じられないという顔で私を見つめる。

なんて答えていいのかわからなかった。確かに私は「詩穂」だ。けれどこの世界の『詩穂』ではない。


(ど、どうしよう…本当のことを言っていいのかな?でも……混乱させるだけだし、それに私自身今の状況に混乱してるよ!)


しどろもどろになりながらも、私はやっと動いた足で一歩後ずさる。

その時、五人の男性の内、一番後ろにいた人物が声を上げた。


「三日月な訳がないだろ?彼女は一年前の今日…亡くなっているんだから」


(一年前に?…本当に、私は……っ。)


未来のことを知ってしまったことと、私は七年後…この世にはいないということが分かり、ぎゅっと自分の肩を抱くようにして俯いた。

恐怖に震える体は止まる気配がなく、私は意識が飛びそうになる。


「いいえ。詩穂です」


「っ…。」


ぎゅっと肩で握りしめていた手に、温かなぬくもりが触れる。

ハッとして顔をゆっくりと上げれば、目の前には優しげに目を細め微笑む茶色寄りの黒髪の青年。

どこかあどけなさの残る顔、まっすぐに相手の目を見て話す曇りのない黒の瞳。


「怖がらないで。俺は…ずっと詩穂の味方だって言ったろ?」


「あ…」


その言葉には、覚えがあった。

小さい頃、近所の男の子たちに「幼馴染」とできている…なんて噂でイジメられ泣いていた私に、同じ噂で苦しんでいるはずなのに立ち向かっていった彼が言ってくれた言葉だ。


「伊吹…?」


「!!」


ずっと近くにいた幼馴染の名を呟けば、目の前の青年は徐々に大きく目を見開いていく。

驚いた時に見せるその反応まで一緒だ。


(伊吹…なの?ほ、ホントに!?)


「やっぱり…詩穂なんだな?」


「あ。…ちがっ―――」


「先輩…なの?」


嬉しそうに顔を寄せてくる伊吹だろう青年の手から逃れようと後ずさると、今度は隣から伸びてきた手が腕を掴んだ。

その手は離さないっと言うのように強く、私は少し痛さに顔を歪めた。


「あ、あの…っ!」


「ホントに…先輩なんだ」


小さく、囁いているような声にそちらを向けば、伊吹より黒いクセのある髪で前髪が少し長く、瞳が見えない青年がいた。

けれど少し風に揺れ見えた瞳は、悲しげで苦しげで、それなのにどこか嬉しそうな…そんな風に見えた。

儚げな白い肌は、少し虚弱に見えなくもない。


(この言い方、そして先輩って言うってことは…もしかして、黎君!?)


まだどこか半信半疑ながらも、夏目黎くん以外には考えられず、私はじーっと思わず見つめてしまった。

すると今度は反対の腕が引っ張られ、私は倒れこむようにして誰かの胸に顔を押し付けられた。


「へえ…マジで三日月なんだな。」


「!!?」


倒れ込んだ先にある大きな胸板からは甘いコロンの匂いがし、私は頬を熱くさせる。

男性慣れしていないのもあるが、こんな事をしてくるのは…夏目先輩しか考えられなかったからだった。

恥ずかしくて俯けば、覗き込む先輩。

一瞬目に入ったのは、金髪の緩やかな少し長い髪に、カラーコンタクトだろうか。青色の瞳が優艶に揺らめいているのが見えた。


(ど、どうしよう!?)


「お前は(なに)で、三日月さんだと認識したんだ。」


しかしそこで、赤面しうろたえる私を救うように逞しい腕が伸び、私を自分の方へと引き寄せる人物がいた。


(あ…眼鏡)


引かれよろめき、トサッとその人に寄りかかり顔を見上げる。

そこには変わらず黒縁メガネを掛け、知的でクールな印象を持ちながらも、どこか優しげな雰囲気を漂わせる…悠李先輩(だと思われる)がいた。


「う~ん?…匂い?後は…体の形?」


(ぞわっ!)


悪びれもせず、いや、寧ろおどけて言う夏目先輩に私は顔を青ざめると悠李先輩にしがみついた。


「夏目先輩、それだとまるで変態ですよ?」


(いや、伊吹。間違いなく変態だよ!)


「上条先輩、アイツは間違いなく変態です…」


私の心の声と、黎くんの声が重なる。

そこでもう一つ、今まで黙っていた人物が私の前に姿を表した。


「マジで…三日月なのか?」


(あ…坊主じゃない)


残る人物はだいたい想像がついていたが、改めて目の前の彼を見る。

髪は坊主より少し伸びた黒髪。活発そうな顔は相変わらずで、体格は筋肉質になっているのがスーツの上からでも分かった。


(健人くんだ…)


まじまじと見てくる健人くんに、私もじーっと見つめ返した。

そこで改めて五人を見回す。

大人になってはいるものの、性格や仕草など変わらないところを見て、私は本当に彼らがあの時、告白してくれた彼らの七年後の姿なのだと確信した。


(どうしよう…。皆、私が詩穂だって思い込んでるみたい…。

いや、詩穂で合ってるけど…合ってないというか…。わ、訳分かんなくなっちゃったよ!)


自分でも何が何だか分からなくなり、五人の視線から逃れる様に私は顔を鞄で隠す。


「ひ、人違い、ですよっ…」


「人違いなら、なんで顔隠すの?」


今出る最大の声で言ったのに、夏目先輩の声が近くで聞こえたかと思った瞬間、手から鞄を没収される。

「あっ」と声を上げる暇もなく、私は五人から鋭い視線を浴びせられる。


(も、もう…限界!!)


「わ、私っ…!」


「お待たせしました、三日月詩穂さん」


「えっ!?」


勢いに任せ言いかけた私を五人から隠す様に、どこからともなくスーツの時先さんが現れる。


「時先さん…!」


「アナタは?」


すがる思いで時先さんの背にしがみつけば、五人が訝しむように時先さんを見た。

突然現れれば、そういう反応をするだろうと見越していたのか、時先さんは礼儀正しく腰を折ると話し出す。


「失礼。私は時間区間管理警察・時先瞬と申します」


「時間…区間管理?」


「警察…」


伊吹と悠李先輩が言葉を反芻すると、時先さんは顔を上げ私の背に手を置き、五人の前に優しく突き出した。


「単刀直入に申しますと、彼女はこの時代の“三日月詩穂”ではありません」


「「は?」」


五人の声が重なり、私は視線をさまよわせることしか出来なかった。


(言っちゃうの?)


隣に立った時先さんを見上げれば、彼は笑いかけてくれると、また五人に目を向けた。


「彼女は…七年前からタイムスリップしてきた三日月詩穂さんなのです」


「七年…前?」


伊吹が時先さんから私に視線を移し、それだけ言うと黙り込む。

それは他の人も同じで、辺りに沈黙が落ちる。


(あれ?…なんか、空気が重い?)


皆なぜか俯きがちに顔を伏せ、私から視線を逸らしていた。

何かを思い詰めているような表情に不安感が胸に広がろうとした時、時先さんが口を開く。


「あなた方は此処にいる三日月さんとも、この時代の彼女とも面識がある唯一の存在であり…何かしら彼女と関係を持っていた方々だというのは、この墓地に来たことで証明されています」


「それがなんだって言うのかな?」


時先さんの話に、夏目先輩が笑みを浮かべ反応する。けれどその笑みはどこか冷たく、突き放す様に私には見えた。


「彼女が元の世界に帰るためには、あなた方の協力が必要だということです。」


「俺達が?」


「どういうことでしょう。」


健人くんと悠李先輩の言葉に、時先さんは懐から何やら分厚い紙を取り出した。

それを目の前で広げると、書かれている内容を読み上げた。


「特例事例につき、本来時空間に関わりを持つことのない“人間”に強制協力を命ず。」


「「は!?」」


五人が息のあった驚愕の声を上げると同時に、彼らの手の甲や腕、胸元や首や頬に光が宿る。

青白く輝いていたそれは収縮すると、複雑な形をした紋章になり、タトゥーのようにそれぞれの身体に描かれた。


「なんだこれ!?」


「擦っても……取れない」


「それは時間区間管理局が認めた者に与えられる紋である。

それがある限り、彼女が元の時代に戻るための手伝いをあなた方にはして頂く」


「冗談じゃない、こんな紋を入れられたら仕事に支障がでるんだけど」


夏目先輩が冷たい視線を時先さんに向ける。本気で怒っているようだった。


「その紋は我ら時間区間管理局の者と、同じ紋を持つ者、そして三日月さんにしか見えません。

そして…その紋はある約束事を、共にあなた方に刻み込みました。」


「ある…約束事?」


伊吹が柳眉を寄せ、聞き返す。時先さんは一度手に持つ紙から視線を五人と私に移し、低い声音で言葉を紡ぐ。


「一つ、七年前から来た三日月詩穂の存在を周りに漏らさないこと。

二つ、必要最低限以外の未来の事を三日月詩穂に教えないこと。

三つ、彼女に恋愛感情を持たないこと」


「「え?」」


誰もがきょとんとしたのは、きっと三つ目の約束事だと思う。

私自身…目を丸くしてしまったのだから。


「四つ、この時代の三日月詩穂の最後の想いを調べること」


「先輩の…最後の想い?」


黎くんはそう呟くと私を見た。すると他の四人も真剣な双眸を私に向けた。

射抜かれそうな五つの視線を、私もまた正面から受け止めた。


「五つ、以上の約束事を守れなかった場合、それ相応の罰を与える」


「え……」


絶句したのは私だ。

あの紋を付けさせてしまったのは私なのに、彼等はもし約束事を守れなかったら、罰を受けてしまう。


「ま、待って下さい!」


「…なんでしょう?」


「私が元の時代に戻るために、彼らに迷惑をかけるなんて出来ません!

私一人で探すのはダメなんですか?彼らに協力をお願いするにしたって、強制なんて…。

それに、そんな罰を与えるって…!」


「彼等には貴女を助ける義務がある。と言ったら?」


「え…?」


掴みかかる勢いの私の肩に片手を置き、時先さんは分厚い紙をまた懐にしまった。


「彼等は三日月詩穂の死に関係している」


「!…」


私は反射的に五人を見つめる。

けれど五人は共に黙り込んだまま、私や時先さんを見ようとしなかった。

それは暗に肯定を意味しているように見えた。


「とにかく、これであなた方に拒否権は無くなりました。彼女が元の時代に戻れるようご協力、お願いいたします」


「「……。」」


時先さんが営業スマイル的に微笑む。

それに誰も言葉を返すことなく、またも沈黙が落ちた。

だけど、そこで伊吹が口を開く。


「俺は…手伝います」


「あ…」


昔から変わらないまっすぐな瞳に、光が宿っていた。


「この時代じゃなくても“詩穂”が困っているのなら…俺は協力します」


「伊吹…」


「私も協力しましょう」


伊吹に続き、悠李先輩も眼鏡を指の腹で押し上げかけ直す仕草をすると、フッと優しく表情を崩した。


「先輩として、後輩の助けになるのは当然だ」


「悠李先輩…」


それは七年前、私からしたらさっきまで会っていた先輩そのものだった。


「俺も…」


黎くんも片手を少し上げつつ、悠李先輩の言葉に頷く様な仕草をした。


「手伝ってあげますよ。…先輩って、目を離すと何かやらかしますから」


「黎くん…」


(一言余計なんじゃないの?)


素直に喜んで良いのか悩んでいると、健人くんが一歩前に出た。


「手伝って、三日月が元の時代に帰れたら…この紋は消えるんだよな?」


「はい。何もかも終わったら、自然と消えます」


問われた時先さんが営業スマイル(まだ続けてた)で答える。

すると健人くんはため息を吐くと、私に向き直った。


「そういうことなら…俺も、手伝ってやるよ」


「うん、ありがとう…」


迷惑だよね…と思って苦笑混じりにそう言えば、健人くんはいきなり頭を掻くと声を荒げた。


「あ~っ!そうじゃないっての!…別に迷惑とか、思ってないって。……ただ、この紋が気になるから、早く消したいだけだよ!」


「あ…う、うん。」


頬を赤らめる健人くんの言葉に嘘は無いと思ったので、私は声に圧倒されながらも素直に頷いた。


「悪いけど、僕は手伝う気はないよ」


「…!」


「遙斗!」


夏目先輩が此処から去ろうと踵を返すと、悠李先輩が声を上げる。


「例え彼女が七年前の三日月でも、俺に取っての三日月は一年前の今日、亡くなった彼女の方だから。」


細められた目は冷たくて、知らず私の手が震えた。

そして…何故かズキンッと胸が痛んだ。


「なら、尚更手伝って頂かないと…後悔するのは貴方です。夏目遙斗」


「なに?」


時先さんの声に、歩き出そうとしていた夏目先輩は怪訝な視線を向けた。


「七年前の三日月詩穂が此処に留まれば、彼女は此処で生きることになる。しかし生きる世界は同じ、つまり時間軸が違うだけ」


「何が言いたいんだい?」


「彼女が此処で過ごす時間の分だけ、過去の世界では“三日月詩穂”という人間がいない時が進んでいると言うことです。

するとこの世界の過去が変わるということですから……未来も大きく変わってしまう。

つまり三日月詩穂という存在が世界から無くなってしまう可能性があるということです」


「「…っ!?」」


夏目先輩を始め、私や伊吹たちも息を呑む。


「あの!さっきから思っていたんですけど、貴方…時先さんが彼女を元の時代に戻すことは出来ないんですか!?」


「無理です。先程も言いましたが、彼女が元の時代に戻るためには…あなた方“五人”の力が必要なんです」


伊吹の焦った声とは対象的に、時先さんは落ち着いた声音で返した。


「帰るためには『この時代の三日月詩穂の最後の想い』を知ることです」


「私の…想い」


まるで死刑宣告をされたかのように、私の目の前は真っ暗になる。

けれどフラついた私を、誰かが支えてくれた。


「大丈夫。君は必ず元の時代に帰す」


その力強い声と、受け止めてくれた腕の中の温もりに、希望が見えた気がした。


────その彼とは?




~キャラクター選択~



上条伊吹(かみじょういぶき)*主人公の幼馴染みで誰にでも優しい好青年。大人になった今でもそれは変わらず、職場でもモテるよう。でも現在彼女はいないらしい。告白した女子によると、どうやら幼い頃から好きな子がいるようで?


佐井菜悠李(さいなゆうり)*主人公の高校時代の先輩。黒髪眼鏡が特徴の大人な男性。高校時代と変わらずの本好き。仕事熱心で徹夜も多いが弱みを見せない完璧主義者。けれど…年に一度、その壁が崩れる時があるようで?


夏目黎(なつめれい)*主人公の高校時代の後輩。クールで無口な印象は変わらず、主人公に対してだけ生意気な口調になるのも変わっていない。高校時代でも体育が苦手という運動音痴だったが、その頃よりも虚弱になったように見える。それには彼の仕事が関係しているようだが?


甲斐健人(かいけんと)*主人公の高校時代の同級生。元気っ子な感じは変わっていないが、大人になり少し筋肉質になり凛々しくなった。幼い頃から続けている野球を今も続けているが、プロ選手ではなく地域の野球活動に参加する程度らしい。それには理由があるらしいのだが?


夏目遙斗(なつめはると)*主人公の高校時代の先輩。女子にモテるのは変わることがなく、今では超人気アイドルにまで上り詰めていた。女性には優しくを心掛けているが、男に対しては容赦が無い。笑顔を絶やすことないのだが、主人公に対しては何故か冷たい態度を取る。だが彼には誰にも言っていない隠し事があるようで?



───未来と過去。同じ人だけど、同じじゃない。『私』は誰に恋をする?


ここまで読んで下さり、ありがとうございます。


キャラ選択とありましたが、あれは今現在考えているキャラ設定です。

物語の投稿は紹介の順番通りとは限りません。

どの彼の話が次にくるのか、楽しみに待っていて下さると嬉しいです!


誤字脱字がありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。

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