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偽善HERO  作者: 城白
第1章 絶対正義組織
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正義ファイル5:内乱

 さっきとは打って変わり、部屋が静けさを取り戻す。

 そんな中、俺は(せつ)から言われた言葉を思い出す。『なぜあいつらを殺そうとしなかった、なぜ(らん)に殺すなと言われて、殺すのをやめた』と。その通りだった。今思い出せば、俺の行動は謎ばかりだ。雪と会話を交わすことなく、首をはねることもできたはずなのだ。それと同時に、他の四人のことも殺せた。それをしなかったのは、雪の言うように、彼らと一緒にいるのが、楽しいからなのか……?

 いろいろ考えてみるが、わからなかった。自分がわからないというのがここまで気分が悪いとは……。

 考えはまとまらない。

 どうしようもなく、俺はパソコンを起動させた。特にすることはない。

 そういえば、と思い立ち、俺は例のカリキュラム012についての解決策を練ることにした。総武官(そうむかん)だけに手間をかけるわけにはいかない。それに、他の武隊長は何も考えてこないだろう。特に翔里は、あれで十分だと満足してしまっているし、していないにしても他人に言われて自分の考え方を変えるような奴じゃない。

 さて、どうするべきか。

 まずは現在の状況を把握することから始めよう。特別カリキュラムコード:012は、どのようなシステムなのか。なんの為に行われているものなのか。どう進められているのか。問題があるのならばそこから変えていかなければならないだろう。

 主に、精神力が必要だと俺は思う。体の一部が離れても、動じない精神力が。そのためには、何をすればい良いのか。方法的には今のもの、殺人に慣れるという方法のままでいいと思うのだが、それでもあの状態。ならばどうすればいいのか。なるべく悪以外のものは殺したくはない。だが、少なからず犠牲は必要だ。

 いや、やめよう。そういう考えはやめよう。

 こういうのはやはり、総武官に任せたほうがいい。

 と、ちょうどパソコンを閉じようとしたタイミングで、雪から一通のメールが届いた。緊急かもしれないので、開いてみる。

『あ、真輝(まき)~。もうお昼だけどご飯食べた~? 俺はねー、カレー食べました! うまうまだぜ! もちろん俺お手製の特別カレーさ! アデュー!』

 という巫山戯(ふざけ)た文章と共に、食べ終わったカレーの皿と雪の写った写真が添付されていた。なぜ食後の写真……。

 その文を読み、俺は時計を見る。もう正午を回っていた。腹も減るはずだ。

 俺は料理を作るという概念がない(というか作れない)ので、部屋を出て雪の部屋に向かう。俺は基本、軍に支給された栄養剤か、時間があれば雪の作った料理で食事をとる。食欲があまりないので、二、三日は水だけでも生活できる程だ。そんな生活でもあまり痩せないのが不思議なところだ。

 軽くノックをし、雪の部屋に入る。

「はいは~い。真輝? カレーでも食べに来たの? 待ってて、今つけるから」

 そう言って玄関の方へ歩いてくる。その手には一冊の本を持っているが、表紙がやけに肌色だということには絶対に触れたくない。部屋の中で何をしていようと勝手なのだが、せめて他人が入ってきたときは隠せ。

「……和食で」

「は?」

 俺が真顔でそう言うと、雪はふざけるなと言いたげに、そう返した。

「だから、カレーより和食が食べたいから和食を作れと」

「うん。真輝くん、作るの大変なんだけど。お前のことだから、ご飯に味噌汁に、煮魚におひたしとか言うんだろ。めんどくせぇ。しかも、あんなことした後に、よくそんな厚がましい要求できるな!」

「ああ」

「…………、そういう奴だったなぁ、真輝は。はいはい、作らせてもらいますよーだ。じゃ、上がって上がって。一時間くらいは待っててよね」

「ああ」

 適当に返事をしながら、ブーツを脱ぐ。

 キッチンに向かい、俺のためにわざわざ料理を作り出した雪を見ながら、俺は床に座る。俺の部屋とは違って、机と椅子が置かれているので、しかも二つ椅子が置かれているので、それに座ることも考えたが、そうしなかった。理由は一つ。机の上に例の肌色の多い表紙の本が置かれていたからだ。

 暇なので雪の持っている本を漁る。まともな本があったら読んで時間を潰そうとも思ったのだが、そのまともな本がなかったので諦めた。

「――真輝、できた。さっさと食べて」

 と、雪が器用に茶碗やお椀、平皿を持ってくる。ちゃんと和食だった。

 雪が例の本を机から下ろしたので、俺は椅子に座る。だが、目の前でその小説の続きを読み始めるので、気分は良くなかった。

「いただきます」

 手を合わせ、そう言う。

 いつもどおり、雪の作る料理はうまい。

「ところで雪、俺は白味噌派だと言っているだろう。なぜまた赤味噌なんだ」

「うるせ」

「まあいい。ありがとう。おいしかった。ごちそうさま」

 食器をシンクまで運び、水に浸す。雪に食器も洗うなと言われているので、そのままだ。一度、食器を洗おうと思ったことがあったのだが、その時に全ての食器を割ってしまったことが原因だろう。あれはたまたま、手が滑ってしまっただけだと、何度言っても雪は聞き入れてくれない。確かに俺は、掃除や洗濯は出来ても、食事に関することはからっきしだったりするが。

 何もせず、俺は椅子に座る。

 雪は表情を一切変えず、その肌色の多い表紙の本――官能小説を読み進めている。一度、目の前で音読されたことがあったのだが、内容がかなりアレなものだった。雪の趣味はわからない。とりあえず、俺は無理だ。

「ところでさぁ、真輝」

 唐突に話しかけられる。話しかけながらも、小説のページをめくる手は止めない雪。

「この前、俺、咲也(さくや)くんと話したよ。変わってないね、咲也くん」

「秘密武隊(ぶたい)のことを話したのか」

「ううん。武隊長(ぶたいちょう)に昇格したばっかりだから、困ったことあったら頼れよーって。実は俺生きてるからさって、言ってきた。あ、もちろん生きてることは内緒にしてもらったけど」

 他愛ない雑談のつもりだろうが、俺にはただの反逆行為にしか聞こえなかった。襟元から覗く、俺の切りつけた跡を見て、殺さなければならないという意志は削がれたが。

 とは言っても、咲也、佐々野(ささの)咲也というのは特攻武隊長、ナンバー零の奴だ。それくらいのことは知られていても、差し支えないだろう。それに、雪が手とり足とり誘導するというのならば、それはそれで助かる。

「それで、雪。お前が真面目に話すなんて珍しい。何かあったのか」

「うん、真面目な話なんだけど、一言余計だ。……ああ、それでね、実はその時、久しぶりに特攻武隊棟に入ったんだけど、荒れてる。酷い有様。そりゃ、あんな雑魚みたいな裏切り者が出るわけだ」

 雪がそう語る。その話を俺は黙って聞いた。

「あれは武隊として成り立っていない。任務があれば咲也くんと、数名のみが執行。残りの五十人前後の隊員は、基本この本部で待機。任務に出ることはない。だから、結構咲也くんには負担がかかってるみたい。そんなだから、咲也くんの不在時、どうしても咲也くんが任務に出られない時に駆り出される奴らは、今回の裏切り者みたいに悪炎雨に加担したり、うまく任務執行ができなくて、死んだり処分されちゃうわけだ。プラス、任務に出ることがないから、特別カリキュラムコード:012を受ける必要もない。必要がないっていうか、受けても意味がない」

「………………」

「そのことには前から薄々勘付いてはいたんだけどね。まさか、咲也くんがあんなに頑張ってくれていたとは、上司の俺としても、感心感心。昇格してすぐにあんな状況って、かなり大変だよねぇ。俺だったら絶対キレて、真面目にやらねぇ隊員共全員、爆破してるわ。あいつら何考えてんだ」

「…………それで、そんな状況に陥った原因は」

 この状況に、雪がかなりいらついているということは、その口ぶりから分かった。

 どうしてこんな状況になっているのか、どう考えても俺にはわからない。

「ああ、原因。それは俺が今、調査中。とりあえず、絶正の方針には少し反するけど、咲也くんとか、真面目に働いてる奴ら以外は、情報を吐かせた後に殺すつもりだよ。とはいっても、おおよそのことは想像がついているんだけど。特攻のね、隊員名簿を確認したら、一人だけ見慣れない奴がいたんだよ。秘密武隊に特攻武隊から昇格された俺には、入隊した隊員全員の情報が入ってくるだろ? でもその中で見たことない奴がいたから、大体はそいつが原因かなって」

 そうか、とだけ呟いて俺は黙った。雪の言っていたことについて考える。

 緊急事態であることは分かった。

 カリキュラムがどうという以前の問題であったということか。開発武隊長の翔里には、気の毒なことをしてしまったと、少し反省もする。総武官にも無駄な手間をかけさせてしまったようだ。

「雪」

「――なに?」

「俺もその件に関わらせてもらってもいいか。気になることができた」

「どーぞ。俺もそう言ってもらえることを望んで、お前にこの話を振ったんだから」

 即答だった。うまくはめられたとも思う。

「じゃあ真輝、頼みたいことあるけどいい? まず、この男を絶正内から見つけ出して。名前は藤川(ふじかわ)水蓮(すいれん)、身長が低い真輝と彼の身長は十センチ差だよ」

「うるせぇ、最後の一言は余分だ。……はぁ。わかった、こいつを捕獲すればいいんだな」

 一枚の写真を手渡された。早速、こいつを探しに行くことにしよう。

 頼んだよー、と雪に手を振られながら、俺は部屋を出る。

 写真に映っていた顔は、確かに俺も見慣れないものだった。雪の言っていた通り、秘密武隊には新隊員が入った場合、そいつらの名簿が見せられる。俺には全ての奴らの名簿が渡される。俺以外の秘密武隊員には、特攻武隊から秘密武隊へ昇格した雪は特攻武隊員名簿、海上武隊から秘密武隊への昇格ならば海上武隊員名簿というように、それぞれの昇格前の武隊の隊員名簿が渡される、というシステムだ。

 それなのに藤川水蓮という男は、見慣れない。見たことがない。

 俺は特攻武隊棟に向かった。相変わらず入り組んだこの建物で、迷いそうになる。幾つかの角を曲がると、武隊長室が見えてくる。そこに佐々野咲也がいるのだろう。

 ノックをし、中に入る。中では忙しそうに書類整理や任務関係などの仕事をする咲也の姿があった。身長は高めの、黒髪の男。ぱっと見、俺よりも身長は高い。別に、雪に身長が低いと言われたことを気にしている訳ではない。俺の身長は極めて平均的だ。

 俺はしばらくドアの前で立っていた。邪魔をしては悪い。幾分か経つと、咲也はようやく俺の存在に気がつく。

「どちら様、ですか。その軍服から察するに、白元武隊長様と同じ武隊に所属していらっしゃるようですが」

 見知らぬ俺が居ることで、かなりパニック状態なのだということが見て取れた。目を見開いて、硬直してしまっている。

「俺は――ライトだ。お前の言う通り、城白(きしろ)雪、まあ、コードネームで呼ぼう。(はく)と同じ武隊に所属している。俺は今回、白に頼まれてお前のもとへ来た。大体は白に聞いている。しばらくこの武隊棟内をうろつくが、構わないな」

「も、もちろん。白元武隊長様に頼まれたということならば、問題はないでしょう。この武隊棟内に居られることも問題ありません。ですが――」

 咲也は俺を睨みつけた。

「白元武隊長様もそうでしたが、武隊名、ナンバーをおっしゃらないのには、何か意味でもあるのでしょうか。白元武隊長様はまだ、同じ武隊だったということもあり、名前を知っていましたが、貴方は名前、本名すら名乗らない」

 勘の鋭いやつだ、と思う。

 だが、ここで秘密武隊に関する情報を漏らすわけにはいかない。怪しまれるというのならば、名前くらいは名乗っておいたほうがいいだろう。

九間瀬(くまぜ)真輝、だ。武隊は、事情があって言えない。ナンバーは、まあいいだろう。零だ」

 ここで俺はふと思う。この咲也も武隊長というのならば、武隊長会議に参加しているはずで、俺のことは少なからず知っているはずだ。答えは少し考えて出た。全員参加が鉄則なのだが、この特攻武隊の状況から見るに、参加することができない、この場所から離れることができない、という理由で特別に欠席することを許されたのだと。思えば、一人足りなかったかもしれない。詳しく思い出せないが。

 咲也はふぅと息を吐く。安堵、しているようだった。

「悪かった。最近はこんな状況が続くものだから、ついキツい態度で当たってしまいました。俺の失態、許していただきたい」

「別にいい。俺はただ、許可を得に来ただけだ。これで失礼する――と言いたいところだが、大変そうだな。俺も武隊長を勤めている。大体のことはできるつもりだが、手伝おうか」

「本当ですか。それは、ありがたいのですが、よろしいのですか? 初対面の貴方に、お手を煩わせてしまって」

「構わない。どうせ、白にはそのつもりもあっただろうからな」

 咲也はもう一度、ありがとうございますと、作っていることがばればれの笑顔で、お礼を言った。本当はそう思っていないのか、それだけ辛い状況なのかはわからない。

 机の上に積まれた書類の中から、早く終わらせなければならない任務を分け、任務執行できそうな人物を振り分けて欲しいと、咲也は言った。俺に異論はなく、その仕事に取りかかる。

 だが、机の上に積まれた書類の山を見て、俺はぞっとした。いくらなんでも多すぎる。基本は任務のない秘密武隊とは比べようがないが、特攻武隊にこの量は、流石にない。溜まってしまったのか、それともこれもあの藤川水蓮という人物の策略か。

「ライト、と言いましたね。驚くでしょう、その量。我々特攻武隊には、普通ならばそこまでの量の任務等は入ってこないはずなのですけれどね」

 俺の心を見抜いたかのように、咲也は言った。苦笑いを浮かべている。

「ああ。そう、だな」

 そんな返事しか返せなかった。

 とにかく、早く終わらせねばならない。

 一時間ほどかけて、ようやく書類整理が終わった。その中で、早急に取り掛からねばならない任務は約三十ほどあった。多すぎる。

 人物を振り分ける作業に入ろうと、特攻武隊員名簿を手に取ると、それにも驚愕する。特攻武隊は死人が一番多く出るため、かなり多くの隊員がいるはずなのだが、そこに載っているのは十七人。

「それは、気にしないでください。それ以外のモノは使えないので。そこに在る奴は少なくとも組織に忠実に働いてくれます。ほら、裏切り者を出したくないと、貴方も思うでしょう?」

 咲也は他の書類整理をしながら、俺にそう言う。

「分かった。咲也、この任務、全て俺が引き受けた」

「はぁッ? お前、何言ってるッ? その量をお前一人で執行するというのかッ? 無理に決まっている! あ、その……期限は一週間もありません。それだけの量を一週間で、しかも貴方一人でなど、不可能に決まっています。何を馬鹿なことをおっしゃいますか」

「……? 何か、変なことを言っただろうか」

 首をかしげる。急に声を荒らげた咲也に少し驚きながらも、任務について書かれた書類をまとめる。内容は、別に大したものではなかったので、一人でも十分だと思う。殲滅しなければならないものに関しては、雪を使えばいい。あいつの爆弾は、そういうところでのみ役に立つ。

 何か言いたげな咲也だったが、気にせずに部屋を出る。

 特攻武隊棟を一回りして、藤川水蓮という人物を探してみたが、見つからなかったので部屋へと戻った。武隊棟は広い上、秘密武隊以外の武隊棟には自由に行き来することができる。隠れる場所はいくらでもあるだろう。

 書類を部屋の机の上に置き、俺は一息ついた。料理は全くできないが、かろうじてコーヒーを入れることはできるので、キッチンへ行き、コーヒーをカップに注ぐ。ミルクと砂糖は入れない。甘いのはあまり好きではない。

 コーヒーを飲みながら、俺は考える。

 とある企業の調査、悪炎雨のものと思しき組織の殲滅、とある人物の確保、そしてその人物への拷問。

 大人数で執行することを前提として小分けされた任務をまとめると、ざっとこんなものだった。とはいっても、調査する企業でも三つ、壊滅は一つ、確保・拷問に関しては十だ。

 俺は念入りに計画を立てる。いかなる場合にでも対処できるように、失敗は決して許されないのだから。

 気づくと、時刻は八時を回っていた。夕食を食べる気はない。早速明日からでもこの仕事を片付けようと思っているので、早めに寝ることにした。

 上に着ている軍服とベストだけ脱ぎ、詰襟は着たまま、俺はベッドに横たわる。

 この建物から出るのは何ヶ月ぶりだろうか。と、そんなどうでもいいことを考えながら俺は眠りについた。

【登場人物】


名前:九間瀬(くまぜ)真輝(まき)

コードネーム:ライト

所属武隊:秘密武隊 №零

年齢:22歳

誕生日:10月4日

身長:173cm

体重:69kg

武器:双剣遣い 《釵爵(さいしゃく)


好き:コーヒー

嫌い:悪 偽善

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