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偽善HERO  作者: 城白
第1章 絶対正義組織
3/11

正義ファイル3:会議

 俺は一番奥の席に座る。

 赤く分厚いカーテンで光が遮られており、室内は薄暗い。そもそも、この絶正(ぜっせい)の建物の中は大体薄暗いので、大した問題ではない。むしろ、この部屋は他と比べて明るい方だ。

真輝(まき)さん、これ資料です。どうぞ」

 二つ隣に座っていた少女に、今回の議題の資料を渡される。資料はいつも情報武隊(ぶたい)が準備し、各武隊長に配る。ただし、俺の属する秘密武隊で起こったことに関しては、一切書かれない。絶対に、外部の人間へ秘密武隊の情報はもらせない。

「あぁ、ありがとう。……ん? なんだ、藍瑠可(らるか)か」

 彼女の顔を見て、礼を言うと、昨日頼った神宮(じんぐう)藍瑠可がそこに座っていた。

「はい、私ですよ。何も問題ないですよね。そういうことです」

 藍瑠可はそう言って、舌を出した。俺はその一言で全てを悟る。今までこの武隊長会議に出ていた情報武隊長が、なんらかの事情で死んだか、監禁されているということだろう。

 それきり室内は重い空気に包まれる。

 誰も何も話さない。

 その間に俺はもらった資料に目を通す。

 そこに書かれていたのは、ここ一ヶ月間に起こった、悪炎雨(レッドレイン)絡みの事件だった。

 ここでやっと、暗殺武隊長、枢雅(かなめみやび)が口を開く。コードネームは確かエルト。

「――我々夢省(むしょう)は、ある商業団体を壊滅させた」

 夢省というのは、暗殺武隊の別の呼び名であり、この武隊長会議、そしてその上の正義制裁(せいぎせいさい)総武管会議(そうむかんかいぎ)のみで呼ばれる呼び名だ。

「悪炎雨は、その団体内で、麻薬等の売買、栽培を行っていた。また、その中では暴行、殺人等の法に反することも行われていた。これは正義に反しているとみなし、排除した」

 続ける。

「相手は全滅。我々絶正側には、負傷者二名、死亡者一名の被害。負傷者のうち一名は、再起不能とみなし、絶正内からの完全排除を後日、僕の手で執り行うつもりでいる。理由としては、指が一本吹っ飛んだことと、使えなさ……だろうか」

「あの、今回はその情報、世間に正式に公開したりするんです?」

 藍瑠可が軽く挙手をして聞いた。

 雅はすぐに答える。

「するわけがない。今回壊滅させた商業団体は、一般ではかなり知れ渡った会社に属したものであり、その中で、この麻薬売買、栽培、暴行、殺人があったと知られるわけには行かないだろう? 貴様は情報武隊長を勤めながら、そんなことを考える脳みそも持たないのか?」

「それは余計ですよ。言っておきますけれど、私、そんなに馬鹿じゃないですよ? 情報武隊をなめないでください。雅さん、いえ、エルトさんこそ、情報武隊の本領をお忘れですか」

「知らないよ、情報武隊なんて。そもそも、情報武隊なんて省は必要ないと思うのだが? 情報収集が本分、作戦を立てることもしばしば。だが、それくらいならば、絶正に属する誰もができるものではないか? 貴様らは必要のないものだということが、まだわからないのか?」

「……うるっせぇなぁ! 殺すことにしか能のない愚民がッ! さっきから下手に出て話を聞けば、ぐだぐだと侮辱しやがって! あたしの言ってることは全て正義なんだよ! 黙ってあたしら情報武隊の言ってることを聞いてろ愚図がッ!」

 藍瑠可がキレた。武隊どうしで言い合うことは珍しいことではないが、ここまで言う奴は初めてだった。キレると素が出る藍瑠可は、普通にしている(猫をかぶって大人しい知的な女性を演じている)時とはギャップが激しい。

 この武隊長会議に藍瑠可が参加するのは初めてで、先程まで大人しくしていた藍瑠可が、急にキレたことで、雅だけでなく、他の武隊長も驚いていた。

「き、貴様……。僕に向かって愚図だと? ふざけるなッ」

 雅がやっと言葉を紡ぐ。

 それを藍瑠可はキッと睨みつけた。かなり不機嫌なようだった。

 再び、室内に沈黙が訪れる。誰も話し出そうとはしない。さっきも言ったが、俺は時間が押しているのだ。この沈黙に付き合っている余裕はない。暇ではないのだ。

「……俺から話があるのだが、いいか?」

 俺がそう切り出すと、数人が頷く。

「皆も、特別カリキュラムコード:012の存在は知っているだろうが、先程、俺はそのカリキュラムに関することで疑問を持った。それについて、考えてくれ」

 俺はさっきの任務、あの裏切り者三名を殺したときのことを話した。ただ、俺たちの行う任務に関しては一部の人間しか知らず、ここにいる武隊長の中でも、裏切り者とみなされた者を排除する武隊があるという事実を知っているのは、藍瑠可のみ。その名の通り、秘密武隊なのだ。だから俺は、この場で秘密武隊に所属していると言ったことはない。議長のような存在だと見られているようだ。

 そのあたりは偽装し、共に任務を執行したペアがカリキュラム012を受けているはずなのに、それによってつけられる力が皆無だった、と説明した。

 特別カリキュラムコード:012をまともに受けていない者がいるということを問題視しながらも、本心では、その訓練を執行する開発武隊に問題があるのではないかということを問題視している。

 その意図に気づいてか、開発武隊長、松原翔里(まつばらしょうり)が反論する。

「何それ? それはないでしょ? 俺たち開発武隊はそんな甘くないよ? 基本みんな受けているだろうから説明の必要はないと思うけれど、012は強靭な精神力を付けるため、沢山の人間を殺すんだ。もちろん、善人でなく、消して弱くわない人間、数十人を殺すんだ。全員殺すまでその場所から出ることはできない。それで生き残った奴のみが兵士となれるんだよ? これに何か問題でもあるの? ないよね?」

 優しい口調で、笑顔を崩さないように話していたが、殺意は溢れ出していた。

「でも、そういうことになるよね」

 海上武隊長、梶槍陽(みやりはる)は言う。

「実際、その訓練を遂行するのは翔里たち、開発武隊でしょ? 責任が零っていう風には、絶対に転ばないと思うけど?」

「あ、隠さないでくださいよ? 情報武隊にかかれば、本当は何が行われているかっていう真実は簡単にバレますよ」

 藍瑠可はそう付け加える。

 翔里は何も言い返すことができない。

 俺にとって、現状はどうでもいいのだ。開発武隊がしっかり訓練をつけているのかは問題ではあるが、もう少し深く入ったところが、今回俺が言いたいことなのだ。

 それぞれの武隊には、やるべきことがリストに示され、それをやり切ることができる最低限度の人数が、その武隊に所属している。それは決まりであり、法律、憲法のような扱いである。決まりを守ること、与えられた仕事をやり切ることは、当たり前である。それを守らず、やり切らないというのは、法を犯していることと同等であるというのが、絶正全体を通しての考えだ。つまり、悪とみなされるのだ。

 正義を貫かなければならない組織に属しながら、悪とみなされる行為をしていることに問題があるのではないだろうか、ということだ。

 松原翔里という一人を責めているわけではない。その現実があるということを放置し続けていた、絶正全体を責めているのだ。

 未だ口論を続けている彼らの言葉を遮るように、俺は言う。

「カリキュラムを改正しようというのが、俺の案だ。反対意見はないはずだ。それが最高で最善の解決策だ。詳しくは後日の部隊長会議で決めよう。俺はこれから別件があるので失礼する」

 席を立ち、部屋を出る。

 まだ、次の要件までの時間はあるのだが、この会議の必要性を感じなくなったことと、馬鹿みたいな言い争いに嫌気がさしたので、強制終了させた。

 全員揃うことが、何か物事を始めるための規則なのだ。

 俺はエレベーターに乗り、更に上の階へ向かう。二つ上に行ったところで降り、隣に設置されたエレベーターに乗り換える。その際に、一枚のカードをセンサーにかざす。このカードは絶正内での身分証のようなものである。セキュリティが解除され、エレベーターの扉が開く。そこから四階上に上がると、俺の目的地だ。

 あのエレベーターから上の階には、限られた極々一部の人間にしか行くことができない。絶正に属する戦士で、この場に入ることができるのは俺だけだ。

 この階にだけ窓が設置されており、他の階と比べるとかなり明るい。目を明るさに慣れさせながら、俺はとある部屋に向かう。

 総武管室の扉を軽くノックし、中に入る。そこには三十代くらいの男性が一人、奥の机に座っていた。

「失礼します。総武官、今日の任務についての報告に参りました。お時間、大丈夫でしょうか」

「――ライト君か。そこへ座って、今日のことを早く話してくれる?」

「はい。今日は、総武官より命ぜられた、裏切り者の排除を行いました」

 俺は、総武官に指されたソファに座る。そして、あの三名のこと、カリキュラム012に関すること、今日あったことを全て話した。総武官は無言でその話を聞いた。

 最後まで話終えると、総武官は立ち上がった。俺の方へ近づく。

「それだけ、か?」

「………………、はい。以上です」

 俺は目をそらす。

「そうか。わかった。カリキュラム012については、私も考えておく。明日には詳細を伝えよう。そのあとは君に頼んだよ。それから――」

「お手数おかけします。では、失礼します」

 強引に話を切り、俺は立ち上がる。総武官は何も言わない。

 そのまま総武官室を出て、早足で自室に戻る。

「クソッ」

 自室ドアの前でそういい、壁を殴った。気分が悪かった。ただ拳が痛いだけで、気分は晴れない。

 ため息をつきながら、俺は部屋の中に入った。

「邪魔してるよ」

 と、誰もいないはずの部屋は明るく、その中からは嬉々とした声が聞こえる。(せつ)の声だと一瞬で判断する。

 この気分の時に、三番目に会いたくない奴だ。

 中で何が起こっているのか大体予想できるが、そうであって欲しくないと、心のどこかで願う。だが、そうでない場合はないだろう。

 雪がいるであろう部屋に入ると案の定。

「まぁーきぃぃ! おっかえりぃ?」

「おかえりなさい!」

「あ、あぁ、そのぉ……」

「どーも、真輝さん」

 最悪なメンバーが揃っていた。

 例の絶世紅(たせくれない)と、守戸(まもと)すず、京華嵐(きょうからん)、神宮藍瑠可、それから城白(きしろ)雪がそこにいた。

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