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偽善HERO  作者: 城白
第1章 絶対正義組織
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正義ファイル2:拷問

 翌日。

 俺と(せつ)は地下室にいた。

 灰色の何もない部屋。あるのはたった一つの、大きな扉。鉄製の、人間の力では開けることのできない、大きな扉。

 そこに、三人の裏切り者が立つ。

 さっき、やっと自分の置かれる状況を理解したようで、各自、武器を構えている。皆、刀だった。

 特攻武隊の二名と、医療武隊の一名。それが今回の標的。

 内二名、特攻部隊の奴らの刀を持つ手は、がたがたと震えていた。

 それもそのはずだろう。なにせ、城白(きしろ)雪が目の前にいるのだから。

「な、なんで……。なぜ、武隊長(ぶたいちょう)がここに、いるのですか……? あ、あなたは、あの日……!」

 内一人が言う。

 雪の口が弧を描く。

「そーだったねぇ……、そんなことも、あったねぇ」

 雪は続ける。

「でもさぁ、俺は確かに死んだのかもしれない。表向きにはね。でも、それを知っているのは、知ってしまったのは、お前らだけなんだよ。そして、お前らはここで殺されるんだ。俺に。……それにしても、俺が武隊変わってから、まだ一年も経ってないんだねー」

「雪、喋りすぎだ」

 俺は言う。

「いーじゃん、こいつら死ぬんだから。俺が何を言おうと、その情報は漏れないよ。この場所を知るのは俺たち秘密武隊と、上官様たちだけだ。情報武隊に盗聴される心配もないだろ?」

「それはそうだが。俺が言っているのはそういうことじゃない。さっさと、殺せ」

「ったく、躊躇とかないの? 少なくとも俺は、元お仲間なんだから、ちょっとくらい感傷に浸ってもいいじゃん。どちらにしても、絶正(ぜっせい)を裏切った奴らを生かしておかないけどさ」

 わざとらしく頬を膨らませた雪に腹が立ったので、頭を叩く。

 いい加減真面目にやれ。

「はいはい、わかったよ」

 そういうと、雪は袖から一つのペンライトを取り出した。雪の武器だ。ペンライトとしても使える、爆弾。雪地震が火薬を調合し、作っている。体中に様々な爆弾を仕込んでいるので、あまり隣にいたくないというのが本音だ。

「ぶ、武隊長……! や、やめて、ください……! 俺は、俺たちは、何もしてない」

「……あっそ」

 栓を抜き、ペンライトを投げる。三人の中心に落ちると同時に、それは爆発した。大きさに反し、威力は大きい。

 膝から下が消滅し、血が流れる。だが、傷口は焼けているため、そこまで大量の血は流れていなかった。

「あ、あぁ……あ…………」

 意識は、ある。誰一人、まだ、死ねていない。

「……ひぃぃ、いぁあ、いだぁああぁ……ひぃ、ぃいいぁ」

 まだ、死なせていない。

 無様な声を荒らげ、泣き喚く彼らを、まだ殺さない。

「白、上出来だな。いつも感心させられる」

「これくらい、出来て当然。じゃ、次はライト、お前の番だ」

「任せろ」

 俺は釵爵(さいしゃく)を取り出す。

 双剣として作られたものだが、片方だけで十分だろう。

 まずは、医療武隊のやつからにしよう。

 俺は、うつ伏せの彼を足で仰向けにし、そいつの首に刀の先を向ける。

「――所属武隊、ナンバー、名前、コードネームを言え」

 まずは、今回の標的と間違っていないかを確認する。間違っていた場合もさようならだが、あっている場合はその先がある。

「い、あぁ、いぃ、ぃりょう武隊……な、なんぁあ、さん、じゅうご。…………あ、なぁぇ、は……、くにだ、と、うま……、は、ぐぁあ、ぁぃぎぁ」

 駄目か。

 まともに話せないのでは、生かしておく必要がない。

 だが、利用価値はある。

「――左と右、どちらがいい?」

 そう問う。

 彼は左と答えた。

「そうか、じゃあ、左から切り落としてやるよ」

 俺は彼の左手首に刃先をつける。ゆっくりと、肉に差し込む。

 悲鳴が聞こえるが、気にしない。

 どろどろと赤い血が流れ出す。空気に触れた血は、赤黒く変色しだす。鉄錆のような、嗅ぎ慣れた異臭。カツン、と骨に当たる。少し力を強めて、骨を砕く。その勢いで、左手首が切断される。

 自分の一部だったそれを見て、または、仲間の手首が切り落とされる様を見て、絶叫した。その場にいた裏切り者三名、揃って絶叫した。

 雪は耳をふさいで爆笑している。この状況を作り出した俺が言うのもなんだが、不謹慎すぎるだろうが。もっといたわってやれ。

「……次は、肘だ」

 次は肘から先を切り落とす。刃先を肌の上で滑らせ、別の痛みを味あわせてから、肘に向けて、刀を振り下ろす。骨の砕ける音と、勢いよく噴き出す血。その血が軍服の裾に飛んだ。

 続けて、左の肩。そして太ももの肉を裂く。膝から下は、雪の爆弾のせいであるはずもない。もうすでに、意識は遠のいているのか、切り落とした時に悲鳴が聞こえない。だが、俺は続ける。これは見せしめだ。それから、右半身も、切り落としていく。右手首、肘、肩、こちらも膝から下は雪の爆弾のせいで吹っ飛んでしまっているので、太ももを……。死んでいるのか、生きているのかもわからない、直視できないような有様になったが、最後に俺は首をはねた。ギロチンで首をはねるように、切り落とす。

 その首は、転がり、特攻武隊の二人の間で止まる。血まみれの、目を見開いている、首から下のない、先まで一緒に話し、生命活動を行っていたそれが。

「……ひ、い、ぃあ、嫌だ、ぁあ」

「これは罰だ。悪には罰が必要だ。正義は常に正しい。俺の行いは全て正義だ」

 ゆっくりと、二人に近寄る。

「こいつのように解体されたくなかったら、吐け。お前たちの全てを」

 俺は釵爵のもう片方を鞘から抜く。

 殺すことに関しては、片方で十分だ。大人数を相手取ることも多々ある。だが、今回のように、排除することを目的として大人数を相手取ることは極稀であり、拷問することは俺の専門でない。この手のことは、暗殺武隊や開発武隊の得意分野だ。

 つまり、面倒になってきただけという話だ。

 さて。

「率直に問う。なぜ裏切った」

 二人の間に入り、それぞれの右腕と左腕に刃先を置く。何かをしようとするものならば、切り落とす。

「と、問いの意味がわかりません」

 一人が言う。

「わかった。ならばもう少し簡単に問おう。なぜ、悪と定義される悪炎雨(レッドレイン)を、悪でないと言った? 何が根拠で、そのようなことが言えた?」

「…………あの反応は、通常のものです。ごくごく普通の反応をする人間でした。そんな人間が、悪なわけがないと――」

 首を、はねた。

 何を馬鹿なことを言っている。それが、悪炎雨だろう。

 大量の血が床に広がる。一面が赤。赤。紅。人間一つにこれほどの血が入っているのだと思うと、楽しくて仕方がない。

「うわあぁああぁあぁぁ、がぁっ、う、ぁあぁ、ぅぅうっぁあ、っ」

 残りの一人が、悲鳴を上げる。ショック死をしないだけで上出来だ。いい訓練を受けているのだと、感心したが、それだけだ。

「やだ、いやだよぉ、俺は、まだ……、ひ、ぃあ、いやだ、」

 泣き叫ぶ彼に、俺は問う。

 名前や武隊名は、もうどうでもいいだろう。どうせ殺すし、さっきのやつも聞きそびれた。

「お前にとって、『悪』とは一体何だ? お前にとって、『正義』とは一体何だ?」

「……ひ、ぃい、そ、それは……」

「お前にとっての絶対(ぜったい)正義組織(せいぎそしき)とはなんだ? お前にとっての悪炎雨とはなんだ?」

「…………」

 彼は黙る。答えにくい質問であることは、俺もわかっている。実際、俺もこの質問をされたとき、答えられずに何日も悩んだ。

「早く、答えたらどうだ?」

 だが彼は答えない。

 天井に向いている手のひらに、刀を刺した。

「あぁああああぁぁぁあァァあッ、いだいイだいイダいィ、」

 こうなることは予想できたが……。

 一人目を刺したあたりから、俺は疑問に思っていることがあった。

 そもそも絶正は、悪を排除するための組織であり、いつ、何があろうとも、その状況に瞬時に対応していかなければならない。そのために、特殊な訓練を受ける。特に医療武隊と特攻武隊。今回、偶然揃ったこのメンバーは、武隊の役柄上、必ずその訓練を受けているはずなのだ。どんな状況にも無関心、無頓着、例え自分の腕が切り落とされようと、足が飛ばされようと、戦い続けられる精神力を身に付ける訓練。特別カリキュラムコード:012というのが、その訓練の呼び名だ。

 医療武隊は、主に内部の医療を担当する。似たようなものに救出武隊というものがあるが、こちらは外部の医療の担当だ。医療武隊には、様々な姿のけが人、死人が送られる。はっきり言って、直視できるものはない。それを手当するため、処分するために相当な精神力が必要なのだ。

 特攻武隊は、戦時中のように機体に乗ったまま突っ込むということもあるという話も聞いているが、そうではなく、見なければならないからだ。真っ先に現場に向かい、どんな状況なのかを把握するために偵察する。その際に攻撃を受けたり、内蔵の飛び出た死体を見たり、相当頭が逝ってしまっている人道というものを踏み外した残念な人間とあったりと、普通の人間では耐えられないような現場を見る。確か、それを見るのが辛く、訓練を受けていた奴でさえも自殺してしまったという事実もあった。

 このカリキュラム012を受けてさえいれば、自分の一部がなくなろうと平常心を保てるほどの精神力が保てるはずなのである。

 不思議だ。

 いかにこの馬鹿どもが訓練をサボっていたかが伺える。こんな奴らを採用した上官も上官だ。

 この態度からも、絶正として正義に尽くすよりも、悪炎雨とともに悪事を働かせることのほうが重要だったということが伺える。ざまぁない。

「それで? もうそろそろ落ち着いてきただろう? 早く答えろ。考える時間も与えてやったろう?」

 しばらく待ったが、彼は何も言わなかった。

 彼は、動かない。

 まさかと思い、脈を確認する。

 肌はまだ温かいが、心臓は止まっているようだった。

 今まで黙って見ているだけだった雪が、俺の方に寄る。

「……死んだみたいだね。多分ショック死だよ。真輝(まき)ってさぁ、いつもよくやるよね。見てらんないし、聞いてらんない。お疲れ」

「あぁ。早く上の階へ戻ろう。鉄錆臭くて気分が悪い。有益な情報は零で、今回得たものはカリキュラム012をまともに受けていない奴がいるという事実のみ。お前の元部下はもやしだな」

「……ぷっ。ちょ、待って、待って真輝っ! 何、なんで急にギャグ言った! もやしって、もやしって何っ! 普通なら真輝は『お前の元部下はなってないな。雪、お前は何を教えていたんだ。キリッ』って感じで言うのに」

 急に爆笑されて戸惑う。何も面白いことを言ったつもりはないのだが……。

「あは、はははっ、だめだ、面白いっ! 真輝がギャグ言うとか珍しすぎるっ」

 イラッとくる。

 なぜこんなにも笑われなければならいないのだ。

 俺はしまいかけていた釵爵をもう一度鞘から抜いた。

「ごめんなさい」

 それを見た瞬間、雪は真顔に戻り、血だまりを避けて土下座した。土下座し慣れているのか妙に綺麗なフォームだった。

「いい。さっさと戻るぞ。俺はこのあと、武隊長(ぶたいちょう)会議(かいぎ)で今回のことを報告しなければならないんだ。馬鹿な茶番に付き合う気力はないぞ」

「はいはーい。ふっ……、ふふっ……くそっ、腹筋いてぇ……っ」

 雪は諦めよう。

 俺は分厚い扉のロックを外し、外に出る。目の前にエレベーターがあるので、それに乗る。このまま武隊長会議に向かうことにしよう。

 一人にされるのが怖いのが、雪が真顔でこちらに走ってくる。子供か。

 エレベーターの中では無言だった。

 雪は秘密武隊の武隊棟へ最短距離で行ける一八階で降りた。俺はもう少し上の階、二三階へ向かう。

 ドアが開き、廊下を少し進んだ先にあるのが武隊長会議のための会議室だ。赤と金で扉が飾り付けられている。それを開くと、中にはもう、全ての武隊長が揃っていた。部屋の中は西洋風で、どこぞの王族の部屋かと突っ込みたくなるような広さと、家具の種類。

「悪い。任務執行により遅れた。時間が押している、早く始めよう」

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