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襲いかかってきた獣の鼻っつらを蹴り飛ばして森に強制送還させてやる。

勿論、その顔面の骨を粉々にして、だが。

視界の端では委員長が獣を踵落としで叩きつけたあと、その頭を踏みつけたままその首の骨を蹴り砕いていた。

今回は二匹なのでお兄さんの出番はなーし。

獣が現れた時に反射的に抜いたのであろう剣を鞘に納めながら、お兄さんが驚いたように目を丸くした。

おっさんも同様に目を丸くしている。

その視線がちょっぴり愉快でかなーり不快だ。金取るぞコノヤロー。

しかしまあそんなことを言っている間も惜しいので、足をすすめる。


「ちょっと委員長、そんなところに死体があっちゃ次に通る人が困るだろー」

「知りませんよ、そんなこと」

「……あの、そんなバッサリ切られるとね、俺はとっても、悲しいです……」

「勝手に泣いてください」


相変わらず委員長はツン全開である。

とほりと肩を落としながら、とりあえず獣の死体を蹴り転がして脇へ退けておく。

ああ、ちなみに獣、獣と言っているが、これの名前はウェアルフというらしい。

このあたりで無差別に襲ってくるのは今まで襲ってきたウェアルフだけだというのがお兄さんの談。

しかしその生殖能力は高く、数が多い上にそこはかとなく強いために一般人だけでなく駆け出しの冒険者でも死ぬ者が多いとか。


「しかし驚いたな……。ウェアルフはその牙に毒を持つっていうのに、そんな軽装備で向かって怖くないのか?」


……まじか。

まさかの新情報に思わず既に見えなくなったウェアルフの死骸を振り返ってしまった。

ここでは周知の事実だったのだとしても、もう少し早く教えてもらいたかったなぁなんて。

勿論その牙に噛まれるという愚行を起こすわけもないけれど、心構えとして。

――ああ、お兄さんが嘘をついているかもしれないという選択肢は熟考した上でないと既に判断は下している。

それは当然のことながら信頼という不確かなもので判断を下したわけではない。

というか、今は追求されていないが、彼もこちらのことを疑っているのにどうやって信じろというのか。


「べっつにぃ。俺達が噛まれるなんて失態犯すはずがないんで!なー、委員長」

「当然です」

「……すげぇ自信だな」


あ、ちなみにいらんこと言いの藤堂がさっきから静かなのは、ダウン寸前だからだ。

お兄さんは俺達より結構厳しく、藤堂のペースに合わせて休憩をとっているわけにはいかないという方針でいっているのだ。

森の中で絶叫聞いて助けに行った甘ちゃんとはとても思えないほどに厳しい。

まあ、お兄さんとしてはおっさんがいれば護衛の仕事はこなせるわけだし。

俺達も目的地は同じってことはわかっているから、報酬は合流して渡せばいいだけだ。

けど俺としては情報源をみすみす逃すわけもないので、現在藤堂には頑張ってもらっているところなのだ。

そもそも俺達も藤堂のペースに合わせる必要もないんだけどね。

いやあ、しかしそれにしても藤堂が喋らないと楽でいい!

心なしか進む足取りも軽やかになるってもんだ。

一歩二歩と進んで、三歩目で再び森から出てきたウェアルフを蹴り飛ばした。

ああもう、あんまり目障りだと犬っころって呼ぶぞ!


「こうも犬、犬、犬、ばっかりだと猫が見たくなるなぁ……って、あ」

「どうした?」

「いやいや、なんでもありませーん。委員長もそんな目で見ないでってば、俺恥ずかしい」

「気持ち悪いです」

「……あの、だからもうちょっと優しくお願いします……俺ってばデリケートなの」

「気色悪いです」


うう、と歩調を緩めると、後ろのお兄さんに同情されたふうに肩を叩かれた。

お兄さんいい人ね、惚れちゃいそう…そっちの気はないけども。

そういえば委員長はちょっと猫に似てるよな、なんて思っただけなのに、こんなに傷つくことになろうとは……。

ああ、お兄さんはどっちかっていうと犬似かな。

俺は猫のが好きだけどなー。


お兄さんは口の端に苦笑を浮かべつつ、どこか呆れたふうにため息をこぼした。

んんん…、このお兄さんも中々読みにくいとこあるけど、――懐柔できた、かな?

でもま、まだ一応疑っとくか、と再び足を早めて委員長のちょっと後ろへ追いつくと、委員長が僅かに足をすすめるタイミングをずらして俺の隣に来る。

なになに、俺の隣が恋しかった感じ?気持ち悪いです。

俺、また撃沈。

まったくもー、そろそろデレを見せてくれてもいいんじゃないの?



そんな感じで掛け合いを重ねながらたどり着いたのは、ミシェイアと呼ばれる街だった。

……うーん、なんていうか。微妙な街?

いや、ちっさくも寂れてもいないんだけどさ。

大きいとも賑やかともいえないそんな感じの街なんだよね。

街っていうか、町?村とまではいかないけど。

けど、そんなところでもギルドってやつの支店はあるらしい。

あんまりぞろぞろ行くのもアレだしな、ってことで俺と委員長、藤堂は待機。

って言っても、ギルドのすぐ傍にある広場でだけど。

まあお互いにそれほど信頼があるわけでもないし?

牽制とか監視とか、そんな意味合いも兼ねているのだ。


しかしまあ、わざわざ目立つ場所に立っている必要もないわけだ。

お兄さん達が出てきたらわかるように、しかし周囲の人の目にはあまり止まらないように。

かといってあまりに隠れてます!って場所に居てもまずいからほどほどの位置に。

そんなベストポジションに移動して、少しだけ息をついた。


さてさて、どうする?委員長。

ちらりと藤堂に視線を滑らせてから委員長へとアイコンタクトを送ると、当然と言わんばかりの冷たい視線が藤堂を睨むように見た。

つまり委員長は藤堂とはこの街で別れたいらしい。

まあね、俺もその意見には賛成よ?

でも問題はどうやって、なんだよね。

どうやら此処ではギルドという存在によって連絡網ができているらしく、街から街へと離れた程度じゃすぐに誰がどこにいるかわかってしまう。

勿論、誰が何をしたのかもだ。

つまり探されないためにも、妙な噂が立たないためにも、後腐れなく別れる必要があるわけだ。


っていうか、ギルドの情報網ってなかなか魅力的だよね。

だって一つどころにいても色んな情報が手に入るんだよ?

けど商業ギルドと冒険者ギルドとでその情報に差があるとかなんとか…。

来る途中、お兄さんとおっさんが情報交換をしてたから、仲は悪くないんだろう。

まあ、上はどうなのかしらないけど。

多分お兄さんが冒険者ギルドで、おっさんが商業ギルドかな。

逆だったら笑えるわーなんて思いつつギルドの方を見ると、二つに分かれた入口の片方から、お兄さんとおっさんが出てきた。

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