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最後の一匹を男が斬り捨て、その息の根が完全に止まっていることを確認してカッターナイフをポケットへとしまう。

ギヂヂと刃を動かすカッターナイフの音を聞きながら、未だ地べたに腰をつけたままの二人に近寄った。

片方――もちろん、藤堂の方が、ようやく俺だということに気づいたのか、目を見開かせたあとに安堵の表情を浮かべた。

そんな反応に浮かんでしまうのは苦笑だ。

しかしまあ、あんな見目の悪い死体を目の前にしたというのに、随分とその反応が普通だ。

――あ、普通っていうのは俺達基準でのことね。

殺し合いも何もない、生温い世界で生きてきたらしい藤堂なら吐くなりなんなりするかと思ったけれど、先程まで青くしていた顔も今ではその名残があるだけで、何ら普通だ。

一回目はそういった反応はなかったが、それは混乱の最中にあったせいだろうと判断していたから、今度のこれは暴力の限りを尽くす俺達に怯えるかと思ったんだけどな。


「陸さん、壱さんも……!」


来てくれたんですね、藤堂が嬉しそうに笑う。

隣の男が君の知り合いかと尋ね、藤堂はそれにはい、と嬉しそうに返すのを聞きながら、どうやら言語は同じらしいと判断して口を開いた。

今までの間を考慮して、眉を吊り上げて少しばかり怒った声を意識して出す。


「お前なぁ……来てくれたのか、じゃないだろ。マジで一人で行くんじゃねぇよ。一人守るのと二人守るのとじゃ勝手が違うんだ。おかげでお前含めその人も、あの人だけじゃ無傷じゃ済まないとこだった」

「あ……、で、でも、無事でした、から」


幾度かあった危うい場面を思い出したのか、藤堂の顔色がさっと青くなりはしたが、それでも笑みが少し引きつった程度。

腰を抜かしていた割に、その顔はあまり恐怖で歪んではいなかった。

まるで、何かに絶対の信頼を置いているように。

自分が決して死ぬことはないと盲信してさえ見えるそのさまに、思わず眉根を寄せる。


(――……気色悪い)


生きていることが当然、命を奪われることなど決してないと言わんばかりのその態度が酷く気に障る。

「助けてくれてありがとうございます」と笑って告げる藤堂の顔に吐き気すら抱く。

けれど俺は、「しょうがねぇなぁ」と言葉を返す。

ため息をついて、苦笑を零して。

何でもないような顔をして、委員長のもとへと踵を返した。


委員長の足元で腰を下ろした俺を、委員長はちらりと見下ろしただけで何も言わずに視線を逸らした。

その視線が一瞬未だポケットに突っ込んだままの腕に向いたのは気のせいではないだろう。

経験が浅いのか、委員長はちょくちょく甘い部分が出る。

視線然り、行動然り。

戦闘の方は全然方向性が違うために分からない。

俺は力押しなのに対し、恐らく委員長は小技で攻めるタイプだ。

攻めるというより、受け流す過程で攻撃する、という感じか。

カウンタータイプと言えるのかもしれない。

もう一人のお人好しである剣を使うあの男はどちらかといえば俺寄りのタイプ。

けれど技能もある程度は兼ね備えているようだし、経験もそれなりにあるようだった。

先程はお荷物がいた為に正確なところは分からないが、委員長と一対一の真正面からのガチンコ勝負だったら委員長が力押しで負ける、か?っていうレベルの人間だろう。

委員長が弱いっていうわけじゃなくて、それだけ男が強いっていうことだ。

――正々堂々を約束した勝負なら、ね。

勿論、手段を問わずに戦うのであれば委員長に勝るとも劣らない俺が負けるわけがない。

これは過信ではなく真実である。

正々堂々という場においても負ける気はないのだが。

そんな物騒なことを考えていることを悟らせる訳もなく、俺は近づいてくる男に立ち上がって笑顔で出迎える。

その背後には残り二人も引っ付いてきていた。

ちなみに委員長には笑顔も足りないと思う、と隣の仏頂面を浮かべたままの委員長にちょっぴり苦笑。


「よお、さっきはお前らのおかげで助かったぜ。戦い慣れてるみてぇだが……お前ら、ギルドに属してねぇんだな」


それともギルドの証を表につけていないだけで持ってるのか?

男の瞳の奥にあるのは懐疑の色。

ギルド。

それは俺も知らぬ存在だけれど、何やら大きな組織だというのは男の言葉からわかった。

おそらくそれをなんだと問えば、男からの懐疑の色はさらに濃くなることだろう。


「あの、……ギルドって、なんですか?」


しかしまあ、そんな俺の思考をお構いなしにぶった切って藤堂が男に尋ねた。

……ああそうだよね、やっぱりそうくるよね!

期待を裏切らない藤堂にしょんぼりだ。

案の定懐疑の色を強くした男が、視線を鋭くして藤堂を見返した。

今にも藤堂に詰め寄って詰問しそうな男と藤堂の間にしょうがなく入り、どうどう、と二人を引き離す。

いや別にお前を助けたわけじゃないからそこで嬉しそうな顔しないでよ藤堂、お兄さんも厳しい顔しないの、とは口にはしない。

いくら俺でも軽口を所構わず吐くわけじゃないってね。


「一先ずここから離れましょーよ。折角全滅させたのにまた近寄ってきたんじゃキリがない」


男は僅かに逡巡したあと、獣達の死体ともう一人の男を見て、ゆっくりと頷いた。





あっさりと森を抜け、明らかに整備された道を進む。

森沿いに敷かれたこの道は、おそらく森を迂回するようにぐるりと続いているのだろう。

時折森からはぐれた獣が飛び出してくるが、まあそんなものは暇つぶしにもならない。

だが、男はもうひとりの男……いい加減紛らわしいな、強い方をお兄さん、弱い方をおっさんと呼ぶことにしよう。

とりあえず、おっさんとお兄さんは交渉をして、お兄さんがおっさんを次の街まで護衛をすることになったという。

その報酬を少しだけど貢献した俺たちにも分配してくれるっていう、なんともラッキーな話。

ま、そのぶん追求されると思うけどね。

ああちなみに、お兄さんとおっさんという呼び方の分類はしているが、多分年齢的二人とも二十代前半のお兄さんと二十代後半のおっさんとでそう離れていないと思う。

ただ、お兄さんは鍛えていて凄い身体してるが、おっさんはちょっと小太りなせいで若干老けて見えるという違いがあるだけで。


「っていうかさー、おっさ……おじさ、いや商人風のお兄さんはどうして森の中通ったわけ?ああいう危険があるって分からなかったわけじゃあるまいし」


こういった年代の人は呼び方にくくるということを俺は知っているから、きちんと言い直した。

ただその努力も虚しくほとんど誤魔化せなかったけど。

商人風のお兄さん基おっさんは少し肩を落として「おっさん……おじさん……」と項垂れた。

そんなことより早く答えて欲しい。


「いや……、あの森を通り抜けるとミシェイアへ行くための近道になるんだよ」

「でも、命あっての物種っしょ?それとも急ぐ理由でもあった?」

「あ、ああ、ちょっとね」


ミシェイア、それがこれから行く街の名前なのだろうか。

首の後ろを掻きながら笑みを浮かべるおっさんを見ながら、「ふぅん、」と呟いた。


(――……嘘つくのが下手な奴)


まったく、これで騙されたと思われるのが腹ただしい。

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